第6話 罪
「罪状?」
思わず復唱を返してしまう。もちろん法廷にいる以上、何らかの理由があるだろう、だが、罪状なのか。
「僕は……罪を犯したの……」
「そうだ……君の罪状は、殺人である。無差別に、愉快的に人を殺し、ある者は解体され、ある者はコレクションされ、またある者はただ晒された。君は診断の結果、生来の快楽的殺人犯であると判定され、今、この場にいる」
僕は言葉を失った。告げられたイメージが次々と、脳内に想像として浮かんでしまったのだ。だが、それは僕自身が知らないうちに犯した罪の現場ではない。ただ言葉から想起したコミック的なものだ――自分の名前にさえ自信はないが、告げられた事だけはやっていないという自信がある。
「僕は――やっていません」
「君の根拠のない言動は望んでいない。認めるか?」
「いいえ……認めません。それに、あなたたちが言う、それだけ人を辱めた罪状が、本当に僕にあるというなら、とっくに死刑だ。何人殺したかなんて知らないけどね」
僕は両手を広げて大きな花になったつもりで見せた。
「君の認識がどの程度ロードされているかは不明だが、現代では生のあり方は既に変わり、死刑は百年以上前に廃止された」
「そう……それは名案だね。たくさんの罪を犯したのに、死ぬなんて、ただの救済だと僕はずっと思ってたから、それには賛成。だけど、生の意味? いや、あり方か……それはどう変わったっていうの」
「質問にこたえよう。人の組織たる臓器も四肢も、いかなる物も培養で交換が可能となった。人は、あらゆる事故においても、死ににくく、ほぼ限りない寿命を得たのだ。そうなる過程で、人は産まれる前にデザインされるようになり、君のように快楽で人をあやめるといった性格は、取り除かれるのだ」
「それは……ちょっと、ぞっとするね……自分の意志で産まれないなんてのには納得してるつもり。だけど、性格までいじっちゃうのはどうかな――もちろん、病気についてはないに越した事ないって思うけど」
「君と議論するつもりはないのだよ」
低くうなる男声が、僕を遮る。まったく、気味の悪い嵐の風みたいだ。本当に、人なんだろうか。
「そう――君の意志とは関係ない。この時代に、そう産まれてしまった事、それがまず罪なのだ」
「だとしたら……その罪を問われるのは、まず僕じゃなくて、そう産んだ人、なんじゃない?」
これは起死回生だろうと、僕はふふん鼻を鳴らした。きっと聞こえてないだろう、仮面の表情は変わらないから。
「残念ながら、君は特異性を排除された状態でデザインされ、人工子宮から産まれた。それは間違いない。だが……君はデザインを越えて、そうなってしまったのだ。それは産んだものではなく、君の罪だ。そしてその生を利用し、罪を重ねた」
「重ねてなんかない!」
僕の声は、鏡面の壁に囲まれたホールでリヴァーブレィションし、やがて消えた。
「現在の君が、この時代の生の概念を理解する必要はないのだ。いつの時代も、既に築かれた概念に、疑問を持つ大衆は少ない。受け入れるしかないのだ」女性の声は歌い、宣言する。
「受け入れて、どうしろっていうんだよっ!」
僕は足を鳴らして対抗するが、抵抗の全てを吸収する床材が憎らしい。
「認めてもらう……君には罪を認めてもらうしかないのだ。そして償わねばならぬ。この時代に、死はない……生きて認め、償うしかない」
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