第8話
「……まあ、話としては、わからないでもない………………というか、正直いまだに、話の半分も理解できていないんだけど、何よりも肝心の『
長い長い長ーい、それはそれは長すぎる、下手したしら永遠に続くかと思われた蘊蓄解説が一段落するや、俺はたまりかねて疑問の声を上げた。
「それこそ申した通り、あなた方はその辺の未来人や宇宙人とは段違いの、まさしく『神様』そのままの力を誇る、世界そのものを歪めることなぞお茶の子さいさいの存在であられるからですよ。──それで、どうしてそんな力をお二人がお持ちかと言うと、まあ、あなたに関しては今回の話の本筋とは直接関係しておりませんので、一応『人並み外れて強力な「正夢体質」であるから、夢で見た出来事を小説化すれば、何とそっくりそのまま現実化できる』とだけ申させていただいて、詳細につきましては次回以降の蘊蓄コーナーにて語らせてもらいたいかと存じます」
ええー! これって、これからも続いていくの⁉
いかん、やぶ蛇だった。
……つうか、『人並み外れて強力な正夢体質』って、いったい何のことだ? 何か非常に気になるんですけど、それをいつになるかわからない『次回』まで、お預けだって?
しかし俺の煩悶なぞどこ吹く風と、その超能力少年はウキウキと蘊蓄解説を再開し、
──開口一番、
「それに対して、実は
………………は?
「な、何だよ、ハルヒが全権代行者って?
「確かに夢の主体は集合体的存在ですが、最近流行りの大所帯のアイドルグループにリーダー──いわゆるその集団における『顔』が存在しているように、夢の主体のような集合体的存在においてもいわゆる
「な、何だってえ⁉」
たかが女子高生一個人が、この世の森羅万象を代表して、ありとあらゆる異能を実現し、あまつさえ擬似的にとはいえ、世界そのものを変えることさえもできるだと⁉
「……まあ、そうは申しても、涼宮さん自身には自覚はまったくなく、すべては彼女の無意識の為せる業なんですけどね」
「いや、無意識だが擬似的だか知らんが、そもそも夢の主体とやらの
「もちろんその
くっ、心底嬉しそうな顔しやがって。この蘊蓄マニアが!
「実は集合的無意識の具現である夢の主体とは、その構成要素である個々の存在はただの人類や知恵を持たない畜生であろうと、総体としてはSF小説等に登場してくるような真に理想的な量子コンピュータみたいなもので、しかも集合的無意識にはありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の『記憶』が集まってきますので、それを
……あ、いや。それって確かにすごいとは思うけど、例えが少々マニアックなのでは?
「ただし、完璧な未来予測や読心と言っても、それこそSF小説やSF漫画のように、『唯一絶対の解答』を導き出せるわけではございません。何せ何度も申しますように、『未来には無限の可能性がある』のですからね。『神はサイコロを振らない』なぞといった迷言は、生涯時代錯誤の決定論に囚われ続けた三流科学者の
ええー。アインシュタイン大先生の格言さえ猿真似していたら、無条件でお利口さん扱いしてもらえるんじゃなかったの?
「それで、何ゆえ涼宮さんが、これほどまでに絶大な力を誇る夢の主体の
「へ? それって、いったい……」
「基本的に夢の主体の総体的な意思といたしましては、このような強大な力なぞなるべく使わずに、世界の平穏を維持し続けることこそを第一としておるのですが、それでは世界の進化が阻まれることになってしまいます。確かに世界大戦のような大きな争いは本来なら絶対に避けるべきものですが、それが科学技術を始めとして大いなる進化をもたらしてくれたのもまた事実なのです。いわゆる『ホメオスタシスとトランジスタス』ってやつですね。そこで全人類の総意というか、ちょっと中二臭いけど『世界の意思』といった感じで、適度に夢の主体としての力を行使して世界の進化をも促すべく、実際に異能を行使する夢の主体の力の全権代行者を選出することになるのですけど、夢の主体の構成員は原則的に何の力も無いただの人間かそれ以下の知能しか持たない動植物のみだから、必然的に『他の誰よりも異能を行使する願望が強い者』が選ばれることになり、今回においてはまさに涼宮さんが該当したといった次第なのですよ。──そう。彼女は願ったのです、自分の『日常』が、宇宙人や未来人や超能力者に囲まれた、『非日常』に変わることを。だから長門さんや朝比奈さんや僕のような、自分自身も宇宙人や未来人や超能力者となる願望がひときわ強かった者たちが選ばれて、涼宮さんの無自覚での力の行使によって集合的無意識に強制的にアクセスさせられて、本物の宇宙人や未来人や超能力者の『記憶』を脳みそにすり込まれることによって、間違いなく現代日本生まれのただの高校生でありながら、同時にある意味本物の宇宙人や未来人や超能力者となってしまったわけなのです」
──‼
ハルヒのやつが非日常を望んだからこそ、まさしく神様同然の力を得て、本当に日常を非日常に変えてしまっただと⁉
「……ハルヒについては、まあどうにか納得できないでもないけどよ。──だったら、おまえ自身はどうなんだ、
「あれ? 僕がどうかいたしましたか? 僕が超能力者となった経緯は、今述べた通りなのですが?」
「とぼけるな! ただ単にハルヒによって超能力者に仕立て上げられた立場でしかないくせに、何で当のハルヒでも知らないことを──いや下手すると、この世界にとっての『神様』や『作者』とでも呼ぶべき存在しか知り得ないことを、おまえは当たり前の顔をして俺に開陳することができるんだよ⁉」
ひょっとしてこいつこそが、真の『内なる神』や『作者』的存在なんじゃないだろうな?
「ああ、きっとそれは、まだ何も知らなかった過去の僕が、『超能力者であり、また同時に、すべての裏事情を知り得る蘊蓄役』になりたいと、熱烈に願っていたからじゃないですか?」
──っ。
いかにも御都合主義的な見解だが、こいつなら実際にありそうなことは、残念ながら否定できないよな。
反応に窮する微妙なる回答を突きつけられたために、言葉を失う俺をよそに、性懲りもなくいかにも芝居じみた台詞で今回の一連の蘊蓄コーナーを締めくくる、同級生の優男。
「──実は僕だけでなく、朝比奈さんや長門さんにおかれても、ただの未来人や宇宙人ではなく、
……結局最後の最後まで、メタ路線を貫き通すつもりかよ。
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