第5話 変身ヒーローが異世界観光する②
駅馬車の終着点であるゼードラの町は、「町」という単語から想像していた規模とはまるでかけ離れている。
外洋へと続く港と、内陸へ伸びるいくつもの街道。そして、ドラゴンは勿論、様々な生物が生息する平原と森林が交錯する特殊な立地条件のど真ん中に位置するこの都市は、国とすら呼べる程の規模を誇る。
人類の生存圏を外敵から守護する要塞都市として、そして技術の最先端が終結する前線基地として発展を遂げている。
左右を見渡しても端が見えない長大な城壁は堅牢で、ドラゴンブレスや大型竜種の体当たりにすら耐える構造になっている。
城壁の根元には、丸太程もある穴が無数に空いている。有事の際には、その穴から突き出た衝角がバリケードの様に張り巡らされる。
正に、人類生存圏の最前線を死守する城壁と言える。
そしてその城壁の奥に、高々とそびえる都市行政の中心「ゼードラ城」。
ゼードラは王制ではなく、首都から派遣された国王の代理人「執政官」が統治を行っている。
一般的に、権力構造の上層部には腐敗が付き物だが、この都市が担う役目を全うするには、私腹を肥やす小役人や無能な官僚では、その機能を損なうばかりで務まるわけもなく、その人選には最大の注意が払われる。
厳しい審査を経て選ばれた歴代の執政官は、未だかつてこの都市の後ろにモンスターを通した事が無く、それを自らの義務とすると共に、最大の誇りとしてきた。
そのため、都市が保有する騎士軍、その中でも騎士団、魔術師団、海兵団の三軍は精強と名高く、全国に名が通ったハンター達ですら、一目置くほどであった。
自然とハンターギルドが幅を利かせるという事はなく、官民の連携は非常に円滑となっている。
そこを手本とし、他の分野においても同様の関係性が築かれており、行政のバックアップの下、民間企業が発展していき、経済が活性化すると共に税収も上がる。そしてまた、それを財源として、行政がバックアップ体制を強化していくという、都市運営としては理想的とすら言える状態となっている。
そしてその「ゼードラの町」改め「要塞都市ゼードラ」のハンターギルドは、今日もハンター達でごった返していた。
グルドラを討伐した森から馬車を走らせる事、丸一日。
俺が馬車の中で目が覚めて半日程度が過ぎ、ようやく馬車はハンターギルド前の広場に到着した。
マリアの怪我は予想以上に回復しており、今では問題なく歩けるほどまで回復している。
「昔から体は頑丈なんです!」とマリアは特に不自然に感じている様子はなかった。
長い道中、マリアの身の上話を聞き、パーティを組む上で一つ決めたことがある。
俺がこの世界から来た人間ではない事を打ち明ける事だ。
彼女の人柄は充分信頼に値すると判断した結果だ。
重々しく口を開いた俺に、彼女は実にあっけらかんとこう答えた。
「逆に納得しました。
あんな戦い方が出来る人が、同じ世界の人なんてそうそう信じられる事じゃないですし。」
割と決心を固めた上で話したつもりなんだが、肩透かしを食らった感じだ。
個人の技能を尊重するハンターならではの感覚なのだろうか。
ただ、マリアがすんなりと受け入れてくれたからと言って、他の人間が同じとは限らない。当面は記憶喪失を装う事にした。
そして、もう一つ決めたことがある。言葉遣いと互いの呼び方だ。
彼女は「マリア」と呼び捨てにしてくれと言い、それなら俺の事も名前呼びにして「様付け」はやめてくれと伝えた。
「命の恩人を呼び捨てにするなんて、礼儀知らずを世間に公言せよとおっしゃるのと同じです!
