第39話 優しい冬
優しい冬。
2・3日寒い日があるかと思ったら、暖かい日があったりする優しい冬。
でも、ここ2・3日はまた雪が降り続いている。
彼女は今日は窓際に座っている。
曇りガラスを手で丸く拭くとチラホラ降る綿雪。
肩をすぼめ、表の通りを歩いて行く人々。
”雪は窓越しに見るのが一番だよね”と、呟いていた彼女の気持ちも分かるような気がする。
彼女らしい発言である。
外を見ている彼女が、窓の向こうに小さく手を振る。
ちょっと間をおいて、“カラカラン”と扉が開いて、ミス・モーニングが入って来る。
「いらっしゃい…」
ミス・モーニングは小さく会釈して、足早に彼女が待つ店の奥の席へ。
老犬は何か言いたげな顔で私を見ている。
ミス・モーニングと彼女は、あの雪の日以来、よくここでお茶をするようになった。
そのためか、いささかサックスの事は忘れられている様だが…
私はそんなことより、彼女が私やサックスのこと以外に関心を寄せてくれていることに少し嬉しさを感じる。
彼女のキラキラしている目を見ているとなんだか安心する。
これもまた、“冬の暖かさ”なのか…
冬来たりなば春遠からじ。
優しい冬も冬は冬。
厳しい冬も冬は冬なのだが、私は、春の訪れの時の喜びを思うと冬は厳しい方がいいような気がする。
相変わらず日が暮れるのはまだ早い…
いつの間にか、店の中にはミス・モーニングと彼女だけ…
店内の照明に照らされたおしゃべりしている彼女たちの笑顔…
やがて彼女はサックスを取り静かに吹く。
優しくゆっくりと静かなメロディーがコーヒーの香りの中に溶けてゆく…
彼女の拭いた窓ガラスはまた曇っていて、もう外は見えない…
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