4-05 ゲリミク-ティエユ無線会議
「みなさん、速やかにこちらに来てください。」
津田めぐみが定期報告でゲレミクに無線を繋げると、碓氷優喜の第一声がこれである。
「無茶言わないでください! こっちだって大変なんですから。」
めぐみは泣きそうになりながら言い返す。
「かなりマズイ事になってるんです。ティエユの町とかモウグォロスとかどうなっても構いませんので、本当に、明日にでもこちらに来てください。」
「そんなこと言ったって、まだバスとか出来てないし無理だよ。」
「急いで作って、いつ出来ますか?」
「あと一週間くらいは掛かる予定だよ。明日とか絶対無理だって。」
横から堀川幸一が答える。
「全員で取り掛かって、三日で仕上げてください。」
「全員でって、ええええ?」
めぐみが素っ頓狂な声を上げる。
「それほど事態が切迫しているんです。一週間後では、こちらに来る道が封鎖されてしまう可能性が非常に高いです。後手に回ったら、本気で戦乱が勃発してしまいます。」
「ちょっと待て、じゃあ私はどうなる?」
モウグォロスが割り込んでくる。
「知りません。頑張ってティエユ領主やってください。こっちは命が掛かってるんです。私たちだけではありません。何ゴザシュイという民草の命も掛かっているんです。モウグォロスは失敗しても、誰も死にはしませんので心配いりません。どうせティエユにはまだ殆ど人がいませんから、失敗しても失うものは殆どありませんしね。」
だが、優喜の言い方はあんまりだ。無責任に放り投げてしまった。
「と言うか、予定では引き継ぎはもうそろそろ終わる頃でしょう? 何か問題あるんですか?」
「商会との話とか、全然進んでないんだよ。価格の話だって」
「そんなのは津田さんが頑張らなくて良いです。モウグォロスにやらせてください。できなければモウグォロスの責任です。」
優喜はモウグォロスに厳しい。鬼のような態度で接する。
「引き継ぎは、まあ無理矢理に終わらせるとして、教科書作りはどうしよう? あと二、三日で一巻の製版完了する予定なんだけど。二巻以降はまだ原稿もできていないから後回しなんだろうけど。」
「ぬぐおおおおあああああ。教科書は捨て難いです。何とかそちらも急いで進められますか?」
楓の質問に優喜が頭を抱えて呻いている。
「堀川くん、バスとトラックは最短で何日後にできる? それに必要ない人員は誰々? 何人くらい印刷に回せるかな?」
めぐみが冷徹な質問を投げる。
「ええと、木工と金工の全部を車体に使って、シートと内装、ドアとかは採掘チームと土木かな。それで部品作って、組み立てに伐採と採取もいた方が良いかな。それで、明後日。明々後日の昼くらいまでに出来るかだな。」
「分かりました。では、役所組は印刷チームに合流で大丈夫ですか?」
「そうだな。津田と村田はそっちの方が得意だろ?」
「うん。トンカチとかノコギリよりペンの方が良いわ。あと、奥田さんも印刷で良いんだよね?」
楓が苦笑いしながら答える。
「では、クルマが完成するまでに教科書五十六冊の印刷をしてください。裁断と製本はこちらに来てからでもできるので、後回しで良いです。」
「そういや、メシアどうするんだ? 今あっち五人いるけど。」
幸一が思い出したように言う。
「ああ、そんなのもいましたね。適当に魔力源として使ってください。大雑把なうえ飽きっぽい人ばかりだから、細かい作業させても大して戦力にならないでしょう。」
優喜の中でのメシアは酷い評価である。そこに誰もツッコミを入れないのがまた悲しい。
「了解。じゃあ、印刷の魔力に二人くらい貰って良い?」
「オーケー。じゃあ、残りはバス作る方に回す?」
「要らねえ。魔石でも作らせていれば良いんじゃね? あと、トラックはもう出来てるから、荷物の積み込みとかやらせておけば良いんじゃないか? 重い物もいっぱいあるし。」
もっと酷い人がいた。要らねえって酷すぎるよ……
「あ、それ良いね。じゃあ、急いで積み込む物リストアップしておくよ。」
