冷たくて甘いアイスクリーム

🌻さくらんぼ

冷たくて甘いアイスクリーム

「ねぇママ、また体が痒いよぉ。あたし、どうしちゃったのかなぁ」


 イノシシの子供であるチャイは、カリカリ後ろ足で体を掻きながら、首を傾げています。


「ぼくは目がウズウズするよ〜。ママ、治して〜」


 チャイの兄弟であるチャロも、この頃、体のあちこちが、痒くて仕方がないのです。


「治せたらいいのだけどね。どうしたらいいのかしら。今は我慢するしかないわ」


 心配そうな色を浮かべる母親も、子供たちと同じような症状が出ているのでした。



 ――自然豊かなこの森の、何が悪いというのでしょう。


 そのうちに治る。

 今は、そう信じるほかありません。



 ママにもわからないなんて!

 チャイは、体を掻く足を止め、チャロは身震いをしました。



「あら、人間が来たわ! 」


 怯える子供たちを励まそうと、母親は微笑みます。


「今日はどんな美味しいものを持ってきてくれたのかしらね? 」


 人間たちがくれる食べ物は、森にあるどんな木ノ実よりも美味しいのです。


 痒さなどすっかり忘れて、子供たちは目を輝かせました。


「サクサク、カリカリしてるかなぁ?! 」


「甘いといいな〜」




 ☆   ☆   ☆



「見てみて! イノシシがいるよ!! 」


「かわいい!! 親子だ!! 」


 この森には、時々人が訪れます。

 みんな、動物に会いたくてやって来るのです。


 どうやらこの二人の女の子たちも、動物が大好きなようでした。



「この子たち、カリンのアイスクリームに興味津々だよ! 」


 カリン、と呼ばれた女の子は、にっこりしながらしゃがみます。


「これ食べる? 」


 イノシシたちは、ワッと寄ってきて、アイスクリームを食べ始めました。


「かわいい〜っ!! 連れて帰りたいくらい!! 」


「あーあ、あたしもアイスクリーム買っときゃ良かった!! 」


「買ってたじゃん! とっとと食べちゃってたけどね」


「あ、そうだっけ? 」




 そんな二人の元に、もう一人、女の子がやってきます。


「二人とも歩くの早いんだから!

 って、ダメじゃん!餌やり禁止って書いてあったよ? 」


「別に良くない? こんなにかわいいんだし」


「あたしたちがちょっと餌やりしたぐらいじゃ、問題ないって!!

 それより、あんたもこっちきてよく見なよ!! 突っ立ってないでさ! 」


「まぁ、それもそうだね」


 その後、三人はキャーキャー騒ぎながら、イノシシがアイスクリームを食べる姿を見ていたのでした。



 ☆   ☆   ☆




「ねぇママ、人間っていいよねぇ。いつもあんな美味しいものをくれるんだから」


 人間たちとお別れしてから、イノシシの親子はのんびり日向ぼっこをしています。


 チャイは口の端についていたアイスクリームのコーンをペロリ、満足げな表情でした。


「森のどこを探したって、人間がくれる食べ物より美味しいのはないよね〜」


 チャロもうーんと伸びをしながら、あの口の中いっぱいに広がる冷たさと、とろりとした甘さを思い出していました。


「そうね、人間に感謝しないといけないわよ」


「ありがとうございまーす!! 」


 子供たちは、人間が歩いて行った方向へと、声を揃えてお礼を言いました。



 ふと、チャイは自分のお腹を見つめます。


「ねぇママ、なんだかお腹が痛くなってきちゃったぁ」


「ぼくも〜」


「おかしいわね。ママもよ」




 その症状の原因が美味しい食べ物をくれる人間だなんて、イノシシの親子には、知る由もありません。

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冷たくて甘いアイスクリーム 🌻さくらんぼ @kotokoto0815

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