第6話
「──祝、同志発見‼ そうです、そうなのです! 実は過去の改変なんて、そんじょそこらの『神様少女』どころか、何とその作品の作者──ぶっちゃけて言えばすべての創造主であられる、
………………は?
突然これまでの一切合切を無視して、わけのわからないことを叫び始めた蘊蓄担当者。
俺はあまりの事態の急変に戸惑いながらも、おっかなびっくり問いただす。
「……おい、どうした、
「いえいえ、ちゃんと前回の内容と関連していますので、ご心配なく。──いや、それが実は、まさに僕が言いたかったことを端的かつ的確に述べられた別の作品を、それも奇しくも昨日の時点において発表なされた方がおられたのですよ! しかも常日頃から尊敬申し上げているすでに商業出版化を果たしておられている方でして、何かこう、『百万の味方』を得たような気になりましてね。それで今回の蘊蓄コーナーにおいては最初の構想から離れて、大幅な路線変更をいたそうかと思っているのですよ」
……もしかしてその作家さんて、『中二病』をこじらせて、『大魔王』がどうしたとか『即死チート』がどうしたとかおっしゃられている、『あのお方』じゃないだろうな?
「おいおい、ただでさえ無理があり過ぎるストックまったくなしでの毎日投稿をやっていて、プロットどころかその前段階の構想メモまで無視して即興で新規エピソード入力作業なんか始めたりして、本当に大丈夫なのか? それに忘れてもらっては困るが、だいたいがこの蘊蓄コーナーの最大の趣旨は、『過去の改変』でも俺が『夢で見た異世界を小説にしたためることで本物にした』ことでもなく、『
「これまたご心配には及びません! むしろただでさえ小難しいばかりの蘊蓄コーナーをクソ真面目にやっていても、書くほうも読むほうもいい加減うんざりしてしまうだけですよ! やはりここはフィーリング優先でノリと勢いで攻めなくては! そういった意味で、突然ですがここで出血大サービス的に『答え』を先に言っちゃいますと、──世界はけして改変されたりすることはなく、改変前の世界と改変後の世界が最初から両方共存在しているだけであり、あなたや
いやいやいや、いくらノリと勢いとはいえ、ぶっちゃけすぎだろ、これって⁉
「というわけで、最終的な目標設定も終わったことですし、これよりじっくりと、『なぜ単一の世界においては、たとえそれが本物の神様であろうとその世界の「作者」とも呼び得る者であろうと、けして改変を加えることなぞできないのか?』について、とことんまで詳細に語り尽くしていくことにいたしましょう!」
──そ、そういえば!
「ちょと待て、古泉! 確かおまえさっき、『実は過去改変なんて、すべての創造主であられる、谷川流大先生にだって不可能なのです!』とか何とか、むちゃくちゃヤバ過ぎること言っていなかったか⁉」
「ええ、そうですけど、それが何か?」
「『それが何か』じゃねえよ! カク○ムの運営様やス○ーカー文庫編集部の皆様ににらまれたら、どうするつもりなんだ⁉ ──まあ、それはともかくとして、つまりそれって『たとえ作者であろうとも、自分の作品内で描いた世界の改変ができない』ってことだよな? そんなわけあるか! ただ単に自作の小説の記述に加筆修正を行うだけじゃないか、そこに何の制約があると言うんだ? それとも問題は単なる小説の改稿に関してではなく、小説内の世界をあくまでも本物の世界と見なして、それを科学的に考証していこうって話か? いや、それだって同じことだろう。俺自身自作の異世界においては神に等しき『作者』としての立場にあるが、確かに実際に異世界に転移している状態で自作の該当箇所を削除してドラゴン等をデリートしようと思っても、質量保存の法則その他諸々のために実行できないが、こうして現実世界にいる状態で自作を書き換えてドラゴンの存在そのものを削除してしまえば、その後で異世界転移してみればちゃんとドラゴン自体もデリートされているしな。これってある意味世界の改変を実現したってことじゃないのか?」
そんな俺の至極まっとうな指摘に対して、しかし目の前の優男は、相変わらず余裕の笑みを絶やすことはなかった。
「それって確かに、同じ異世界でした?」
「は? 同じ異世界かって……」
「あなたが小説を書き換えた後で転移した異世界は、あなたたちパーティの手によるものかどうかはともかく、何らかの形で『ドラゴンが退治された世界』だったのか、それとも『ドラゴンなんて最初からいなかった世界』だったのかって、聞いているのですよ」
──‼
「……どうして、それを」
そう。俺が再び異世界転移してみれば、藤原たちパーティメンバーを始めその異世界の誰もが、当該ドラゴンの存在自体を記憶しておらず、その住処や狩り場等にも痕跡の類いをほんの爪痕や足跡の一つすらも残していなかったのだ。
まさしく古泉が言うように、まるで最初からドラゴンなんて存在していなかったように。
「これこそがまさに、『世界というものはけして改変することができず、ただ単に改変前の世界と改変後の世界が、最初から両方共存在しているだけなのだ』ということなのであり、実は作成中はもちろんネットに公開した後であろうと場合によっては正式に商業誌として刊行した後であろうとも、原則的に内容に変更を加えることができる小説というものは、単一の独立した世界からなるものではなく、それこそ無数の世界の集合体のようなものなのです。それに加えて、先程ちらっと『世界間転移は世界改変の一種である』と申しましたが、これっていわゆる『逆もまた真なり』であって、一つの世界においてはけして改変なぞできませんが、他の世界に『ルート分岐』することによって、結果的に改変したような効果を実現することならできるのです。『作者』が自作の加筆修正によって作品の中の世界の改変を行おうとしても、その単一世界の中で改変が行われることはなく、たとえそれがたった一文字の修正であろうとも、最初からまさしくその一文字分が異なっていた別の世界へと『ルート分岐』することによって、小説の中の世界の変更が実行されることになるのです」