めぐみが賛成し、話が進んでいく。
「そういえば野村さんは引き続き食堂やっているので良いのかな。」
楓が
「チヅル食堂を放り出したらご飯食べられなくなりますよ。まだ、料理人見習い来たばっかりでしょう?」
「そうだね。そっち鍛えないとマズイし、そのままか。」
「ちゃんと、連絡しておいてくださいね。」
「ラジャー。」
この首脳陣の話は本当にポンポンと進んでいく。
モウグォロスはそのスピードについていけていない。
「あ、あの。本当にあと三日で行ってしまわれるのですか?」
スキベシュは青い顔をして訊いた。
暫しの沈黙。
それを破ったのは理恵の呆れたような声だった。
「ねえ、さっきから何聞いてたの? 可能なら明々後日の夜に出発。無理ならその翌朝出発。最悪の場合はトラックに全員詰めて、明日にでも出発。そこまでしなくても良いようにこっちも頑張るつもりだけど。」
「ちょっと待って。そっち今どんな状況なの?」
とんでもないことをサラッと言う理恵の言葉に慌てたのはめぐみだった。
「話せば長くなるんだけど、神殿とか貴族が物凄く不穏な動きをしてる。ついでに、周りの外国も。正直、尻尾巻いて逃げだしたいくらい切羽詰まってる。」
こいつらの「話せば長くなる」は、簡潔に言うときの枕詞だ。文言通りの意味を期待してはいけない。僅か十秒という簡潔ぶりで何が長いと言うのか。
「逃げたら間違いなく戦争が起きますよ。周辺数ヶ国を巻き込んで。」
弱気なことを言う理恵に優喜がツッコミを入れる。
「マジ?」
「大マジで激ヤバ。」
「で、大真面目な話、この数日が勝負なんですよ。今を逃したら私たちが合流できるチャンスは無くなります。津田さんたちがそれでも構わないと言うなら、私としては諦めるしか無いんですが。」
「いや、行くよ。全力でバス作るから、三日、四日待っててくれ。」
幸一の中では行くことが決定しているようだ。
「そうだね。何かあったらすぐ連絡してね。こっちも進展あったら言うよ。」
楓もそれに賛同する。
「ねえ、いつになったら私たち休めるの? 私、もうハゲちゃいそうだよ。」
幸一と楓の二人は乗り気なのだが、めぐみはよく分からない弱音を吐く。
「えーと、あと一ヶ月ぐらい踏ん張ってください。」
元気付ける優喜も何故か弱気だ。
「長! 長いよ! バカンスプリーズ!」
「何とか堪えてください。こっちも胃が痛いんですよ。治療魔法無かったら間違いなく胃に穴が空いてます。」
「治療魔法スタンバイオーケーやで。めぐちゃんも頭に治療魔法使っとき。」
茜が横から笑えない茶々を入れる。
「状況が悪化する一方と言うのは分かります。私の力が及ばず申し訳ないです。ですが、あとちょっと、もうちょっとだけ耐えてください。力を貸してください。お願いします。」
「優喜様のちょっとだけ詐欺が始まったよ。」
めぐみがうんざりしたように言う。
「騙すつもりは無いんです! 本当にあとちょっとだけ辛抱していただければと。」
「はいはい。分かりましたよ。ハゲたら責任取ってくださいね。」
ハゲの責任とは、どう取れば良いのか謎だが、取り敢えず、急いでティエユの稲峰高校メンバーはゲレミクの優喜たちに合流する方針で決定した。
「優喜様、最後に一点。王都の邸はどうするの?」
めぐみが早口で懸念事項を相談する。
「どうすると言われても、取り敢えずそのままにしておくしかないですよ。何かできることありますか?」
「そうじゃなくて、向こうの手持ち資金足りなくなるよ。元々の予定だったら、そろそろ一度向こうに行くはずだったんだけど。」
「ああ、もうそんな時期でしたか。仕方ないですね。宰相閣下にでも、お金を貸してもらえないか頼んでみます。」
「他になければ、今日はこの辺で終了で良いですか?」
「はい、大丈夫です。」
「それでは、お疲れ様でした。」
「おつかれー」
通信を切ると、みんなぐったりと突っ伏しているのだった。
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