せめてケンスケさんと呼ばせてください!!」
半ギレで押し切られてしまった。
ではせめて敬語はやめてくれとお願いしたが、名前をさん付けにして敬語を使わないのは不自然極まるとこれも却下されてしまった。
途中休憩を挟んだとは言え、馬車に丸一日揺られ続け、ようやく地面を踏んだ俺とマリアは、馬車を降りると同時に思いっきり背伸びをした。
凝り固まった筋肉が引き伸ばされて、心地良い熱が走る。
「兄ちゃん、嬢ちゃん!またな!気をつけて帰れよ!」
道すがら仲良くなった御者のおっちゃんに、軽く手をふり別れを告げる。
マリアがおっちゃんの娘さんと同い年の17歳という事がわかってからは、それこそ娘を可愛がるような扱いになっており、別れ際の目尻には涙が浮かんでいるのが見えた。
馬車のロータリーから振り向くと、真正面にハンターギルド ゼードラ支部が建っている。
想像していたよりも、ギルドの建物はこぢんまりとしていた。
さすがに個人商店よりも大きいが、近所のファミレス程の敷地に、赤い煉瓦と木材の二階建ての建物だった。
ハンターと思しき人達がひっきりなしに出入りしている。
建物の色と人の量から、なんとなく東京駅を思い出す。
「役目の割に、意外に小さいんだな。」
拍子抜けした俺のことばに、マリアがクスっと笑う。
「この建物はギルドの窓口業務が主ですからね。
宿舎はもっと商店街に近い所にありますし、融資窓口や換金所は別の建物になっているんです。」
そう言って、広場を囲う様にして建つ建物を指さした。
見れば、建築の様式こそ違うが、全てにギルドの紋章であるドラゴンと剣の紋章旗が掲げてある。街のこのブロック全てが、ギルド関連の建物で埋め尽くされているようだ。
なるほど。ギルドが関係する業務は、この広場の周辺で全て完結できる仕組みになっているのか。
感心した様子で眺めていると、ふと周囲の視線が気になった。
通り過ぎざまに、露骨にじろじろと見て来る奴や、唐突に俺に気付いてそそくさと道を譲る奴から、遠巻きにしてこちらを見ながらひそひそと話し合う奴らも見受けられる。
「ところでマリア。」
「はい?」
「さっきから、周囲の視線が痛いのだが、どうかしたのだろうか?」
「あ~・・・それは・・・・」
そう言って愛想笑いを浮かべる。なぜか、目を合わせてくれなくなった。
しばらくどういうことなのかと問いかけたが「いや~ははは・・・」と笑うばかりで、どうにも答えてくれそうにないので、改めて自分の恰好を分析してみる。
はじけ飛んでノースリーブになった右腕。
空気が水あめの様に感じる程高速で動いた結果、半分ほど千切れ飛んだジャケット。
同じ理由でひざから下が引き千切れたパンツ。
地面との摩擦で靴底が消失した革靴。
・・・・・・・
「俺、遭難者じゃんっ!!」
「いや、今更ですか!?」
いやだって、御者のおっちゃんも普通に接してくれてたし!
