第62話 本屋さんと晩秋の風
今日は朝からどんよりした空模様
まるでもう夕方みたいな感じである
それ程でも無い風なのに冷たく感じる
おかげで、店は少しにぎわってくれる
入れ立てのコーヒーの香りはやはり良いものである
温かみが増すような気がする
店店でそれぞれの香りというものがある
私はこの商店街の本屋さんの香りが好きだ
最近は郊外にレンタルDVD店を兼ねたチェーン店などが増え、客足はかなり減っている様だが、私にとっては本の注文なんかがやり易いのでとても助かっている
私一人でこの本屋さんを支えることは当然出来る筈は無いが、なるべく、この店でDVDやCDなんかも注文する事にしている。
別に急ぎの品物など無いので私には大変便利で都合がよいのである
午前中、頼んでおいた本が届いたと連絡があったので、昼過ぎ、老犬との散歩のついでに寄る
老犬のリードを街路樹の枝に引っ掛けて、店の中へ
老犬も心得たもので大人しくお座りをして、吠えたりなんかしない
少し古びた感じの本屋さん
店の中は本屋さん独特の香りがある
この香りは私の好みでもある
私は本を受け取りながら、改装でもしてみたらと話してみたが、亭主は首を横に振り、
「子供が継がなきゃ、これまでだよ」
と、少し寂しそうに話してくれた
その寂しそうな顔を見て、こちらも少し寂しくなった
店を出ると老犬は道を行き交う人達に頭などを撫でられていて、かなりご機嫌なようで、私が出てきたことにも気付かない様子
寂しい気持ちが増した
帰り道、少し風が強くなってきた
枯れ葉が冬の風に翻弄され、右へ左へ、やがて小さな渦を作り
そして、私達の前をどうする術も無くただ駆け抜けて行った
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