第12話 変身ヒーローが異世界でハンターになる⑤

鬼崎ケンスケは世に言う正義の味方では無い。

その本質は復讐者である。


彼が復習に燃え敵対した対象が、たまたま「ダークマクロ」という組織で、偶然にも「世界征服」という人類社会にとって悪と呼ばれる行為を行っていたに過ぎない。

悪の組織を壊滅させた鬼崎ケンスケと言う人物は、結果的には英雄と言えるかもしれないが、勧善懲悪の物語に登場するような善の人ではないし、正義を体現する存在ではない。

故に、鬼崎ケンスケは、降りかかる火の粉に容赦をしない。

守るべき者に害意を抱く者に慈悲など持ち合わせない。


そしてその在り方を良しとする者が、マリア=アイゼンファウストという少女である。

彼女の魂に刻み込まれた「ケンスケ=キザキ」という存在は、文字通り絶対者でありその行いは常に肯定されるべきものとして、彼女に固定されている。

そして何よりも、無色の魔術を行使する自分を虐げてきた人々に対する、鬱積した負の感情が、マリア=アイゼンファウストという少女の、復讐を成す心のハードルを押し下げていた。

故に、目の前に手や足を、本来曲がるはずの無い方向に曲げていたり、地面に逆さに埋まっている人間が、地面の下からうめき声を上げていたとしても、自業自得だと考えてしまえる。


「なんかいちゃもんつけて来たかと思ったら、いきなり切りかかってくるなんて、何考えてるんでしょうねこの人たち。」


「さあな・・・チンピラの考える事はわからん。

 おい。お前、何が目的だ。」


声をかけられた、比較的無事――――それでも折れた鼻から血を流し、全ての前歯が折れ、地面に倒れている――――な男は、ケンスケを睨みつけると、話す事は無いと言わんばかりに顔を背けた。


「ふむ。」


ケンスケが興味が無さそうに鼻を鳴らすと同時に、男から悲鳴があがる。

男の指の先を、ケンスケの安全靴が踏みつけているのだ。


「言いたくないなら、別に無理にとは言わんが。

 さっさと吐かねば、手のひらから先が挽肉になるぞ。」


警告でもなんでもなく、単に事実を述べているだけと言った声のまま、靴をゆっくりと捻じる。

靴底は金属製のスパイクで補強されており、岩場や滑りやすい地面では有効に作用する。とりわけ鋭利ではないが人間の皮膚や肉程度ならば、問題なく挽き潰せる程度の強度は持っている。

ほれほれと、ケンスケが更に靴を捻じると、男が悲鳴の合間に口を開いた。


「い、いう!言うから!!勘弁してくれ!!」


スッとケンスケが靴をどける。


「で、目的はなんだ?誰かに頼まれたのか?」


男は腕を抱える様にしてうずくまり、チラチラと恨みがましい視線をケンスケに向けた。

ケンスケが足を動かすと、慌てて男が口を開く。


「だ、誰かに頼まれたわけじゃねぇ!

 今話題になってるルーキーの実力を見てやろうと思っただけだ・・・」


「はあ?」


「へぇ・・・そんな下らない理由で、わたし達のスペシャルなランチを邪魔したんですか・・・」


ケンスケが呆れたとばかりに声をあげる横で、マリアが静かに怒りの炎を燃やす。ロッドを一振りし、覚悟は出来ているのでしょうねと男にすごんでいる。

と言うのも、先日のカバルクトス討伐に時間を取られ、延期になっていた採掘依頼を無事に完了し、マリアの魔術の試験運用も予想外の火力があった以外は、上々の成果を得ることが出来たので、お祝いに豪華なランチでも食べに行くかという事になり、今ゼードラでも話題の人気店 桃色の館カーサロサーダのランチを食べに来ていたのだ。