ちょっとスースーするなーとは思ってたけど・・・
流石にこのままでは色々とまずいという事になり、俺とマリアは、ハンターがよく利用するという防具店で買い物をする事にした。
「すまんなマリア。この代金は必ず返す。」
「ケンスケさんは命の恩人なんですから、そんな事気にしないでください。この程度では恩返しの内にも入りません。
それに、グルドラの肉や素材があります。換金すれば、相当の金額になるはずですからね。いっそのこと、ケンスケさんの服一式を整えてしまってもいいくらいです。」
そう言って、マリアは店の中に入っていく。
木造の店内は外観から受ける印象よりも、かなり奥行きがあった。
左手には二階の売り場へと続く階段があり、その壁にも所せましと防具類が展示してある。
防具店と言うだけあって、鎧や兜、厚手のローブやマントが多く見られたが、インナーや通常の衣服も取り扱っており、一つのコーナーにまとめられていた。
マリアが店員と思しき女性に声をかけた。
グレーのタイトなパンツスーツで、細縁の眼鏡をかけている。アップにした赤い髪が印象的な40代くらいの女性だ。
その女性はマリアを見るなり、ツカツカと駆け寄ってきて思い切り抱きしめた。
「マリアちゃん!!どうしたのこんなに怪我して!」
良く見ると、涙を流しながらマリアの背中を撫でている。
マリアは町の人たちから可愛がられているんだろう。美少女という事は別としても、彼女の人間性は、確かに人に好かれるものだと思う。
「あ、あはは・・・クレアさん、ただいま戻りました。」
「おかえりなさいマリアちゃん。怪我の具合はどうなの?大丈夫なの?」
それまでがっちりホールドしていたマリアをガバッっと離し、両肩をつかんで隅々まで見渡す。
ひとしきり眺めた後、後遺症が残るような大きな怪我は無い様だと判断したらしく、やっとマリアから離れた。
「ちょっと、あちこちぶつけちゃいましたけど、大丈夫です。
それに、この方に助けてもらって、ちゃんと帰って来れました。」
そう言って、マリアは俺に視線を向ける。その視線を追うようにクレアさんの視線も俺を見る。
「貴方がマリアちゃんを助けてくれたのね。
ありがとう!!本当にありがとう!!」
そう言って、両手で俺の右手を握り、ぶんぶんと振り回す。
感情表現が極端な人なだろうか。
「アタシはここの店主、クレア=ロスよ。
産着から死に装束までそろえて見せるわ。よろしくね!」
その場で一回転して、右手を軽く顎にあてビシッとポーズを決めるクレアさん。
感情表現と言い、色々と極端な人なのだろう。
「鬼崎ケンスケです。
この町に来たばかりで、何もわかりませんがよろしくお願いします。」
それに対して俺は軽く頭を下げる事しかできなかった。
「ところであなた・・・」
急に真顔になって、クレアさんが俺の頭からつま先まで嘗め回すように何度も見返す。
「・・・なかなか斬新なファッションセンスしてるわね。」
クレアさんの意外な感想に俺は固まるしかなかった。
いつものことなのか、マリアは苦笑いを浮かべている。
「思い切ったスタイルは嫌いじゃないけど、アタシはキャッチ出来ないわねー。
ファッションは、実用性も兼ね備えるべきだとアタシは思うの。」
「いや、好きでこんな恰好をしている訳じゃないんですけどね・・・」
あらそうなの?と、ちょっと意外そうな目でをマリアに向ける。
「ケンスケさんはわたしを助けてくれた時に、こんなにボロボロになったんです。
せめてお礼をと思って、新しい服を買いに来ました。」
「そういう事なら、紳士服の棚があっちにあるわ。
マリアちゃんの恩人なら、全部三割引きにしてあげるから好きな物を選んでらっしゃい。」
「正直、助かります。見ての通り
資金のあてがあるとはいえ、それに甘える気にはなれない。
外を出歩けるだけの服があれば十分だ。
「ケンスケさん、気になさらなくていいのに・・・」
「すまんな。これは俺の性分だ。
それより、いい加減周りの視線が痛い。さっさと服を選んでしまおう。」
ハンター御用達の店だけあって、店内はそこそこ賑わっていた。
チラチラとこちらを見る視線が、あちらこちらから感じられる。俺はともかく、同行しているマリアの評判に悪影響が出ない内に、新しい服に着替えてしまいたかった。
選ぶこと数分。
俺が選んだのは、カーゴパンツの様な黒い作業パンツ。防具の店だけあって、普通のカーゴパンツよりポケットが多い。足首以外にもベルトが多く付いているのは、色々な物を括り付けるためだろう。
