第9話 扉のなか
ひとりになってしまったら――幸せな夢をみるなんて出来ない。どうしたって考えてしまうんだ。彼らのいい方をすれば、僕はきっと産まれたばかり――わずかな時間で、僕という人格、人間は、ひとり孤独でいることに寂しさを感じてしまっている。
これも、脳内に格納されていた人間としての基本情報なのか。赤子はいつ、この感情を取り出すのだろう。産まれたら鳴き声をあげるというなら、その瞬間に、寂しいと想うのか。じゃあ言葉はいつ覚えるんだ。寂しいと人に伝えるとき、取り出すのか。産まれて後に、周囲の環境から学ぶなんて事があるのか、この複雑な感情をも、数文字に変換してしまう能力を。
いいや、僕たちは知っているんだ。取り出さないだけで、全てを知っている。
じゃあ、僕も――本当は、僕の罪を知っているのか。知ってしまったら、認めなければいけないのか。僕でない、僕の罪を、ただ償うために、何も持ち得ていない、この僕が。
「着きました。また、お迎えにあがります」
「ありがとう……」
役目を終え、立ち去る彼女に、僕は声をかけた。
「なんでしょう?」
彼女はまた安らぎのターンを見せてくれる。
「また、会えるかな……」
「翌朝には、また……あなたが目覚める限り」
音のない扉が切り離す、その言葉と、その顔を、僕はもう、よく見知っている気がした。
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