第6章、「なんか長いエピソードばかり続いたので、しばらくは一話完結にしたいと思います♡」(順不同)

第36話、やっぱ『雪山症候群』と言えば、朝比奈さんとの妄想ムフフシーンでしょう♡

 どなた様もご機嫌いかがでしょうか、皆様の他称『キョン』でございます。


 ──ついにやって参りました、『雪山症候群』回です!


 誠に突然ですが、実は現在すでに例の『謎の館に絶賛閉じ込められ中!』なんですけど、このシーンにおける『空白の数時間』の正体については、『エンドレスエイト』回等においていずみから微に入り細に入り蘊蓄解説をされているので、NOプロブレム!


 またぞろ毎度お馴染みの、量子論と集合的無意識論のご登場ってわけですよ。


 ──それも傑作なことに、原典オリジナルにおける古泉のハルヒに対する、「あれはいわゆる集団催眠状態的な、わずか一瞬の出来事に過ぎなかったのですよ」なる『ごまかしダミー回答』こそが、何と現代物理学&ユング心理学的には大正解だったりします♡


 つまり『エンドレスエイト』や『消失』その他の各超常イベントの際と同様で、俺たちは別に本当に謎の館に囚われるどころか、そもそも猛吹雪に見舞われること自体が無く、ただ単に集合的無意識を介して『突然猛吹雪に見舞われて、謎の館に緊急避難したところ、そのまま閉じ込められてしまった』という、まさしく原典オリジナルの『雪山症候群』の登場人物オレタチそのままの『記憶』をインストールされただけであって、物理ゲンジツ的には『雪山症候群』のような出来事は一切起こっておらず、すべての騒ぎが済んでしまった時点からすれば、あたかもそのような夢を見た『記憶』が残っているだけといった次第なのです。

 もちろんそんな神業的なことをやってのけたのは、こちらもすっかりお馴染みの『夢の主体』の象徴シンボル的な力の持ち主と思われ、原典オリジナルによれば天蓋領域とやらの関係者らしいとのことだったが、つまりはハルヒや『消失』の際のなが同等の力を持っているわけで、けして侮るわけにはいかないだろう。

 何せ現在のこの状況は実のところは、まったく時間の経過していない文字通り一瞬の出来事であって、極論すれば『脳みそが錯覚を起こしている』だけのようなものでしかなく、実時間的には快晴のスキー場において何事も無く過ごしているだけなのだから。


 とはいえ、このまま何もしないでもすべては勝手に解決してくれて、無事に現在の状況から解放されるかと言うと、そうは問屋は卸さなかった。


 それというのも、たとえこれが脳みそにおける錯覚であろうとも、原典オリジナルのように仮想現実的空間であろうとも、まさしくその原典オリジナルそのままに何らかの『脱出プログラム』を講じない限りは、この言わば『精神的迷宮』から逃れられることは叶わないのだ。


 なぜなら『今ここにいる俺』たちは、けして原典オリジナルで述べられているような『仮想現実的空間における仮人格』なぞではなく、あくまでも、『本物の俺』たちなのだから。


 これまた何度も言うように、集合的無意識に集まってくる『記憶』はすべて『本物』なのであって、普段の『涼宮ハルヒの憂鬱』の世界以外のどこか別の世界においては、本当に物理的に『スキー場で突然猛吹雪に見舞われたあげく謎の館に囚われてしまった俺』たちもちゃんと存在しているのだ。


 ──ということは更に極論を重ねて逆説的に言えば、むしろ俺は元々『スキー場で突然猛吹雪に見舞われたあげく謎の館に囚われてしまった俺』だったのであり、集合的無意識を介して『最初から最後まで快晴のスキー場において何事も無く過ごした俺』の『記憶』をインストールされているだけといった可能性も十分あり得るのである。


 ……そういうわけで、すでにからくりは知れているとはいえ、だからといって無為に安穏としているわけにはいかず、すぐにでも『脱出プログラム』の解明に励むべきであろうが、オイラーだかオレサマだかソレガシだか知らないが、小難しそうな数式についてはむしろ嬉々として解決に取り組んでくれるであろう、理数クラスの秀才くんに全面的にお任せすることにしよう。


 それよりも、『雪山症候群』と言えば、蘊蓄解説とか謎解きとか脱出プログラムなんかよりも、『アレ』ですよ、『アレ』!