上は簡単な襟付きの白い綿シャツと、厚手の生地で出来た濃いネイビーのジャケットにした。
ジャケットと言っても、ビジネススーツの様な物ではなく、屋外用の作業着に近い。
ポケットやハードポイントのベルトが各所に設けてあり、ウェストのベルトを締めると、外気を完全にシャットアウト出来る作りになっている。空挺部隊などが着るミリタリージャケットが似ているだろうか。
靴は、とにかく頑丈な登山用のブーツをチョイス。値札の横にドラゴンが踏んでも大丈夫と書いてあったんだが、本当なのだろうか。
全体的に、特殊部隊員もかくやと言った見た目になったが、半分はわざとだ。
自分の稼ぎで服を買えるようになるまでは、この服が基本装備になる。
ある程度の機能性を確保しつつ動きやすさを重視した結果、現代の兵装に準じる以外に思いつかなかった。
それを見てクレアさんが一言
「酷いセンスと思ったけど、不思議ね。
無駄な物を省いた、機能的な美しさを感じるわ。
ありふれた言葉だけど「戦う男の色気」とでも言うのかしら・・・悪くないわ・・・。」
及第点はいただけたようだ。
俺とマリアは下着類や予備のシャツ、パンツをまとめて数点買うと、クレアさんの店を後にした。
「しかし、マジックポーチって便利なもんだな。これさえあれば他の鞄が要らないじゃないか・・・。
物流の概念が覆るぞ。」
実は、会計を終えた時に一騒動あった。会計のために並べてあった服が、マリアのマジックポーチに収納されたのだ。文字通り一瞬で目の前から消えた服に、俺は驚きを隠せなかった。
「確かにマジックポーチは便利ですが、ランクによって容量に限界がありますし、何より非常に高価です。
わたしは両親から譲り受けましたし、両親も祖父母から譲り受けたそうです。普通に購入すると最低ランクの物でも一軒家が買えてしまうほどの金額になっちゃいますから、代々受け継いで使うのが一般的ですね。
上位のハンター達は当たり前に持っていますが、中位以下のハンターが持っている事は稀ですね。」
「なるほど・・・便利なばかりではないという事なんだな。
このマジックポーチは、どんなものでも収納できるのか?」
「ほぼ全てのものが収納できますが、生命を宿したものは収納できないとされています。つまり人間や動物は収納できません。
でも、容器に入った虫や植物は収納できるんですよね・・・。」
そういえば不思議です。と小首をかしげるマリア。
どうもかなりざっくりした基準の様だ。アイテムとして成立するかどうかが選別の基準なのかもしれない。
そうこう言いながら歩いている内に、もう一度ギルド前の広場に到着した。
今度は人目を引くという事はない。
堂々と人の流れに乗り、ギルドの中へと入っていく。建物に入って正面のカウンターが依頼の受注・報告の受付らしく、手慣れた様子でマリアが依頼の終了を申請する。
ついでに俺のハンターギルド加入申請をしていこうと思ったのだが、マリアが言うにはギルドの加入には試験を受ける必要があり、その試験も常時行っているが順番待ちとの事。一応、次回の試験日はいつになるのか受付に問い合わせると、今申し込んでも試験日は来週になるとの事だった。
ヒモ生活がもうしばらく続く事にげんなりしたが、仕方がない。
今回は加入試験の申込と素材を換金するだけにしようという事になり、ギルドが運営する換金所へ向かう。
ここまではスムーズだった。
問題は換金する素材がグルドラ丸々1頭分あるにも関わらず、マリアがいつも使っている下位素材用の鑑定窓口にうっかり持ち込んでしまった事だ。
換金所に到着すると、マリアはいつもの窓口に行き、いつもの様に顔なじみの鑑定員と軽く話しながら、いつもの様に素材を取り出した。
潰れる机、ひしゃげる床、壁に押し付けられる職員数名。下敷きになった書類は数知れず。
「アイゼンファウストさん!しまって!しまって!!」
小山の様なドラゴンの向こうから、マリアの担当になった鑑定官の悲鳴が聞こえる。
「え!ええええ!は、はいぃ!!」
後に残ったのは、グルドラ型に破壊され散乱した元机や棚であったもの。残骸の山だ。
「あなた、グラファンボアの討伐依頼を受けたんじゃないんですか!?
何をどうやったら、猪狩って大型竜種の素材が丸ごと出てくるんですか!!いったいどういう事です!
大型竜種討伐の申請書は出ていませんよ!?」
「す、すみません!!