テラスで料理に舌鼓を打っていると、突然二人に絡んできたのが目の前の男を筆頭にした数人だった。

まだ途中だった料理をテーブルごとひっくり返されれば、マリアでなくとも怒りたくなるという物だろう。


「あーあーあー、マリア待て。ちょっとだけでいい待て。そいつに聞きたい事がもう一つで来た。

 お前、今、話題と言ったな。いったいどういう意味だ。

 俺達は確かに実績を上げつつあるが、かと言って目をつけられる様な動きはしていないはずだぞ。」


「冗談じゃねーや。三階級も上のハンターチームをボコっておいて、そりゃ出来ねえ相談だ。

 もう、中堅以上のチームじゃお前らの話でよ。生意気な新人がいるってな。」


それにと男が続ける


「まだ、チーム登録もしてねぇって話じゃねーか。力づくでも有力な新人を自分のチームに引き込もうって連中が、血眼になってるぜ。」


そこでケンスケはマリアを見た。


「マリア、チーム登録とはなんだ?」


マリアの顔には「あーそういえば」という言葉が書いてある。


「ケンスケさん、チーム登録と言うのはパーティーを組んだハンター達が、ギルドに自分たちはこういうチームを組みましたと、届け出る制度です。」


「ほう。それがあるのと無いのでは、何か違うのか?」


「チームを組んだハンターは、ソロのハンターよりも戦術に汎用性があり、生還率と依頼達成率が高い傾向があります。

 ギルド側としては、生還率と達成率を高く見積もれるので、色々と優遇制度を設けて、ハンターがチームを組む事を奨励しています。

ただ、報酬額はソロのハンターと変わりませんので、山分けと考えると、構成員が多くなればなる程、一人一人の実入りは少なくなってしまうのがデメリットと言えばデメリットですね。しかし、人手がある分、複数の依頼をこなす事も可能なので、人材に余裕があれば、安定した収入を得ることが可能です。

また、チーム同士のトラブルを避けるために、既に登録されているハンターチームからの、無理な引き抜き等は禁止されています。」


「ほう。なるほど。

 つまり、この前のジェル男をボコした俺たちは、有望な人材として認識されてしまったのか。そして、特に所属しているチームも無い今なら、力づくでも自チームの傘下に収めたいと。そう言う事か。」


ふむ。とケンスケが考え込む。


「マリア。いっそのこと、俺達だけでチームを組んでしまってはどうだろうか。」


その問いに対して、マリアは首を振った。


「む。何か不備があるだろうか。構成する人数は複数人必用だとか。」


「はい。チームはスリーマンセルが基本構成です。わたし達では必用人数を満たしていません。」


それに、とマリアがちょっと困った顔をする。


「チームを登録するには、チームの名前が必要です。

 この前のじぇ、ジェル男?のチームも”風炎剣”という名前だったらしいですし・・・。わたし達のチーム名を決めておかないと、登録できないんです。」


「であれば、チーム名はマリアに任せる。

 このせか・・・この国の文化に疎い俺では、おかしな名前を付けてしまうかもしれないからな。」


「ええ!?わたしにですか!?

 えぇ・・・どうしよう・・・」


「そう気負う事はない。今すぐ決めろと言う話ではないんだ。

 将来的にパーティを組む場合までに考えておけばいいさ。」


そう言われても、チーム名とはそこに所属する人間が背負う看板だ。適当な名前などつけることは出来ない。

格好良く?それとも、格調高く?雄々しく?猛々しく?

