煌雫祭こうださいはどんな祭事よりも静かで感動的だった。

 聞こえるのはあちらこちらで息を飲む音と東屋の屋根に弾かれる雨音だけで、誰もが煌々と輝くトオキョオの姿に見惚れていた。私もそんな誰もと同じように架良鵠人形からくぐいにんぎょうのような表情をしていたに違いない。


 トオキョオの年に一度だけ開かれる煌雫祭。

 探照灯が雨を照らし、闇の中に夜のトオキョオを浮かべる。トオキョオ駅は黄金色の輝きを放ち、後ろに聳える建造物群は白や橙色の光を無数の窓から零していた。連なる自動車は光の列となり通りを照らしていた。

 光はどこまでも続き、どこまでも続く光の町は華やかに明滅を繰り返していた。それはまるで夜空に咲いては散る花火のようだった。


 こんなにも素晴らしい景色をどうしてもっと長く眺めることが許されないのか。

 トオキョオの輝きには魔性の力があって、長く眺めていると重度のトオキョオ病にかかってしまう。

 だからなんだというのか。

 それならそれでいいのではないか。


 私は瞼の裏側で煌めき続けるトオキョオを思いながら、石灰みたいな灯りに照らされた竹ノ坂通りを下った。

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