つい、いつものクセで忘れていましたぁああ!」
平謝りするマリア。どじっこ・・・いや天然なのかな。
「まったく・・・次からは気を付けてくださいよ!
ドラゴン素材の換金には、別途討伐報告と換金申請が必要になります。
奥に専用の鑑定室がありますから、書類に記入して奥の職員に提出してください。」
口調は厳しいが、てきぱきと指示がだされた。責める空気はあまりなく、どこかやれやれと苦笑されているような印象を受ける。
「なんか、思ったより怒られないんですね。」
意外というか、お小言らしい事もほとんど言われない事を疑問に思う。
鑑定官は、はぁ・・・と小さくため息をついた。
「年に何回かあるんですよ。初めて大型竜種を討伐したパーティーが、いつものノリで素材を取り出すんです。
だからほら、机も棚も安物でしょ?反対に、床だけは頑丈にしてありますし。」
そう言って、鑑定官は足元をダンダンッ!と踏み鳴らす。確かにあれだけの重量が乗ったにも関わらず、全く歪んでいない。
それに・・・と鑑定官は続ける。
「初めての大型竜種討伐はある種、一人前のハンターになったというイベントですからね。
討伐した当人達は今までの努力の結実。そして、それを見守って来た我々ギルド職員にとっても感無量です。
ガミガミと怒る気にはなれません。」
眼鏡の奥で、優し気に目元が緩む。その様は、子供の粗相に苦笑する親の様だ。
俺とマリアはもう一度謝り、奥の鑑定室に入った。
鑑定室は、「室」とは名ばかりの、体育館がすっぽり入る程の巨大な円筒型の空間だった。
壁は木造で、馬車2台がすれ違える程大きい扉が設けてある。
高い天井には照明の他に、大型の滑車がいくつか取り付けてあり、太い鎖がぶら下がっている。
床は滑らかに磨かれた石が隙間なく敷かれており、微妙に中央に向かって傾斜している。
中央には排水口の様な穴がいくつも空いている事から、ここでドラゴンを解体することもあるのかもしれない。
「ほえ~・・・始めて入りました。」
「これは圧巻だな。鑑定室と言うより、大きな工房の様に見える。」
「その通りじゃ若いの。
鑑定が終了した大型種は、竜種・獣種問わずすぐさまこの場で解体される。
鑑定室にして解体・加工場、そして出荷拠点。まさに工房と言って良い。」
突然頭上から声をかけられた。
見上げると、滑車から伸びるフックに足をかけ、鎖を掴みながらカラカラと降りて来るずんぐりとした体形の小柄な爺さんがいた。
サイドを残して禿げ上がり、残った白い髪を角の様にビシッと後ろに向かって立てている。
髪と同様に白い髭が蓄えられており、黒と深緑の鑑定官の服に身を包んでいる。
年齢を感じさせない強い意志を宿した目が印象的だ。
マリアが横で「ドワーフだぁ!」と驚いている。あれがドワーフか。
おとぎ話なんかではよく聞くが、実際に目にしたのは初めてだ。
爺さんはフックから降りると、ツカツカと俺たちに歩み寄って右手を差し出した。
俺の胸くらいまでしかないため、右手を上に差し出すような格好になっている。
「鑑定官のジブ=マクレーンじゃ。よろしくの。」
「マリア=アイゼンファウストです。よろしくお願いします。」
「ケンスケ=キザキです。よろしくお願いします。」
俺と握手をしてジブさんは何かに気付いた様だ。
「なんじゃお前さん。ハンターじゃないのかね。
そんでこっちのお嬢さんは
よくもまあ、グルドラの討伐なんぞやってのけたもんじゃな!!」
さも愉快そうにカラカラと笑うジブさん。
「いやいや。失敬失敬。
いままで色んなパーティーがいたが、こんなケースは初めてでな。
年甲斐もなく、つい楽しうなってしまったわい。」
どうも俺たちがやった事は、思っている以上にとんでもない事らしい。
「どれ。そしたら、そのグルドラをここに出してみぃ。
真ん中からっちょっと脇に置いとくれよ。
排水口の上に乗せると、詰まってしまってな。後が大変になるんじゃよ。」
「は、はい。」
マリアがポーチからグルドラを取り出す。
身体と頭が別々に置いてあるが、改めて見るとやはりデカい。
「ほっほう!!
