4-10 三話かけてやっと到着
道中恙無く進み、ゲレム国境関門から一時間もしないうちに最初の町に到着した。
町の門を守る兵士に聞いてみると、ゲリミクへの道は、町の東に伸びる街道を行けば良いらしい。南門から街壁の外側に道があるので、それを進めば良いとのことだ。
と言うのも、そもそもこの町では南門のを通れるのは徒歩のみで、乗騎も馬車も通していないのだ。というか、サイズ的に通ることができない。高さ二メートル弱、幅は一メートルちょっとしか無い。
これは、国境間際の町としての防衛上の都市設計らしい。国境から来た敵国の軍が、真っ直ぐに突き進んで町へ雪崩込むことが難しくなるようにとの考えである。戦争が行われていた何百年も前の思想や建築物がまだ残っているのだ。
通常の国内の交易は東門を使うため、商人などが国境側に行き来する際は、町の外をぐるっと迂回しなければならない。
幸一は兵士に礼を言って、進路を東に取り、バスを走らせる。すぐ後ろを走るトラックのドライバーは田村零士だ。
ガタガタの砂利道に、地均し魔法をかけて真っ平らに整地しながら進んでいく。
バスもトラックも、車両自体に地均し機能が備わっている。アクセルを踏むと、車体前方が自動的に均されるのだ。
そのため、少々の悪路は何事もなく進んでいく。ただし、時速五十キロ程度を超えると地均しの効果が間に合わなくなってしまうため、路面状況が悪いと実質的に四十キロ程度までしか出せない。
二時間に一度程度でドライバー交代と排泄を兼ねた小休憩はあるが、それ以外はひたすら野原を、森を走り続けていく。もっとも、途中で昼食を買うために町に寄ったりもしたのだが。
ウールノリアは丘陵地帯が多かったが、ゲレムは湖沼が多く、街道は湿地帯と森林の間を縫うように通っている。
その街道だが、馬車で通ることを前提とした道のため、トラックやバスで走れないほどでは無いが、かなり道が悪い。
ウールノリアの王都やティエユ周辺の整備のされ方が異常なのだが。
それを差し引いても、ゲレム帝国の道路はかなり荒れている。
大小の石や岩がそこかしこに転がり、草が生え放題、伸び放題の所もある。あまりにも道が酷い処は、土魔法で岩を退かせたり、火魔法で草を焼き払ったりしないと進むに進めない。
彼らが通った後は、綺麗に均された立派な道路が出来上がっている。
ゲリミク街道に入ると、今までより格段に交通量が増え、馬車とすれ違ったり、追い越したりするようになった。
さすがに、首都に通じる、この国で最も大きな街道である。
約千四百キロの旅路も、そろそろ終焉、森を抜けたら帝都が見えてくるはずだ。
「先生、最後まで気を緩めないでお願いします。終わりが見えた頃が一番危ないんです。」
現在のバスの運転は小野寺が担当だ。欠伸をしている小野寺を睨み、楓が注意を促す。本当にもう、この男は教師としての尊厳が完全に無くなっている。
「いや、もう、疲れたよ。」
愚痴る小野寺。
「じゃあ、最後の休憩にしましょうか。森を抜けたら、宮廷に着くまでトイレ行けないよ。」
「もうすぐゲリミクに着くんじゃないのか?」
「町中は飛ばせないし、町の中に公衆トイレがあるとも限らないでしょ。街門から城門までどれだけ掛かるか分からないよ。」
と言うことで、最後の休憩をとることにした。
開けたところにバスとトラックを並べて停めて、ぞろぞろと下りて体操をしたり、用を足すために茂みの奥に向かったりする。
「もう、食べ物無いの?」
根上拓海の食いしん坊が始まった。
「もう無いよ。さっき全部食べちゃったからね。」
食料を管理している野村千鶴が言うのだから間違いない。もし残っていても、拓海が食べる分は無いのだ。
休憩時間は、各人、クルマから下りて軽く体操などをしている。
クッション性が悪い座席に長時間座って揺られていると、相当にお尻や背中が痛くなってくるようだ。
治療魔法でどうにかならないか頑張ったりもしているが、どうにもこの類の凝りには効きが悪いようだ。
「そろそろ出発するよー。みんなバスに乗ってー。」
楓が声を掛けると、出席番号順に並んでバスに乗り込んでいく。
点呼してからの乗車は、もう何度かやっているので慣れたようだ。
「このバスは、間も無く終点、ゲリミクに到着します。みなさん、はしゃいだりせず、節度ある行動をお願いします。疲れてると思うけど、相ちゃん、運転手よろしくね。」
「うーい。出発するで。」
軽く返事をして、凛太朗はアクセルを踏み込む。
森を抜けると、畑の中のを通る道の先に大きな町のが見えてくる。
ゲレミクは、人口規模も町の面積も、ウールノリアの王都ヴェイゾよりも大きい。
さすが
帝国というだけのことはある。ウールノリアの属国に成り下がったが。