 ──そう。いきなり前後の脈絡もなくおっぱじまる、『あささんとの妄想タイム♡』ですよ‼


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 体感時間の上ではおよそ半日以上も完全に閉ざされた謎の館の中に閉じ込められ続けていたために、もはや他にすることもなくなり、SOS団メンバー全員がおのおの個室にて就寝してから、早一時間。


 ────まだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだか。


 一応ベッドに横たわりながらも、当然のごとく俺ときたら、まんじりとすることもなかった。


 高鳴る、鼓動。

 抑えることなどできない、荒い息づかい。

 血走った、まなこ

 そして、部屋の入り口一点へと集中する、全神経。


 ──やったるでえ!


 何の遠慮が、いるものか!

 何せそもそもこの『雪山症候群』自体が妄想のようなものなのに、そのまた妄想シーンの始まりなのである!

 しかも相手は何と、『あささん』ときたもんだ!

 もはや今ここにいるのは、ぬるいSF的ラノベの語り手なんかではなく、


 ──まさしく、一匹のオスなのだあ!!!!!


 よって、お約束の『寸止め』なぞ、必要なし!

 リミッター外して、イキまっせー!

 さっきキッチンの大型業務用冷蔵庫をあさったら、栄養ドリンクが山ほど出てきたから、にも準備万端OKだしね♡

 ──さあ、来い!


 しかしすでに十分以上も熱き視線を入り口へと注ぎ続けているというのに、今のところ誰かが訪れるような気配はまったくなかった。


 ………………………………あれ? ちょっと待てよ。

 そういえば原典オリジナルでの『朝比奈さん』は、普通に入り口から入ってきたんじゃなく、こちらがうとうとしていた隙に、音も無く忽然と現れたんだっけ。

 ──い、いかん。こうやって意識をはっきりさせて待ち構えていたんじゃ、むしろいつまでたっても、肝心の『妄想朝比奈さん』が来てくれないかも知れないじゃないか⁉

 しまった、栄養ドリンクなんて、飲むんじゃなかった。

 これじゃ目が冴えてしまって、うとうとなんかできないぞ。

 そのように今更ながらに、俺が内心で焦りまくっていた、

 ──まさに、その時。


 ノブが回されるかすかな音とともに、ゆっくりと開かれていく扉。


 照明が一切点いていない暗闇の中で、更に廊下のほのかな明かりによって逆光となってしまって、完全に顔立ちが判別できない何者かが、ひっそりとたたずんでいた。

 ただしその小柄で華奢な肢体は、紛れもなく女性──しかも少女であることを、如実に窺わせた。

 しかも特に目を惹くのは、薄明かりの中で揺れている、長い髪の毛で──。


 うおっ、やった! あの髪の長さはもう、朝比奈さんで決定でしょう!


 そうと決まれば、後はタイミングをはかるのみ!

 俺は慌ててベッドの中で、寝たふりを決め込んだ。

 ……せっかく来てくれたのに、余計な警戒心を与えて逃げられたんじゃ、台無しだからな。ぐへへへへ。

 案の定こっちが眠っているものと思って物音一つ立てずに、抜き足差し足忍び足で迫ってくる矮躯。

 ──おおっ、しかも期待通りに、裸ワイシャツじゃん!

