第22話 秋風に誘われて

 秋の風が、まだまだ厳しい夏の名残の日差しと不思議に調和しながら、河原の土手を駆け抜けてゆく。

 土曜日の夕方、店は開店休業状態だったので、【お散歩中】の札を店の扉に下げて老犬の散歩がてらサックスケース片手にやって来た。


 ひょっとしたら彼女が来ているかも。

 そんな淡い期待を抱いて来てみたが…

  

 彼女のサックスのレッスンは日曜日だけだけど、土曜日でも店に来ても構わないと言ってある。

 しかし、彼女は、まだ私以外の人には聞かれたくないようで、日曜日以外は大抵この河原でサックスを吹いているのだが…

 

 当てが外れて、老犬も少しがっかり。


 私もここに来たのは久しぶり。

 少し心地良い秋の夕暮れの風に誘われ、せっかくなので久々にサックスを吹く。


 何とも弱々しいサックスの音。

 我ながらその音に笑ってしまう。


 しかし、私も彼女のサックスの上達に関わっているのだから、それなりに上手く吹けるようにならなければ…


 遠くの田んぼで稲穂が揺れているのが見える。

 実をつけて、黄色がかった稲穂が揺れている。

 もう、秋なんだなあ。

 そう言えば、季節のBGMもセミの鳴き声から鈴虫の音に代わっている。

 

 私は何となくスローテンポな曲を吹く。

 秋の虫たちとのコラボレーション。


 秋の空はどこまでも高く、それは、果てしない宇宙へと繋がっているようだ。

 稲穂は重く首を垂れ、秋の始まりを感じさせる。


 しばらくサックスを吹きながら、彼女の登場を待っていたが、結局、彼女は現れなかった。


 老犬は、しょげたように顔を伏せてつまらなそうにしている。


 赤とんぼが、夕映えに映えキラキラ輝いていた。

 








 

 

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