黙りこくって悩んでしまったマリアにケンスケは苦笑する。


「ともあれ、台無しにされた昼食をやり直そう。」


そう言うとケンスケは、遠巻きに見ていたウェイターを呼びつつ、ひっくり返されたテーブルを片付けるべく歩き始めた。



【side:???】


銀行の窓口から受け取った小さな袋を持ち上げると、チャラ・・と軽い音を上げた。

袋には財布と言う名前がついているけど、これじゃむしろ小銭入れ。そして、中に入っている金額も小銭と言われても仕方ない程度の額。


「ハァ・・・」


ほとんど癖になってしまったため息をつくと、財布―――今回の依頼の報酬―――を懐にしまう。

少額とは言え、なけなしの財産だ。切り詰めれば半月は食いつなげる。

銀行から出ようとすると、扉の横に自分と同じように報酬を受け取りに来たのだろうハンター達がたむろしていた。

自然とその横を通る形になり、ハンター達の話が聞こえてくる。


「聞いたか?”風炎剣”が新人にやられたってよ・・・」


「ああ。相手はたった二人、それも赤色等級レッド橙色等級オレンジだって話じゃねえか。」


「そうなんだよ。女の方は前からここにいた魔術師らしいんだが、一緒にいる男が来る前は、その辺にいる普通のハンターだったらしい。」


「へえ!?それが、三階級も上のチームをやってまったてのかい?

 そんな話があるもんかね?」


「それよ!おれぁ、その男がなんじゃねえかと踏んでるんだ」


「なんでぇ、そのいわくってな。」


「例えばよ、どこぞの王国が抱えていた指南役とかよ」


「はあ?なんでそんな奴がこんな辺境にいるんだよ」


「わかんねぇけどよ、その女が以前とは別人みてぇに強くなったって言うじゃねえか。そうとでも考えねえと、辻褄が合わなすぎらあ。」


ここ数日、ハンター達の噂話に上る二人組。

やれ、大型竜種を片腕で討伐しただの、山火事を起こした未知の獣種を討伐しただの、かなり眉唾な内容が多い。

ただ、彼らが噂に上るきっかけ。つまりこのハンター達が話している事件に限っては、ギルド内で発生したことと、目撃者が多数存在している事、そしてなにより、その時に破壊されたギルド内部の壁が目下修復工事中であることから、真実であるとして、瞬く間にゼードラ中のハンターに広まった。

世の中には、そんな嘘みたいな新人がいるという事実に、嫉妬という黒い感情が湧きだしそうになる。しかし、自分の現状を改めて考えると、お門違いな憤りであると理解できるし、そもそも自分の実力が足りないのだ。むしろ本来の目的も達する事が出来ずに燻っている自分には、そんな感情を抱く資格すらない事にうんざりする。

彼らがこれから登り詰めていく鳥だとしたら、自分は地面に這いつくばる虫か何かだ。

自分には関係ない。ただ、仮にそんな人達と出会う事が出来たら、ひょっとしたら自分も一緒に成長できるのではないか。そんな空想を弄ぶくらいの自由はあるだろう。

また一つ、癖になったため息をつくと、ギルドを離れ、ちょっとだけ潤った懐を頼りに、昼飯を食べに向かっていった。

そして、馴染みの定食屋に続く角を曲がったときに目にしたものは、ゼードラでも上位に入るハンターチーム”五本剣”がたった二人の男女にボコボコにされている光景だった。


――――こ、この二人が噂のっ!?――――


男は素手であるにもかかわらず、剣を持った男達を頭から地面に沈めていき、女――――というより少女と呼べる年齢だろう――――は、その身体からは想像できない威力の蹴りと、人間離れしたスピードで剣を持った男達を頭からそこら辺の壁にぶん投げていた。