 薄目を開けて、まずは肝心な点を確認するや、折良く『妄想朝比奈さん』が、ベッドのすぐ手前にたどり着いた。

 ……ごくり。

 そしておもむろに、ベッドへと這い上がってきて──


「あっさひっなさーん! いただきま〜す♡」


 いきなり身を起こし、朝比奈さんゴチソウに向かってガバリと抱きつく、狸寝入り少年。

「きゃっ⁉」

 あまりに突然のことで、妄想的存在とはいえ驚きが勝ったのか、短い悲鳴とともに思いの外強い力で突き飛ばされて、ベッドの奥の壁に頭を打ち付けてしまう。

「いてっ! あ、朝比奈さんたら、ある意味俺の欲望の具現のようなもののくせに、そんなにあからさまに拒絶なさるなんて、ひどいじゃないですかあ!」

 たまらず愚痴なぞこぼしながら、とにもかくにも照明のスイッチを点けてみれば、

「………………………………へ」

「あっ」

 そこにいたのは確かに、小柄で華奢な肢体にワイシャツのみをまとった、髪の長い少女であったが、けして朝比奈さんではなく「──って、おまえ、ようじゃないか⁉」


 そうなのである、煌々と輝く照明のもと、ベッドの上でぺたりと尻餅をついて座り込んで、白皙の顔を真っ赤に染め上げていたのは、人呼んで天蓋領域が遣わした対情報統合思念体用ヒューマノイド・インターフェース、おう九曜嬢であった。


「な、何でおまえが、今ここでいきなり登場してくるんだ? 時系列的におかしいんじゃないのか⁉」

 こいつの初登場は『分裂』であって、今回は『暴走』収録のエピソードだしな。

「……この二次創作で、時系列がどうしたとか、今更言われても」

「うっ」

 ……そういや、そうだった。

 だいたいがこの二次創作の作者の気まぐれによって、扱うエピソードが夏の『エンドレスエイト』から冬の『消失』に一気に飛んだかと思ったら、今度は前後関係を逆転させて『ワンダリング・シャドウ』から『陰謀』へと続いたりして、完全に時系列というものを無視してきたからな。

「いや、でも、第一この『雪山症候群』自体に、おまえが登場する必要性が、まったくないだろうが⁉」

「そんなこと、ないわ」

「へ?」


「そもそも集合的無意識を通じて、ただ単に快晴のスキー場にいただけのあなたたちに、この『雪山症候群』の『記憶』をインストールしたのは、この私だもの」


 ──あ。そ、そういえば、まさにさっき言っていた、『天蓋領域の関係者で夢の主体の象徴シンボルの力を持つ者』に該当する『涼宮ハルヒの憂鬱』の登場人物キャラクターって、こいつ以外にはいなかったっけ。

「するとおまえって、ハルヒや『消失』のながみたいに、あくまでも精神面限定とはいえ、この世界を改変する力を持っているってわけか?」

「……今更驚く必要はないでしょう? あなた自身だって自作で創り出した異世界限定とはいえ、文字通り世界をことができる、『作者』としての力を持っているじゃない」

「そ、そりゃ、そうだけどよう……」

 生憎こっちは、この現実世界そのものを書き換えることだけは、堅く禁じられているけどな。

「……いやまあ、おまえがこの『雪山症候群』の仕掛け人であることはわかったけど、それが何でこの妄想シーンにおいてよりによって、俺のところに現れたりするんだ?」

 せっかく『妄想朝比奈さん』とのムフフシーンを、あれほど楽しみにしていたのによ。

 そのようにいまだ未練たらたらの繰り言を、胸中でこぼしていたところ、


「だって私、もうけしてって、決めたから!」


「──お、おいっ⁉」

 何だか意味深な『決意の言葉』とともに、今度は自分から俺へと抱きついてくる、ヒューマノイド・インターフェースの少女。

「な、何だよ、もう間違わないって。以前何かを、間違えたわけなのか?」

「ええ、間違えたわ。──あなたと、たにぐちくんを」

 ………………………………あー。

 それって結構、トラウマになっているんだよねえ。

 何で文字通り全知そのままの力を有する宇宙人が、俺と谷口なんかを間違うんだよ。

 ……やはり、他人から見たら俺たちって、同程度レベル人間キャラてことなのかなあ。


 ──なんて、愚痴っている場合じゃねえ!


