第2話 夏の終わり

 夏の終わりの夕暮れ時、少し暑さも静まったころ、老犬を連れて少し遠くへ散歩に出る。

 今年は天気の良い日が多かったためか、田んぼの穂の実りも良いようで、稲穂も少し首をもたげている。

 まだまだ陽射しは強いが、田んぼを吹き渡る風は確かに季節の代わりを教えてくれているようだ。

 老犬も少し心地よさそうに涼しい風を感じながら、機嫌よさそうに、先頭に立ちシッポをフリフリ歩いている。

そして、私たちの影がその左斜め後ろを付いてくる。


 私は急に立ち止まった。

急にリードを引かれた老犬が、”どうしたのか?”と、振り向き私を見上げる。

 西の空、今まさに夕日が西の山の向こうに沈もうとしていたのであった。

 あまり太陽を直視するのは良くないが、私は時々やってしまう。

 太陽の丸っこい姿が、山の向こうに真っ赤な果樹がスクイーズでもされているかのように、山に押しつぶされて、真っ赤な果汁が空いっぱいにひろがってゆくかのように、辺りは茜色に染まってゆく。

 やがて陽は沈み、そして、私たちの後ろを付いて来ていた影もスーとその姿を消していった。


 ほんの数分の出来事なのに、そこはもう別世界に変わってゆく。夜の世界に。

 なんだか不思議な気持ちになってきた。

 他人からすればそんな私が気持ち悪く思えるのかも知れないが・・・


 老犬は、この現象をただの普通の出来事ととらえているらしく、何事もなかったように、再び散歩を始める。


 店に帰ってくる頃には、すっかり日は暮れていて、先程の西の山には一番星が。


 ゆく夏を惜しむかのように、しまい忘れた二階の風鈴がチリリン・・・と鳴った。

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