最終章-02
魔龍も黙ってやられているわけはない。
のだが、魔龍の魔法は大魔道によって全て防ぎ切られている。空間を自由自在に捩じ曲げて、敵の攻撃を跳ね返し、味方の攻撃の補正をするだけなのだが、それは一方的にぶちのめすと言うのだ。
数十いた魔龍は数分もせずに全滅した。
魔龍とは、各国の英雄的な強者を百人以上集めて討伐している対象だ。それが実に呆気ないものだ。
「今のって魔龍だよね?」
茜が恐る恐る確認する。
「そうですよ。奴らはヨルエの手下ですからね。」
「何か、可哀想じゃない?」
「彼らも侵略者ですから気にしなくて良いですよ。そもそも、魔物ってのは異世界から来た者の総称なんです。私たちもこの世界では魔族というわけですね。」
「角がある奴のことじゃないの?」
「それは学のない者に分かりやすく説明した方便です。魔物の多くが角を持っていますが、無い魔物だっていますよ。」
どこで手に入れたのか、大魔道は正確な知識を持っている。
ドーム型の建築物が並ぶ街並みを大魔道が先導して歩いていく。
建築物の中に何者かの気配はあるが、出てくる様子はない。魔龍も、最初に五十ほどが出てきたきりで、それ以降の襲撃は無い。
「ねえ、逆に魔龍がゲリミクに行ってるなんて無いよね?」
理恵が心配そうに言う。
「それをするなら、私たちに分かるようにするでしょう?」
「そうですよ。コッソリやったら、私たちがブチ切れるだけじゃ無いですか。人質ってのは無事だからこそ価値があるんです。死体に人質としての価値は有りません。」
「できない理由は他にもありますからね。心配しなくて良いですよ。」
二人とも冷静な理論家ということで、意見が合うようだ。
「そんな事よりも、見えてきましたよ。あそこにヨルエがいます。」
札幌ドームの十倍はありそうな巨大な建物の入り口を指して言う。
「張り切って行きましょうか。」
優喜が言うと、茜と理恵、そして芳香が荷電粒子砲をぶっ放した。
続いて優喜の重力粒子砲が炸裂し、建物を半壊させる。
いきなりの攻撃に、大魔道の目が点になっている。
だが、これが優喜たちのやり方だ。
『相手を近づけず、攻撃させずに、一方的に攻撃する』
それが優喜の掲げるスローガン。
優喜たちはさらに次々と砲撃を叩き込み、ヨルエの居住殿は完全に崩壊した。
「ゲレムの宮殿のお返しですよ。」
「そうだ、そうだ!」
「いきなりぶっ壊しやがって、許さないんだから。」
「十倍にして返してやる!」
「まあ、これでヨルエだけになりましたね。来ますよ、気を抜かないように。」
半ば呆れながらも、大魔道は優喜たちに注意を促す。
瓦礫の中心部に紫の光の柱が屹立したかと思うと、瓦礫を吹き飛ばしながら拡がっていく。
『神の間』を気取った部屋は破壊され、座する椅子が顕になっていた。
神を自称する者は、その誇りを傷つけられ、怒りに震えている。
そこに座る者、ヨルエの姿は、シルエットは辛うじて人型であるものの、その容貌は人とはかけ離れている。
白磁のような白い肌に、髪の代わりに生えた無数の角。
顔を縦に裂く口には紅い歯が並び、その左右には紫の瞳が四つ。
腕は肘の部分から二股に分かれ、六本ずつの指を持つっている。
まあ、どこからどう見ても、化物だ。
ヨルエは椅子から立ち上がり、優喜たちの眼前へと瞬間移動し
「許さぬぞ貴……!」
言葉を言い掛けて、地面に落ちた。
ヨルエの下半身は、玉座の前に倒れている。
「私の前で瞬間移動とか、頭悪いにも程があるんじゃないですか?」
大魔道が嘲る。
「ちょっと妨害したら、こんなことになっちゃうんですね。」
大魔道が言っている間に、優喜たちは玉座の下半身の方に砲撃を加えている。
鬼だこいつら。
玉座は砕け散り、ヨルエの下半身も原形をとどめていない。
「貴様ッ、貴様らッ!」
ヨルエは焦りながらも、光弾を生み出し、大魔道へと放つ。
が、ヨルエの攻撃は全て虚空に消える。
「私の魔法は空間操作に特化しているんですよ。そんな攻撃は通用しません。」
背後から迫っていた光弾も消し去りながら大魔道は言う。
そんなことをしている間にも、ヨルエの体は随分と小さくなっている。
腰のあたりで断たれた体は、腹のあたりは完全に消滅しているし、左腕は肘から先が無い。右腕も二股分かれた片方は虫に食われたように穴だらけになっている。
「私は神だ! 神に向かってこんなこ」
「いいえ、あなたは餌です。私が神となるための踏み台です。」
ヨルエが怒りと憎しみと怨みを込めて睨むが、大魔道はそれを無惨に叩き潰す。
周囲に生まれた無数の『穴』から射出された闇色の何かが、錐となってヨルエの体を穿っていく。
更に大魔道が天に掲げた腕を振り降ろすと、怨嗟の叫びすら打ち砕かんとばかりに光の鉄槌がヨルエの体を叩き潰した。
そして、大魔道は私の方に向き直る。
え?
『……ないと、いつから錯覚していた?』
突如、背後から声がした。
莫迦な! こんなことはあり得ない!
人間が神の世界に足を踏み入れるなど、あってはならない!
『言いたいことは、それだけですか?』
振り向くと、大魔道は確かにそこにいる。
『やっと、ここまで来れましたよ。』
勝ち誇った笑みを浮かべて、大魔道は私に向かって手を伸ばす。
ちょっと待て。何をするつもりだ?
私に! 何をするつもりだ!
『ご逝去あそばせ。』
パンツを脱ぎたまえ ゆむ @ishina
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