こりゃ大物じゃわい!!
腕が鳴るのう!」
飛びつくように走り出すジブさん。
小さなハンマーでたたいたり、拡大鏡で隅々まで調べる事30分
「とんでもない上物じゃぞお嬢ちゃん!
竜の心臓は無傷。なんでか顔面に拳大のへこみがある以外はほぼ無傷じゃ!!」
拳大のへこみとは、間違いなく俺の拳の痕だろう。
まさか、ぶん殴った痕ですとは言えるわけもなく、俺とマリアは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
それはそれとして、聞き慣れない単語があった。
「竜の心臓?」
俺がたずねると、ジブさんが珍しい物を見たような顔になった。
「なんじゃ。竜の心臓も知らんのか?」
「あー!!ジブさん!
ケンスケさんは、グルドラと戦った時に強く頭を打ったらしくて、名前以外の記憶が思い出せないんです!」
「なんと!
まあ、そりゃそうじゃろ。これだけ成長したグルドラを二人で仕留めるなんてことは、並大抵のことじゃあない。
むしろ、よく生きて帰って来たもんじゃ。
ケンスケとやら、気を強く持つんじゃぞ。」
グルドラの上で腕を組み、うんうんと頷きながら涙ぐむジブさん。
なにやら、彼の中で俺の物語が完成している様だ。
「竜の心臓と言うのはな。別名竜核とも言ってな。
竜種であればみんな持っとる。竜種の魔力と命の源みたいなもんじゃ。
武器や防具の素材としても優秀でな、伝説級の武器には必ずと言って良い程使われておるんじゃよ。」
「はー。文字通り、竜の心臓部なわけだ。
それが無傷ってことは、換金額もかなりな物になるんだろうな。」
さりげに金額の釣上げにかかる。しばらくはマリアの厄介になるんだ。いくらかでも色が付いた方が良い。
「そりゃそうじゃ!!これだけの上物なら庭付きの屋敷が・・・」
そこでハタと気付いて、ジブさんが俺を睨む
「・・・なんじゃ若いの。
なかなかやるではないか。」
俺とジブさんがニヤリと笑う。
「で?いくらになるんだ?」
「ふん。大金貨130枚でどうじゃ?」
盛大にどや顔をしているが、そう言えば俺はこっちの貨幣価値が全く分からない。
横に立っているマリアを見ると白目をむいて固まっている。
あ、これは駄目だ。放送しちゃいけない顔になってる。
「お、おい、マリア?大丈夫か?おい!」
方を掴んでがくがくと揺さぶる。
「はっ!!」
「大丈夫かマリア。」
「は、はい。つい非現実的な金額を聴いて、あっちの世界に行っていました。」
「そうか。よく戻って来たな。
ところで教えてくれ。大金貨130枚ってどのくらいの金額なんだ?」
「えーと、例えるなら大金貨は1枚で、高給取りで知られるギルド上級職員の給料2か月分ほどになります。それが130枚・・・
あ、だめ・・・お腹痛くなってきた・・・」
つまり大金貨一枚で最低でも60~80万円の価値がありそれが130枚あるとなると
7800万~1億円オーバー・・・・。
とんでもない金額だ。そりゃ腹も痛くなる。
「なんじゃ?不服か?
言っておくが、ギルドは正当な評価に見合った正当な金額を支払う。
これ以上はびた一文払えんぞ。」
ニヤニヤしてこちらを見るジブさん。ああ、この人はわかってやってるな。
「いいえ!不服なんてございません!
謹んで頂戴します!」
ザザザッ!と最敬礼で返事をする俺らと、それを満足気に見るジブさんだった。
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