第4話

 水晶の前に立つ。

 緊張してきた。

 自分を査定されてるみたいだ。

 つるりとした表面。

 手を、近づける。


「ごくっ」


 てのひらを置く。


 ピトッ


ほのかな淡い光が表面に浮かんだ。

 優しい光。

 弱々しいとも言えるが……。


色は白。


 金や銀、黒や白の方が特別なイメージがある。

 白か。

 今までの測定では初めて見る色だが。


「では次の方、どうぞ、あら、もう終わったみたいですわね」


 女神、まさかのスルー。

 水晶測定、初コメントスルー。

 ひと言の凡コメすらない。

 冗談だろ?


「あの、俺の評価は――」

「・・・」


 無視された。

 なかったことにされた。

 トボトボ。

 元の場所へ戻る。


 空気モブ。


 異世界でも、空気かよ。

 ま、これが現実だよな……。

 異世界にきたところで特別になんてなれない。

 なれるわけがない。

 これが俺だ。

 鬼灯燈火だ。


 いいんだ、これで。


 序列は存在する。

 いつでも。

 どこにでも。

 どうしようもなく。


 俺の名簿順的に俺が最後だ。

 だがみんな俺よりは結果がマシだったらしい。

 女神もにこやかにコメントしている。

 凡コメではあるが。

 測定は終わった。




「前半に粒が揃っていたようですね〜」


 女神が頬に手をあてる。


「ですがS級が三人にA級が二人なら上々すぎます。高望みしすぎるつもりはございませんよ〜」



「では次に、この世界における力の使い方などをお教えしましょう」


「ステータスオープン!」


 同じ単語が立て続けにそこら中で飛び交う。


 ”ステータスオープン”


 その言葉を唱えると手の甲に紋様が浮かび上がる。

 同時に、ホログラフィックめいたプレートが目の前に出現する。


「なるほど〜これで自分の能力を確認できるわけだな〜! なんかゲームっぽいよなっ!」

「異世界モノ定番のステータス表記きたなーっ!」

「コッチのってアレ? スキルツリーってやつ!?」

「でもなんかリアリティねーよな! あれだな、進化したVRMMOってリアルにあったらこんな感じかも!」


 ワイワイ騒ぐ男子。


「ちょっとオタク寄り男子〜、あたしらゲームとか知らないから教えてよね〜」

「操作感とかスマホっぽいからウチらだけで大丈夫じゃん?」

「なんかソシャゲ感ない? てか、やってたソシャゲのログボってマジでどーなんの?」

「美容値とか美人度とか数値化されてなくて助かるわー」

「固有スキルって何?」

「必殺技とかじゃない?」

「はぁっ!? 必ず殺す技とかマジでヤバくない!?」

「あ! もしかしてスキルの”キル”って”KILL”って意味なの!? 怖っ!」


 先ほど怪物オオカミの一連の流れで泣いていた女子たち。

 大半がもうケロッとしている。

 切り替えが早い。


「皆さまに馴染みのある形で補助システムを構築し、かつ、効率的に最適化させていただきました。私は女神ですので召喚元の世界に色々合わせることができるのです」


 女神が説明する。

 なるほど。

 それでこのゲームっぽい形が採用されたわけか。

 スマホのホーム画面のテイストもある。

 確かに俺たちには馴染み深い。

 これなら理解も早いかも。


 女神、か。

 なんでもアリだな。



「こ、これは――【金色龍鳴波ドラゴニックバスター】ですとっ!?」



 桐原の隣にいたローブ男が仰天した。


「なんと! タクト殿はもう固有スキルが使用可能状態にあるとは! し、しかもLV1とは思えぬステータス!」

「よくわかんねーけど……俺、またなんかすごいのか?」

「LV1から固有スキルが使用可能な勇者など遡っても数えるほどしかおりませんぞ!」

「ふーん。ま、オレとしては別に感動も何もねぇけどな。普通だろ、こんなの」


 女子が憧憬の目で桐原を崇め奉る。


「拓斗、マジでヤバい……」

「桐原くん、性格もイケメンすぎる〜」

「謙虚だよねー」

「異世界に来ても頼りになりそう」

「結婚したーい。むしろ、私としろ」


 ローブ男たちから次の驚愕が上がる。


「あ、アヤカ殿のスキルツリー!? これは初めて見る形ですぞ! 特殊ツリーですな!」

「と、特殊ツリー?」


 藤堂はゲーム方面には疎いらしい。

 次々と飛び出す単語に四苦八苦している。

 まあ俺も特殊ツリーとやらの正体はわからないのだが。

 ただやはりS級だけあって、すごいものみたいだ。


「ショウゴ殿さすがはA級! 補正値――ステータスが最初から他の勇者より頭一つ抜けておりますな! ショウゴ殿はLV1で体力が+500とは!」


 すかさず女神の補足が入る。

 表記されたステータス数値は、その人物のすべてを表す数値ではないらしい。


 補正値と書いて”補正値ステータス”。


 基本値に+される数値が”ステータス”とされる。

 とすると……。

 ステータス上はHPがゼロなのに生きている。

 そんな状態も起こりうるわけか。


 自然と女神のQ&Aタイムがスタート。

 ここで一つの変化が見られた。

 生徒の質問の種類が変わっているのだ。

 もはや自分たちに起こった召喚現象に対する質問ではない。

 ステータスを始めとしたこの世界の情報を知ろうとしている。

 ただし精力的なのはあくまで質問者に限った話だ。

 当然、意気消沈勢もいる。

 彼らは空気化していた。

 今は部屋の隅に集まっている。

 虚脱状態の者。

 悲嘆に暮れる者。

 現実をまだ受け入れられない者。

 様々。


 ローブ男たちがまたワッと騒ぎ始めた。


「ぐっ! き、気軽に近寄れないっ!」


 あれは……田辺姉妹のいるあたりか。


「な、なんなのだあの二人組は!? 不思議な威圧感が、あるというか……っ」

「ま、まあS級とA級ですからな! あの空気感、タダ者ではありませんぞ!」


 異世界人が姉妹独特の空気感に圧されていた。

 ステータスを確認したがっているローブ男たちが近づけない。

 高雄姉妹には異世界人も手を焼くのか。

 落ち着いた目で田辺姉がローブ男たちを観察する。


「元の世界へ戻る方法があるのなら、この不思議なシステムを有効活用しつつ元の世界への帰還を図るのが当座の目的となりそうね。自由に動き回れるようになったら、まずは情報収集をしましょうか」

「アタシはバカだから姉貴の言う通りにするよ」

「無知の知は賢人への第一歩よ、樹」

「くひひ、アタシもカラダの方ならムチムチなんだけどなー」

「今のはとても面白いわ」

「お、面白いって言われても……姉貴はいつも真顔だからな……」

「私はただ真面目なだけよ」


 あの二人の空気はこんな状況でも不変か。

 見習いたい。

 さて。

 俺もやってみるか。

 ステータス確認。


「ステータスオープン、っと」


 どれどれ?

 俺のステータスは――

「え?」


【トーカ・ホーズキ】


 LV1


 HP:D

 MP:D

 攻撃:D

 防御:D

 体力:D

 速さ:D

 賢さ:D


種族:人族


スキル

 なし

固有スキル

 完璧再生(隠蔽)


【称号:D級勇者、不死者(隠蔽)】







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