やっぱり青雲

かたかや

やっぱり青雲

 墓が踊りだした。


「うおおお! 止まれええええええ」


 先祖代々受け継いできたものだからバカでかい。

 周りの墓石をバッタバッタとなぎ倒す。

 いちごの匂いのする線香を供えたのがいけなかったのだろうか。

 いくらやめろと声をかけてもまったくやめる気配がない。

 墓地全体の墓の半分を倒したあたりから俺はこの場から逃げることばかり考え始めている。

 そうとなれば表情を作らなければ。

 いかにも「他人ですよー」といった表情で轟音響くこの墓地から逃げ出したい。

 いや無理だ。音に気づいた周辺住民が集まってきている。

 俺の顔も見られているしなにより踊る墓石にご丁寧にも名前が掘られているではないか。

 きっと警察からも職務質問されるだろう。

 母親が電話に出て最初は高い声で応対してたのにはい、はい、はい……と段々声が低くなっていくのが容易に想像できる。

 一体なんの恨みがあって踊っているんだ。

 ついにバク宙まで決め始めた。

 墓石の屍の上でムーンウォークを決める我が家の墓石。

 何が訴えたいのか。そもそも暴れているのは先祖だろうか、それとも墓石そのものであろうか。

 もしかするとそうかもしれん。暴れているのは石だ。

 変なジジイババアの骨の上にドーンと置かれて定期的に変な植物を供えたり水をぶっかけられたりいちごの匂いのする線香を供えられたりしたら俺もなんとなくキレて踊り出すかもしれない。

 今こそ墓石に謝ろう。


「すまんこって! すまんこって墓石よぉ!」


 プリティ・ウーマンに合わせて踊る墓石に向かって土下座をする。

 五体投地。

 墓石はその妖艶な腰振りを止め俺に向かって言った。


「線香はやっぱり青雲」

 

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やっぱり青雲 かたかや @katakaya

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