町に近づくにつれ、路面はどんどん悪くなってくる。
さすがに岩が転がってはいないが、轍が激しく、また、やたらと凹凸が激しい。
交通量が多いくせに、誰も整備していないのだろうか。
しかし、バスとトラックが通った跡は、吃驚するくらい綺麗に平らになっている。
三話も掛かった長旅もようやく最終局面だ。
優喜やその配下の者たちは僅か二、三日で移動するが、普通は一ヶ月半は掛かる道のりである。
ほぼ丸々二日間クルマに揺られ、みんな、疲労の色は隠せない。
だが、やっと、ようやく、ゲリミクの街門までやって来た。
「宮殿に行くにはこの門から入ったので良いんですか?」
相凛太朗が窓を開けて、門を守る兵に聞く。
「ああ、この道なりに行けば城門に着く。ところで、お前たちは宮殿に何の用だ?」
「皇帝陛下に呼ばれてウールノリアから来たんです。」
めぐみが後ろから兵士に説明する。
「皇帝陛下に?」
「ええ、私たちはウールノリアでも優喜様にお仕えしていたんです。」
「ああ、そうでしたか。大変失礼いたしました。」
突如、兵士の態度が変わった。
「そう言えば、陛下のお乗り物によく似ていらっしゃる。陛下も馬の無いクルマにお乗りになるのですよね。」
「あら、ご存知なのですか?」
「初めて見たときは驚きました。あ、どうぞお通りください。危険ですので、町中ではあまりスピードを出さないようお願いします。」
以外と街門は問題なく通過できた。
「反優喜派とかじゃなくて良かったね。」
安堵したのはめぐだけではない。楓や幸一も一様に大きく息を吐いている。
「交通事故注意してね。マジで、人轢いたりしないでね。」
「分かってる。」
凛太朗は忙しなく前後左右確認しながら答える。
町中の道は人の往来も多く、城門に着くまでノロノロ運転で小一時間ほど掛かった。
「皇帝陛下に呼ばれてウールノリアから来たのだが、取り次いでもらえますか?」
凛太朗が城門の兵士に告げると、ざわめきが広がる。
「あの、優喜様から聞いていないですか?」
兵士たちにの反応に、めぐみは不安そうだ。
「メグミ・ツダ様はどちらに。」
「私です。」
窓から顔を出してめぐみが答える。
「大変失礼しました。陛下よりお聞きしております。どうぞこちらへ。ご案内いたします。」
宮殿の入口前に着くとそこで下車し、建物の中に案内されていく。
運転手はバスとトラックを駐車時に停めた後で別途案内されるらしい。
トラックの荷物も放置してめぐみたちは謁見の間へと案内されていく。
開けられた扉を潜り、謁見の間の前方壇上の玉座には誰もいなかった。
「ふふふはははhはは。掛かりましたね! ユウキの手の者たちが。」
高笑いを上げながら理恵が姿を表す。
「ふふふ、お前たちがここに来るのは分かっていたぞ。歓迎するとしましょう。」
さらに茜が続いて出てきた。
「ヒェザマズいて、わ、わわ妾の配下となるがいい。」
芳香は演技がド下手くそだ。セリフを噛みまくっている。
「で、優喜様は?」
「うんち。」
楓が呆れたように訊くと、更に呆れる答えが返ってきた。
「ただ待ってもらうのも何だし、小芝居でも」
「しなくて良いから。」
めぐみはご機嫌ナナメである。
「そんなことより、お腹すいた。」
根上拓海はさっきからそればかりだ。
「ちょっとあなたたち、陛下がいないとは言え玉座の前なのですから、もう少し腰を低くなさい。私たちだけじゃなく、近衛や侍従もいるのですから。」
芳香が注意する。
背の高さもあって、芳香は中々に威圧感のある貫禄を備えている。
言われてめぐみたちは整列し、片膝をつく。
そうすることに不服そうな者もいるが、芳香は有無を言わさぬ眼光で睨みつける。服装が変わったのもあるのだろうが、僅か数日で完全に皇后の顔になっている。
「陛下がお戻りになりました。」
従者が告げ、奥の扉が開けられる。
めぐみたちは頭を下げて迎える。これも何人かが遅れる。全く礼儀のなっていない連中である。元々クラスメイトでも、今では身分の差があることが理解できないのだろうか。
「おお、みなさん、やっと来ましたか。待ち侘びましたよ。」
優喜が軽い口調で現れた。なんか台無しな気分だ。この男はもうちょっと皇帝らしく振る舞うとかしないのだろうか。
「めぐみ、何か変わりは無いですか?」
「はい、特段、これといった事は何もございません。トラックの荷物の整理についてご相談したいのと、何名かが空腹を訴えているので、食事をしたいというくらいです。」
「では、食事でもしながら話をするとしましょうか。ああ、みなさん、顔を上げて良いですよ。」
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