――――強い。これが下位のハンターなんて誰が信じるんだ――――


二人は瞬く間に5人のハンターを制圧すると、意識を保った唯一の男に尋問を開始した。

野次馬がざわついていて聞き取りにくいが、どうもチーム登録をしたいらしいが、メンバーが足りないらしい。

男が残念そうにため息をつくが、すぐに気を取り直して昼食を取り直すようだ。


―――今が、チャンスかもしれない・・・――――


先程の空想が頭をよぎる。もしかしたら自分もあそこに肩を並べられるのかもしれない・・・。

しかし、そこで足踏みしてしまう。原因は死屍累々と転がる”五本剣”達だ。もし二人の気分を害してしまえば、自分も同様の運命を辿るのではないか。

ついに、二人が昼食を終え、席を立つまで物陰から見つめ続けるしかできなかった。


――――ボクは何をやってるんだ・・・――――


気付けば、二人の後ろをつけている。気付かれない様に、持てる技術の全てを使ってだ。

仮に見つかったら、言い訳も出来ないだろう。

ビクビクと怯えながら、それでもいつか声をかけるタイミングがあるかもしれないと、未練がましく二人を尾行していくと、いつの間にか人気のない裏路地へと踏み込んでいた。

路地は大人が3人ほど並んで歩ける程度の広さがあり、左右には軒を連ねる建物の裏口が並んでいる。どの建物も二階建て以上あり、路地は昼間にも関わらず薄暗く、地面のくぼんでいる所には、じっとりと湿った泥が堆積している。建物の向こうからは、表通りの喧騒が聞こえてくるところを見ると、それほど入り込んだ場所でな無いのかもしれない。

いつもなら、何も気にすることなく通り過ぎる様な裏路地だが、今日ばかりはなにか来てはいけない所に踏み込んでしまったような気がする。


「よう。そろそろ、顔を出したらどうだ。

 わざわざ、人気が無いところまで来てやったんだ。恥ずかしがる事はないだろ。」


不意に先を歩いていた男―――ケンスケ―――が立ち止まり、こちらを振り返った。

自分の他に誰か居ないかと後ろを振り返るが誰もいるわけもなく、顔を男に戻すと、遮蔽物越しにも関わらずしっかりとこちらを見つめて手招きまでしている。

自分の行動がこの後の命運を分ける事態に陥った。

人間、窮地に陥るととんでもない速度で思考が回転し始める。

仮に、このまま遮蔽物(道端に置いてある木箱)に隠れてやり過ごそうとした場合・・・遮蔽物ごと蹴り飛ばされる未来が、簡単に予想できた。この案は却下だ。

次に、逃げ出した場合。自分が持っているスキルを考えると逃げ切れる可能性は高いように思えた。しかし100%ではない。賭けに出るにはリスクが高すぎる上に、逃げ切れたとしても、その後はあの二人に遭遇する危険に怯えながら過ごすか、この街を出るかだ。そもそも、自分はそんな事をするためにあの二人を追いかけていたわけじゃない。却下。

では、取れる選択肢は一つしかない。

覚悟を決めて、二人の前に姿を現す。二人から向けられる凍える様な殺気に身を震わせたが、殺気は一瞬で霧散し、その代わりに少しだけ驚いている二人の顔がそこにあった。



【side:ケンスケ&マリア】

後をつけられているのは、すぐにわかった。あれだけの大乱闘の後だ。隠れていた仲間が、意趣返しに来たとしても不思議ではない。

しかし、手を出してきやすいように、人気のない所まで来てやったが、一向に攻撃してくる気配がない。というか、殺気というか害意というか、そういった攻撃的な気配が感じ取れない。