「いやいやいや、そもそも何でおまえのような大宇宙の超情報生命体の使者が、俺なんかに用があるわけなんだよ⁉」

 そんな俺の今更ながらの根本的な疑問に、うつむいたままためらいがちに答えが返されてくる。

「……私も欲しいの、──あの、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースのように」

 対有機生命体ほにゃらら用ほにゃららって、確か、長門のことだっけ。

「欲しいって、何をだよ?」

 そう問いかけるや、俺のほうに向かってようやく顔を振り上げる、腕の中の少女。

 眦決した、強い意志に煌めく、黒曜石の瞳。


「──心、よ」


 え。

「こ、心って……」

「私たちは本来、情報伝達手段が異なる領域の存在同士が意思の疎通をはかるために生み出された、いわゆる『通訳マシン』に過ぎず、それ故『心』などといったは備わっていなかったの。なのに同じ通訳マシンでありながら、長門有稀には心が芽生えたわ!」

 ──っ。

「ちょうど私がこの惑星に到着した時、あなたたちの言うところの『消失』騒動が始まるところだった。そんな中、私にとっての最優先の意思疎通の対象である長門有稀を観察していれば、何と彼女は自分の意志で、最大の禁忌である世界の改変に手を染めたじゃない。──そう。彼女はその瞬間、個人としての自律的欲望という名の『心』に目覚めたの。──そしてその欲望こころの向かう先は、まさしくあなただった」

 うっ。


「よってそれから以降はあなたも最重要観察対象とすることにして、詳細に分析を行っていたところ、縁あって異世界ゆめのせかいにおいて我々にとっての『女神』である佐々木ささき某を目覚めさせるという目的が合致したために、その他未来人や超能力者をも交えてパーティを組むことになり、ごく身近で行動を共にしていくことで、ついに私は確信したの、──あなたと一定以上の親しい関係を結ぶことさえ為し得れば、私や長門有稀のような本来心を持たない通訳マシンであろうと、心を芽生えさせることができるようになると!」


 そう高らかに言い放つ少女の瞳は確かに、尽きせぬ渇望の色がありありと見て取れた。

 ……俺がこいつや長門に、心を与えることができるだと?

 それが本当なら、俺は何だかわけがわからないままに、馬鹿げた優越感に浸ったりするところであったろうが、そもそも話は根本から間違っていたのだ。

「……悪いけど、俺にはおまえに心を芽生えさせることなんて、絶対に不可能だよ」

「──っ。長門有稀には与えることができて、私にはできないと言うの⁉」

「いいや、俺は長門にだって、心を与えてはいやしないんだ」

「はあ?」


「だっておまえらは、最初からちゃんと、心を持っているじゃないか?」


「──⁉」

 それは彼女にとってはあまりにも予想外の言葉であったのか、あの九曜が心底呆けた顔をさらして、完全に言葉を失ってしまった。

「何が自分は単なる通訳マシンだから、心が無いだ? 馬鹿なことを言うんじゃない! そもそも『心を欲しい』って思うこと自体が、ちゃんと人並みにおまえの言うところの、『欲望という名の心』があるってことじゃないか?」

「あ」

「それにあくまでも創られた小説ユメという名の世界に過ぎないとはいえ、俺は異世界においておまえとパーティを組んで、同じ仲間として何度も言葉を交わし合ったり、数々のクエストにおいて何度も助けたり助けられたりしたけれど、まさかおまえはそこにまったく、『交流』が無かったとでも言うつもりなのかよ⁉」

「──‼」

 あくまでも俺からしてみればただ単に今更ながらの言葉を投げかけただけのつもりであったが、あたかも深遠なる事実に初めて思い当たったかのように、まさしくこの上もなき驚愕の表情となる、自称地球外知性の人型イントルーダーの少女。

