第3話 ドクテルとシェリーによる愛の会話

「なんじゃ、あの、不作法ぶさほう肥満体ひまんたいは!? わしを愚弄ぐろうするにもほどがある!! 世紀の天才、直々じきじき来訪らいほうに、顔すら見せんとは!! R・C め!! 若造わかぞうめおって!!」


「どどどど、ド、ど、ドクテル、い、いい、イイスギ。で、でで、デリカ、オンナ、ドクテル、ミテル」


「おお、わしのいとしいシェリーや。心配はいらん。マフィアくらいなら、お前、一人でなんとでもできよう。おお、愛しい娘!!」


「め、め、メルシ」


 車イスに乗ったドクテルと、それを押すうつろな目をした少女。


 二人の不気味なたたずまいに、通りの人間はそそくさと道をゆずる。


「シェリーや、食べたいものはあるかの?」


「ののののの、ノン」


「せっかく通りに出たのだ、遠慮えんりょするでない」


「ば、ば、ばばばば、ババロア」


「よしよし、可愛かわいい娘。買うてやろう。たくさん食べるがいい」


「めめんめ、メルシ、ぼぼぼぼ、ボク」


「お前の心臓に『』さえめば、本当の意味で。そうしたら、そうじゃな。『ファウスト』でも読み聞かせてやろう。人類の英知えいちをお前に与える」


「むむむ、ムズカシ。どどど、ドクトル、ムリ、ヤメテ」


「無理などしとらん。これはわしの夢であり、野望でもあるのだ。ひとりの人間を人工的に造り上げる。


「でで、デュー?」


「そうじゃ、神じゃ。ソロモン王やノアでさえしえなかった芸術を生み出すのじゃ」


「デュ」


「優しい娘、シェリーや。お前はほとんど完成しておる。じゃが、ホンの一握ひとにぎりの魔法のスパイスが必要なだけじゃ。そのために、わしは無様ぶざま老体ろうたいさらして生き長らえておる」


「ど、どどどど、どど、ドクトル、シヌ、カナシ、ヤヤヤ、ヤメ」


「ほっほっほ。大丈夫じゃよ。それも『賢者の石』があれば解決する。二人、不老不死となってエデンに行こう。そこで、わしらはアダムとイヴになる。産めよ増やせよ。神のおっしゃった通りじゃ。わしの愛する娘で、最初で最後の、愛しい妻よ。もう少しだ。神の国も近い。どうか、あわれな老人に力を貸しておくれ」


「あああああ、アイ? アイ。アイ! ど、ドクトル、タメ、イノ、チ、イラ、ヌヌヌ」


 二人の仲睦なかむずまじい会話とともに、眼前にはエッフェル塔がそびえ立つ。


 シェリーのほほは生クリームでべったり。しかし、ドクトルがぬぐうには、手が届かない。


 青空の下、二人は永遠の愛を語り合った。

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