第49話 幸せの色
「ねえ、幸せって何色だと思う?」
急な質問。
カウンターで、少し日焼けした彼女がクリームソーダのアイスを少し長細いスプーンで器用にすくいながら、カウンター越しに老犬に一方的に語りかけている。
「本当にバラ色の人生なんてあるのかあ…」
老犬は彼女の質問の意味よりも彼女の言葉のリズムが心地よいのか、嬉しそうにペッタン、ペッタン、シッポを振っている。
冷たいクリームソーダ、汗をかいたグラス、夏の陽射しを受けてキラキラ輝いている。
彼女はクリームソーダのアイスの終わり掛けをスプーンでソーダに溶かしながら…
「それにさあ、バラ色って何色?」
グラスの中で、ソーダ水の濃い緑青色が柔らかな色に変わってゆく。
彼女は、首を傾げ、バニラの色が拡がっていくクリームソーダの緑青色を横から覗き込む様に眺めながら、
「ソーダ水色の幸せ、とか、コーヒー色の幸せとか、そんなのもあるのかなあ…」
グラスの汗を少し日焼けした指先で拭いながら呟いている。
今は夏休みなので、クラブ活動の後、3日に1回はこの店に寄っては気まぐれにサックスを吹いてくれている。
学生は夏休みでも世間は真夏の平日の午後、店の客もまばらではあるが、常連の客などが彼女の“気まぐれコンサート”を楽しみにやって来たりする。
それはそれなりに、彼女も嬉しそうなのだが…
「ねえ、ちょっとは答えてよう~」
彼女は、いくら質問しても答えを返してくれない老犬に少しもどかしさを感じながら、ソーダ水の泡の行方を目で追っている…
中学2年生の夏休み…
最近の彼女は、理想と現実の狭間で何やら少し消化不良気味のご様子…
夢や希望は果てしなくエンドレスなのに、余りにも今の自分が小さく見える…
将来を見つめた時に、何かをやりたいエネルギーだけは満ち溢れているのに、その何かが見えてこない…
そして、ついには、本当は何を求めているのかすら分からなくなってしまうもどかしさ…
時が経ち、振り返ると何であんなことにあんなに悩んでいたんだろうと思えることでも、今の彼女にとってはとても大切な事なのだろう…
彼女にとってはまだ始まったばかりの青き春の日々である…
夏だけど…
今の彼女にとって、本当の幸せの色は、いったい何色なのか?…
彼女なりにその答えを見つけるにはもう少し時間が必要なようだ…
飲み干した彼女のソーダ水の氷がコロンとグラスの中を滑り落ちた。
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