第4話 キリギリスとアリ
夏の始まり
切り株に座って、下手くそな弦楽器をキリギリスが弾いている。
ギイギイ、ギイギイ…お世辞にも上手いとは言えないが、キリギリスは一生懸命に弾いている。
その脇を、アリたちが重い荷物を背負って黙々と働いている。
冬を越すための餌を運んでいる。
真夏
少しづつ上手くなってゆくキリギリス。
その脇を黙々と働いているアリたち。
しかし、アリたちは、キリギリスの演奏に少し苛立っている。
働くこともせず、何もせず、ただ、楽器を奏でているキリギリス。
アリたちは、自分たちの生活に虚しさを感じていた。
でも、冬を越すためには、一日も休むことなんてできない。
冬を越すために…冬を越すために…
ノー天気なキリギリスとは違うんだ。
しかし、何だか無性に腹が立つ…
夏の終わり
素晴らしく上手くなったキリギリスの演奏。
その上手くなった演奏がアリたちの神経を妙に逆撫でする。
キリギリスを睨みながら重い荷物を運んでいるアリたち。
アリたちは、キリギリスに聞こえるか聞こえないくらいの声で、キリギリスの悪口を言いながら、キリギリスの横を過ぎていく。
そのアリたちの怒りの気配を感じるキリギリス。
なるべく気にせず演奏を続けようとしたキリギリスだが、遂に、頭に来たキリギリスは、演奏を止めると、アリたちに向かって、
「僕たちは、君たちみたい冬を越すことなんて出来ないんだッ。寒くなったら消えていくしかないんだッ。だから、僕たちは、精一杯、この短い季節を精一杯生きているんだッ。何が、何が悪いってんだッ!」
その瞬間、アリたちの足が止まった。
フッと、夏の夕暮れの生暖かい風が吹いた。
再び歩き始めたアリたち。
ただ黙々と冬を越すための餌を巣に運び込むアリたち。
もう、キリギリスの方を見ることは出来なかった。
秋
切り株に立て掛けられた弦楽器。
そこにはもう、キリギリスの姿は無かった。
秋風が、一瞬強く吹いて、弦楽器を枯葉の上にパタンと倒していった。
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