このままではらちが明かないので、声をかけてやる事にした。


「よう。そろそろ、顔を出したらどうだ。

 わざわざ、人気が無いところまで来てやったんだ。恥ずかしがる事はないだろ。」


物陰の気配がうろたえているのが分かった。あまりに素直な反応で、むしろほほえましくすら感じてしまう。

ケンスケが笑いをこらえていると、ジャリと足音がした。

気持ちを切り替えて、追跡者を凝視する。ケンスケとマリアの殺気を受けながらも、その場に姿を現した人物は、あまりにも想像からかけ離れていた。


金髪というよりも、白金に近い頭髪は上質な絹の様で、短く切りそろえられたそれは、宝石の様な碧眼によく映えていた。

整った目鼻立ちは中性的で、年の頃は14歳くらいか。

身長はマリアに及ばない程度で、草木で染めたのだろう、くすんだ深緑の上下に胴だけを覆う革鎧、光沢を消した金属の手甲とひざ下まであるブーツを履いている。

そして最も目を奪われるのは、そのとがった耳だ。


「エルフ・・・の少年?」


軽い驚きと共にマリアが目を見張る。

その横のケンスケも驚いていた。ドワーフがいるくらいだ、当然エルフもいるとは思っていたが、実際に目の当たりにすると、やはり驚いてしまう。


「子供、ではないッス。これでも二十五歳で、成人しているッス。」


恐る恐るといった具合で、エルフの少年が口を開いた。


「二十五歳!?どう見ても14かそこらだが・・・」


「いえ、ケンスケさん、彼の話は本当かと。エルフは人間よりもはるかに長命で、成長が遅いと聞いたことがあります。」


なるほどなーと、ケンスケがしみじみと納得する。ファンタジーだなーと、じろじろと少年を眺めている。もはや、先程までのピリピリとした空気は嘘のようになってしまっていた。


「ところで、わたし達の後をつけまわして、いったい何の用?

 素直に姿を見せた所を見ると、敵意があるわけではないのでしょう?」


マリアの言葉にぎくりと、エルフの少年の肩が跳ねる。そして、あ、あの、と何度か口を開きかけては閉じるのを繰り返し、やがて意を決したように口を開いた。


「ボクを、チームに入れて欲しいッス!!」


静かな裏路地に、少年の声だけが妙に大きく響いた。


「チームに?君が?」


ケンスケがどうしたものかと言う表情で少年に問いかける。


「は、はい!お願いするッス!!」


ふむ。とケンスケが黙り、少年を観察する。しばしの沈黙の後、再びケンスケが口を開いた。


「なぜ、俺達なんだ?」


「え?」


「いやな、話題になっているとはいえ、本当の実力もわからない下位ハンター二人とチームを組もうというのは、あまりにもリスキーなのではないのかと思ってな。」


「ボクには目的があるッス。それは何があっても、この命に代えても成し遂げなくてはならないッス。

 それには、ボクは強くならなくてはいけないんッス。さっきの戦いを見て直感しましたッス。あれはボクが求めていた強さッス。それを近くで学ばせてほしいッス。」


そう言って、少年は背中に背負ったモノを掲げて見せた。


「せめて、これを使いこなせるように・・・」


「・・・斧?」


それは、一抱えほどもある金属の塊だった。強いて表現するなら、マリアが言ったように巨大な斧に見える。

しかし、通常の斧とは違い、複雑に金属の部品が絡み合い、非常に機械的に見える。斧の刃も通常の蛤刃ではなく、鋭利な歯車を切り取ったような形をしている。

ここが剣と魔術の世界でなければ、宇宙船の部品と言われても納得してしまうだろう。

少年の恰好には全く似つかわしくない、というかこの世界では異質と言える武器だった。


「少年。これをどこで手に入れた・・・」


ケンスケの声が驚くほど低く響いた。


「ケンスケさん?」


マリアが思わずケンスケを見る。纏う空気が先程までとは一変していた。じっと、エルフの少年が手にした金属の塊を見据えている。まるでそれが、今にも爆発する爆弾とでも言うように。


