第21話 夏色の風


 お盆が過ぎて、数日後。


 今朝はモーニングをしに彼女は来ていた。


 珍しく奥の窓際の席に座る。

 少し照れくさそうにモーニングを注文すると、持ってきていた文庫本を開く。

 誰かの詩集のようである。


 モーニングを食べ終わった彼女は、便箋を取り出す。

 誰かへの手紙? それとも詩? でも書いているようだ。


 少し書き進んだところで筆を止め、外を眺めている。 

 窓から行き交う人々を眺めながら、物思いにふけっている。


 彼女のテーブルには、柔らかな朝の日差しと一編の詩集。

 便箋には、書きかけの文。


 外を眺めている彼女。


 窓の外では、幼い女の子が歩道の花壇に咲いている小さな花を指差して、母親に何か話しかけている。

 そんな娘を微笑ましく見つめている母親。

 しばらくの間、小さな花を眺めている母娘。

 やがて、二人で手を繋ぎ歩いてゆく。


 そんな光景を窓越しに、なんだか少し羨ましそうに眺めている彼女。


 花壇の花をいたずらっぽく夏の風が揺らしている。

 青い空に流れる夏色の風。


 彼女は、まだ、外を眺めている。




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