なっ。実は小説は無数の世界の集合体のようなもので、作者がたった一文字でも修正を加えれば、小説内においては別の世界へのルート分岐が行われるだと⁉
……いや確かに、あの『ドラゴンが最初からいなかった世界』は、世界そのものがルート分岐してしまった結果だと言われれば、納得できないでもないけどな。
「でも、そもそもどうしてたった一文字でも修正を加えれば、有無を言わさず別の世界へのルート分岐なんかが行われるのか、その辺の仕組みというかメカニズムというかが、いまいちわからないんだけど?」
「まあ、そこら辺の仕組みについてはタイムトラベル等と同様に、『現在において世界というものはこの現実世界ただ一つしか存在せず、あくまでも別の可能性という名のこれからの分岐先の世界が未来において無限に存在しているだけである』論を基本としていて、それこそ量子論や集合的無意識論に則って詳細に解説していく必要があるのですが、とりあえずそういった小難しいことはすべて次回回しにすることにして、今回はあくまでもフィーリング優先で行くことにいたしましょう。──つまりですね、これまた前にほんのちょっぴり述べましたけど、実は世界の本質というものは、人々の『記憶』によって成り立っておりまして、それ故にたとえ幾度タイムトラベルや異世界転移を繰り返そうとも、SF小説なんかでよく言われるように、古い世界が新たなる世界によって上書き消去されることなんてけしてなく、どんな世界であろうとも改変されることも消去されることもなく、永遠に存続して行くのみなのです。これについて非常にわかりやすい例えを挙げれば、例えばですね、谷川先生が『涼宮ハルヒの憂鬱』を抜本的に改稿して、宇宙人や未来人や超能力者についてまったく触れることのない、単なる日常ほのぼの路線に軌道修正して、それ以降出版されるものもオリジナルとは似ても似つかぬものとなったとして、旧来の読者はあの作品冒頭における涼宮ハルヒの破天荒極まる自己紹介の台詞を、『忘れる』ことができるでしょうかね?」
──あ。
「どうやらおわかりのようですね。そうなのです。たとえ小説の記述を物理的に修正することができようとも、人の『記憶』まで書き換えることなぞできないのであり、これからも大勢の人たちにとっての『ハルヒ
そ、そうだよな。今もなお誰もが、『涼宮ハルヒの憂鬱』──いや、ラノベそのものにおける代表的フレーズと言えば、まず第一にあれを挙げるよな。
もはや俺たちラノベ愛好家においては、記憶どころか魂そのものに、しっかりと刻み込まれてしまっているかのように。
「以上によって、いかに作品にとっては神にも等しい作者といえども、その作品世界を真の意味で改変することはできず、ただ『別ヴァージョンの世界』へとルート分岐させているだけ──ということについては、ご理解していただけたものと思いますので、いよいよ本題の、『朝比奈みくるは果たして本当に未来人なのか?』について、ご説明していくことといたしましょう」
おお、ようやく肝心要な話に戻ってきたぞ。
「言わばこれって、この前の『質量保存の法則』等の物理法則について、小説作成上のメタ的視点によって言い換えたようなものなのですが、そもそも『未来人なんか存在しない完全なる現実世界』には当然未来人を存在させることができないので、その結果タイムトラベルについても実行不能になるわけなのですよ。
「いやでも、ちゃんと『涼宮ハルヒの憂鬱』の世界においては、未来人としての朝比奈さんが存在しているじゃないか!」
ま、まさかこいつ、量子論とか集合的無意識論にかこつけて、
「存在なさっていて、当たり前じゃないですか。何せ
あ。
「これまで長々と屁理屈ばかり語ってきましたが、別に僕は持論によって闇雲に
そ、そうだ。まさに『消失』こそ、俺の自作で言えば『ドラゴンが最初から存在していなかったヴァージョン』なのであって、この『完全なる現実世界』においてはタイムトラベルを実現することなぞ原則不可能なのと同様に、いわゆる『SF的世界』である
「……じゃあやっぱり、朝比奈さんは未来人なんかではなく、ただの現代日本生まれの女子高生に過ぎないってことなのか?」
確かにこれからだって世界がルート分岐さえすれば、未来人が存在し得る世界となる可能性もあるそうだけど、あくまでも可能性は可能性に過ぎず、そんなことは万に一つもあり得ないだろうからな。
「ええ。基本的にはその通りですが、それと同時に、現在時たま人が変わったようにして、自分のことを未来人だと言い出している、いわゆる『朝比奈(大)』ヴァージョンの彼女も、けして妄想上の産物とは決めつけられないのですよ。──何せ何度も言うように、彼女に宿っている『未来人としての記憶』に関しては、れっきとした『本物』なのですかね
「あ、そうだ、すっかり忘れていた。何で絶対に未来人なんか存在し得ないこの『完全なる現実世界』において、記憶だけは本物であり得たりするんだよ⁉」
そんな俺の素朴なる疑問の声に対して、その蘊蓄大好きサイキックボーイは、思わせぶりな笑みを浮かべながら言い放つ。
「それについては次回にて、今度こそ量子論や集合的無意識論を交えて、徹底的にご解説しますので、どうぞご期待してください!」
……何だ、次回予告かよ。
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