「少年。それをどこで手に入れたのかと聞いている。」


有無を言わさぬ雰囲気に、エルフの少年がしどろもどろに答える。


「こ、これは、ボクの家に、代々伝わる武器ッス。」


「いつからだ。これはいつからこの世界に存在している。誰が、どうやって作った。」


「え、えと、少なくとも曾祖父の代、えーと、2000年以上前には伝わっていたッス。

 誰が作ったのかはわからないッスが、ボクの一族の初代様が持っていたと言われているッス。」


「2000年・・・そうか。」


そこでやっと、ケンスケから力が抜ける。


「ケンスケさん、どうかされたんですか。あの武器が何か。」


「いや、ちょっと見覚えがあってな・・・」


―――細部は微妙に異なるが、組織が製造していた可変戦斧バリアブルアックスに間違いない。それがなぜここにある――――


「少年、この武器の名はあるのか。」


「は、はい。戦神の神器いくさがみのじんぎと呼ばれているッス。

 来歴は失伝してしまったッスが、城門を両断したとか、大岩を吹き飛ばしたとかって逸話がのこっているッス。」


――――城門を両断?大岩を吹き飛ばす?――――


「少年、触ってみても良いだろうか。」


「この斧はボクの一族以外が触ると、雷系の魔術が流れるようになってるッス。やめておいた方がいいッスよ?」


「いや、恐らく問題ない。」


「え?」


そう言って、ケンスケが戦神の神器に触れる。


――――上位権限よりアクセス:ID ブラックオーガ――――


その瞬間、ケンスケの目の前にウィンドウが開く。そこに書かれていた文字に目を見張る。


『開発コード:ARAHABAKI』


「・・・・アラハバキ?」


ケンスケの故郷、日本に伝わる太古の神の名だ。記紀神話よりも前の土着信仰に由来するとされ、その正確な伝承は失われている。荒ぶる神とも癒しの神とも言われる、形が定まらない神。


――――基になったバリアブルアックスと、開発コードから予測すると可変式の武器とは推測できるが・・・――――


更にアクセスを試みようとすると、アラームと共に警告が表示された。


『DNAロック』


――――上位権限でもメインフレームにアクセスできない?アンロックには特定のDNAパターンが必要?――――


考えても答えが出る物ではない。仕方なしにシステムへのアクセスを諦め、外部からスキャンする事にする。


【アナライズアイ】


バリアブルアックスよりも複雑にそしてより洗練された内部構造が、ケンスケの目に映し出された。


「これは・・・」


本来、バリアブルアックスは斧と重火器の2形態に変形できるマルチツールであったが、この戦神の神器アラハバキは更に複数の形態を持つ様だ。しかし、構造が複雑過ぎて、どのような能力を持つか皆目見当がつかない。

そして、何よりも目を引くのが


――――三重連発動機トライエンジン――――


外部からのエネルギー供給を受けて、このアラハバキの機構を稼働させるための機関だが、バリアブルアックスはこの試作型を1基のみ搭載していた。

それでも積み上げた戦車を唐竹割りに出来るだけの威力を誇っていたと記憶している。

地球では、改造兵士からのエネルギー供給で稼働していたが、


――――恐らく、これは魔力で稼働するのだろう――――


「少年、この武器は門を両断するとか、その程度の威力では収まらない。

 本来の力を発揮する事が出来れば、海を割り、小山を消し飛ばせるだろう。」


「えええ!?本当ッスか!?」


「本当だ。ただ、その力に常人が耐えられるとは思えない。

 命と引き換えに発動するとか、そういった伝承はないか?」


「え、そういう言い伝えはないッスねえ・・・

 曾祖父と祖父は何度か使って、竜を撃退したって聞いたことがあるッスけど。」


――――強化人類ブーステッドマン!?DNAロックは安全装置ではなく、強化を受けた使用者を判別するためか――――


しかし、とケンスケは目の前の少年に目を向ける。

どう見ても、大威力の武器を振える様な身体能力には見えない。


――――なにか、鍵があるのだろうか・・・――――


いずれにしろ、この場では答えは出ないし、このまま彼を帰すわけにもいかなくなった。むしろ手元に置いて、色々と調査したい。


「マリア、俺はこの少年をパーティに加えたいと思う。」


「本当ッスか!!」


「け、ケンスケさま!?ど、どういう事ですか!?なにか、ケンスケさんの琴線に触れるものがあったのですか!?」


少年趣味なのかしら?と聞こえた気がするが、あえて無視する。


「少年、俺はケンスケ=キザキ。君の名を聞かせてくれ。」


「ボクは、アンナエルッス。アンナイル=マルディールッス。

 始祖に金色の男マルディルを持つ、東方のエルフッス。

 エルと呼んで欲しいッス!」


その数日後、ゼードラの町にまた一つのハンターチームが誕生した。

噂の新人がチームを組んだという話は、それまでの噂も相まって瞬く間にゼードラのハンター達に伝わった。






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