第5話


【トーカ・ホーズキ】


 LV1


 HP:D

 MP:D

 攻撃:D

 防御:D

 体力:D

 速さ:D

 賢さ:D


種族:人族


スキル

 なし

固有スキル

 完璧再生(隠蔽)


【称号:D級勇者、不死者(隠蔽)】


 なんか。

 数値、異様に低くないか?

 小山田の体力値はAとか言ってたよな?

 MPだけは微妙に高いみたいだが……。

 称号はD級勇者?

 Aから順に数えていくと……。

 うん。

 序列は低そうだ。

てか不死者って何


 内心、ため息。

 名前の表示も西欧人みたいになってるし。

 しかも正しくは”トウカ”なのだが苗字も違うし。

 こっちの世界の発音の関係なのだろうか?

 表示が”トーカ”になっている。

 異世界ステータス表記でも、俺の扱いは適当かよ……。

 これが空気モブの定めなのか?


 「あーら」

「うわ!?」


 いつの間にか女神が背後にいた。

 俺のステータスを覗き込んでいる。


「あの……どうなんでしょうか、俺のステータスって」


 「チッ、無能か」

  女神が次に返したのは踵の方だった。

 モデル歩きでトコトコ離れていく。

 みんなの方へ戻った彼女は再びQ&Aコーナーを開始。


「スルー、っすか」


 圧倒的、スルー。

 大人は質問に答えたりしない。

 某T川先生のありがたいお言葉が思い出される。


「…………」


 なるほど。

 異世界でもそれが大人の摂理ってわけか。

 そして、


「異世界でも俺は、空気扱いか」


 まあいい。

 E級なので序列は低そうだが、とりあえず俺も勇者らしい。

 居場所くらいはもらえるだろう。

 エア勇者。

 そうさ。

 空気として生きていけばいい。


 これからも。

 この先も。

 何も変わらず。

 出しゃばらず。


 達観して座り込む。

 「ん?」


 あれ?


「これって――」



【固有スキル:完璧再生/常時使用、on : off /状態隠蔽】

タッチすると詳細がわかるようだ


〔病、状態異常、負傷、損傷、汚染まであたかも何もなかったかのように再生する。一部(細胞レベルまでを一部とする)残っていれば何度でも再生できる(HPなどあってもないようなもの)。MP消費なし。〕


 ん?あれ?俺最強じゃね?あ、でも痛み神経はあるから何度でも生き返るなんてただの地獄だよな。でもそんなのデメリットって言わないよな。

「固有スキル、か……」


 桐原のは【金色龍鳴波ドラゴニックバスター】。

 

 俺のは【完璧再生】


カッコよさ的には桐原の方がかっこいい、攻撃力とかすごそう


対して俺のスキルはまあさっきの話のとおりメリットの塊だ。


「問題はステータスだよなー」


それよりもださっき女神さまが言ってた無能てどういう意味なんだろう 勇気を出して女神さまに聞いてみるか。

 さて、


「女神さまは、っと――」


 あ、いた。

 太い柱の陰に。

 Q&Aコーナーはお休み中のようだ。


「ん?」


 誰かと話してる。

 ローブ男たちとは違う人間みたいだが……。


 俺は咄嗟に柱の反対側に背をくっつけた。

 う……つい身を隠してしまった。

 仕方ない。

 スルー女神に話しかけるのは勇気がいるからな……。

 深呼吸。

 よし。

 覚悟、完了。

 柱の陰から出る決意を固める。

 が、


 俺は最初の一歩を、踏み出さなかった。


 直前に聞こえた女神の言葉が気になったためだ。


「一人だけ最低ランクのE級がまじっているようです」


 俺のこと、だよな?


「どうするのだ、フェリカよ」


 あれは誰だ?

 女神さまを呼び捨てにしている。


「ご心配なく。最低ランクにも、使い道はあります」



     ▽



 いきなり部屋の兵士の数が増えた気がする。

 いや……。

 実際、増えている。

 三十人くらいは増えただろうか?

 新しく来た兵士はとても屈強そうだった。


「…………」


 目線や空気でなんとなく理解できる。

 俺たちを逃がすまいとしている。

 いや。

 正確には――俺を、か?

 俺の左右にはさっきから兵士が張りついている。

 マークされているのは明白だ。

 右の兵士が口を開いた。


「この場にいる全員に言えることだが、妙な気は起こさぬことだ。異界の勇者といえど、召喚されたばかりではこの場を制圧できる力などない」


 忠告した兵士は剣の柄に手をかけている。

 妙な気を起こせば無事では済まさない。

 そう脅しをかけているわけだ。


「勇者の皆さーん、隣の部屋へ移動をお願いいたしますよー!」


 女神が指示を出す。

 先頭を歩く女神。

 ゾロゾロとついていく生徒たち。


「み、みんな……女神さまの指示に従うんだー……」


 あからさまにトーンの落ちた鈴木。

 実にクラスの半分が現在、露骨に鈴木をスルーしていた。


 先ほど鈴木も水晶の測定を受けた。

 ランクはC級。

 二十代半ばを越えた大人は低級になりやすいそうだ。

 一方、十代の若者には高ランクが出やすいのだとか。

 なので召喚されるのは若者が多いという。


 先ほど女神がそう説明した。


 ランクがC級だったせいだろうか。

 鈴木は目に見えて生徒から軽んじられ始めていた。

 日頃の行いの影響もあるかもしれない。

 あるいは、単に序列が下と見なされたゆえの変化か。

 柘榴木も自分の扱いの変化を強く感じているようだ。

 初期にあった溌剌とした空気が今は見る影もない。


 今の2‐Cの”担任教師”は間違いなくあの女神だと言える。


 俺たちは女神につれられ、床に魔法陣のような模様の描かれた部屋へ移動した。


「これから名前を呼ばれた方はそこの魔法陣の中央へ進んでください。あ、これさえ終われば皆さんも少し落ち着ける時間ができますよ〜」


 クラスメイトたちが嬉しそうにする。

 ここへ来てから何もかもが目まぐるしすぎた。

 ようやくひと息つける。

 みんなに若干、ホッとした空気が漂う。

 山田が挙手した。


「つーか、この部屋で何すんだよ?」

「儀式です」


 次に口を開いたのは桐原。


「儀式? また召喚でもするのか?」


 女神が軽快に両手を打ち鳴らした。


 パンッ!


 女神、ニッコリ。


「とにかく、まずは名前を呼びますね? では――トーカ・ホーズキ君、魔法陣の中央へと進んでください」

「え?」


 俺?



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