第25話
「──いやあ、すみませんねえ。ほんと、助かりましたよ〜」
いかにも申し訳なさそうな口ぶりでへこへこと頭を下げつつも、いつもながらの人を食った笑みをへらへらと浮かべている、自称超能力少年と自称宇宙人少女との名実共に『犯罪者予備軍』の二人を前にして、俺は苦虫を噛み潰した表情を隠そうともしなかった。
文芸部室兼SOS団のたまり場にて、何と
何と彼は
……そりゃあ一日中、運動会を開催中の幼稚園の周辺をうろつき続けて、隙あらばインスタしようとしていれば、おまわりさんの職質だって受けようってもんだろうよ。
もちろん俺自身も未成年であるから、身元引受人なんかになれないんだけど、お袋に頼み込んだところ二つ返事で引き受けてくれて、警察のほうもすぐさま二人を解放してくれたのであった。
その両方共に、俺と一緒にいた、鶴屋さんの存在が大きく影響していたのは、言うまでもないだろう。
なぜなら鶴屋家こそ、この地方において最大の影響力を誇る旧家であり、何よりも我が家にとっては、すでに絶縁状態にあるとはいえ、本来なら本家筋に当たるのだから。
警察署での用件が済むや、是非とも鶴屋さんを我が家にお連れするように提案したお袋であったが、こちらとしてはその前に確認しなければならないことが多々あるので、一応のところ辞退した。
すでに古泉のほうも、俺が鶴屋さんと行動を共にしているというめったにない
特にこの鶴屋さんときたら自分のことを、『八日だけ未来から来た
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──いやあ、
俺とほぼ同時に勝手知ったるリビングのこたつに入り込むや、いかにも待ちかねていたかのように開口一番心からの歓喜の声を上げる、蘊蓄の鬼の少年。
……いやだから、いかにもメタっぽい言い回しは厳に慎んでくれって、何度も言っているだろうが!
毎度お馴染みの駅前の高級マンションの708号室──すなわち、
確かにオートロックを始めセキュリティシステムが完備されているここならば、部外者の耳目を気にすることなくじっくり密談に及ぶには、この上もなく格好な場所と言えた。
ちなみにこの部屋の
「……ちょっと待て、その特大4Kモニター内を所狭しと跳ね回っている、体操着姿の幼女たちは、もしかして──」
「もちろん、今日の戦利品」
「何で! スマホに撮り溜めていた盗撮データはすべて、警察に没収されたんじゃなかったのか⁉」
「こんなこともあろうかと、プロダイバのクラウドサービスを使って、こまめにバックアップをとっていたの。──ふっ、備えあれば憂いなしとは、このことよね」
そう言って、ニヒルにほくそ笑む、長門さん。
だからおまえは、
「……いいなあ。後で僕の携帯端末にも、コピーさせてくださいね?」
「わかった」
古泉もそんなことどうでもいいから、さっさと蘊蓄解説を始めろ!
ほら、自称『八日後の朝比奈さん』の
「……キョンくん、この人たちって」
「ああ、社会のクズですよ。できるだけ近づかないように」
こんなふうに鶴屋さんの顔かたちをしていながら、朝比奈さんそのものの言動をするものだから、どうにも調子が狂ってしまうんだよな。
「ひどいなあ、面と向かってクズだなんて」
「心配無用、現在の我々はまったく無害」
「そうですよ、いつものロリィな朝比奈さんならともかく」
「残念ながら鶴屋家の御令嬢は、対象外」
何が残念だ、むしろ外見だけでも鶴屋さんでいて、朝比奈さんにとってはラッキーだよ!
いや待てよ、これっていつもの朝比奈さんなら襲うこともあり得るという、犯行予告じゃないのか?
「……それで、これは一体、どういう状況なんだ? いきなり鶴屋さんが朝比奈さんを自称し始めるのもアレだが、どうして鶴屋さんが二人も出てくるんだ?」
しびれを切らせてそう問いかければ、いかにも思わせぶりな笑みを浮かべて、その秘密機関所属の少年は、こちらの心臓を容赦なく射抜くような台詞を言い放つ。
「──おや、他ならぬあなたが、それをお聞きになりますか? 元々鶴屋さんは双子なんだから、二人いたっておかしくはないでしょうが?」
──っ。
「……やはり、知っていたのか」
「ええ。何度も申しているように、
それにしてもこれって、我が国が誇る名家中の名家である鶴屋家にとっての、極秘中の極秘事項なんだぞ⁉
「そんなに不審がられないでも、いいではありませんか? 何せあなたのお陰で『くだんの娘』が完全に部外秘ではなくなった期間が、極わずかとはいえ存在しているからして、情報も漏れるといったものですよ」
なっ⁉
「そんなことまで、掴んでいたとはな。……さすがは『企業』、お見それしたぜ」
「もう、突っ込みませんからね!」
いかん、このネタでいじるの、ちょっとしつこすぎたか。
「まあ、『くだんの娘』とはいえ巫女には変わりないのだから、
は?
「千代様って、この子がか?
「万桜さんというのは、普段僕らが『鶴屋さん』とお呼びしているほうのお方でしょうが? そちらのほうは確かに本物の朝比奈さんを伴って、SOS団のたまり場に怒鳴り込んでこられたのでしょう?」
「あ、うん、そう言われれば、そうだったけど……」
「? 何かご不審な点でも?」
「いや、その、これについては確証はないから、別にいいんだが、それにしても、いくら何でも一度は自由の身にしたことがあるとはいえ、あの鶴屋本家が他でもない『くだんの娘』を、屋敷の外に解放したりするものかねえ……」
「案外今頃御本家を上げて、大騒ぎをしているのかも知れませんよ? ──さて、どうします?」
「ど、どうするって?」
「何せかつて『くだんの娘』を自由にしてやろうと本家に反旗を翻して、あわや一族を没落の一歩手前にまで追い込んだ、今では絶縁中の分家の人間が、今度は勝手に屋敷の外に連れ出したとでも誤解されたりしたら、どんな目に遭わされるかわかったものじゃないでしょうよ」
「──うっ」
た、確かに、今の状況だけを見ると、そう思われても仕方ないよな。
いやいやいや、すでに骨身にしみているんだが、異能を誇る歴史ある旧家を怒らせることほど、やっかい極まりないことはないぞ!
今度こそ社会的生命を抹殺されるか、下手すれば俺自身も座敷牢に幽閉されたりして。
「ど、どうしよう、古泉!」
「あはははは、その言葉を待っていたんですよ。──ご安心ください、ちゃんと方策はございますから」
「おおっ、本当か⁉」
すがりつくようにしてまくし立てる俺へと向かって、その蘊蓄大好き超能力者は、いかにも満を持したようにして言い放った。
「とは言っても、いつも通りのことをするだけですけどね。要するに、なぜ千代さんがいきなり朝比奈さんになりきってしまったのか、その論理的原因を完全に解き明かし、しかる後に異常なる状態を解除して差し上げればいいのです」
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