「……それじゃ……それじゃ……私は、最初から心の無い通訳マシンなんかじゃ、なかったということなの?」

 それでもいまだ自信なさげににおずおずと確認してくるものだから、俺はことさら力強く断言する。

「おう、おまえは初めっから俺にとっては、異世界における頼れる仲間であり、この現実世界においても、少々引っ込み思案なだよ!」

「なっ⁉」

 そんな俺の心からの言葉を聞くや、顔を真っ赤に染め上げる、まさしくただのお年頃の女の子。


 しかしそれは次第に、笑顔へと変わっていく。


 そうそれは、自分には心が無いなどと勘違いも甚だしいことを思い込んでいた、悲しい少女が初めて見せてくれた、文字通りの会心の笑みであった。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「……そうしてあなたはまたしても、新たなるハーレム要員を、増やされたわけなんですね?」


 俺の『閉ざされた密室におけるようとの壮絶な心理戦』(たった今命名)の甲斐もあって、見事謎の館からの脱出に成功した後で、その経過の一部始終を聞かされた超能力少年は、いかにもあきれ果てたかのようにして、深々とため息をついた。


「い、いやだなあ、いずみ、新たなるハーレム要員だなんて、そんなまさかあ」

 ここに至ってはただひたすら、乾いた愛想笑いを浮かべるしかない俺であった。

「何をおとぼけになられているのですか、右腕にをくっつけながら」

「おいおい、に対して、『そんなもの』はないだろう? 古泉とあろう者が、フェミニスト失格だぞお」

 そうなのである、俺の右腕には先刻の密室での心理戦以来、この快晴のスキー場のど真ん中にありながらいまだ裸ワイシャツ一枚っきりの、おう九曜嬢がしがみつかれているのでした。

 ……古泉はもちろん、他のSOS団の女性メンバー全員が、先程からやけに冷ややかなる視線を向けておられるのですが、物理的に痛み感じるまでに非常に心に突き刺さるんですけど。

「いやいや、俺としてはあくまでも、おまえから何度も聞かされたように、単に集合的無意識にアクセスすることで『宇宙人の記憶』を己の脳みそにインストールしてしまった、が、すっかり自分のことを、『己の属する陣営とは別の知的生命体に対する通訳マシン的ヒューマノイド・インターフェース』と思い込んでしまっているのに対して、当然のごとくちゃんと最初から心を持っていることをだけという、ごく普通のことをしただけじゃないか?」

「……まったくもう、あなたというお人は。だからそもそも、『前提条件』が違うわけなんですよ!」

「へ。前提条件、って?」


「本気で自分のことを宇宙人だと思い込んでしまうような妄想状態──つまりは『逃避』に走ってしまったということは、それだけ実生活において辛い思いをしてきたってわけなんですよ、──それこそ、ほどにね」


 ──っ。

「そこに来ていきなり、しかも力押しで有無を言わさず、『馬鹿言うんじゃない、おまえには確かに心はあるんだ!』なんて、面と向かって言われたとしたら、どうなると思います? ただでさえ何かと妄想に逃避がちで繊細極まる女の子なんて、一発で堕ちてしまいますよ!」

「お、堕ちてしまうって──」

「もちろん、栄えある『キョン♡ハーレム団』にね! ──いやもう、あなたはこれだけ超常の力を有するヒロインばかりを集めて、一体何をしようというのですか⁉」

 もはやマジギレ気味に、食ってかかってくる古泉少年。

 ……いや、俺としてもただ単に、悲しみに暮れている女の子を見てられなくて、何とか励まそうとしてだけで、別に堕とそうとなんか思っていなかったんですけど⁉

 それにそもそも、謎の閉鎖空間に閉じ込められてしまうといった異常事態を見事に解決してやったというのに、おまえらもう少し俺に対して労をねぎらってくれても、別に罰は当たらないだろうが⁉


 そのように胸中において、盛大に不満を募らせるばかりの俺であったが、


 まさか前回の鶴屋姉妹ツインズに続いて、今回同じく『夢の主体』の象徴シンボルの力を有する九曜までも昵懇の関係に持ち込んだことこそが、さほど遠くない将来に訪れるであろう『最終局面ファイナルステージ』に対する重大なる布石であったことを、この時はまだまったく気づけないでいたのであった。

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