3-15 イリーシャ改めティエユへ

 八月十五日。

 優喜は配下の『イナミネA』、『点滴穿石』さらに『カエデ』、『メシア』まで連れてティエユへと来ていた。

 穴を塞いだ報告に王都に戻って来たばかりだと言うのに、昨日の今日でまたすぐにである。

 イリーシャを廃してティエユにするから、ちゃんと治めて町を復興させよとの王太子からの厳命である。優喜は必死で抵抗したのだが、何を言っても「だめだ。やれ。」で片づけられてしまっていた。

 相手が聞く耳を持たなければ、優喜の口八丁は通用しない。「明日出発しろ。兵たちは引き上げさせろ。」の一点張りを押し通されていた。


 結局、邸にはビョグゥトの領主の娘および侍女たち八人を王都の邸に残して、転送組全員でティエユの町(予定)へと向かうことになったのだ。


「どうするのこれ? 復興って、大工さんとか必要じゃないの?」

 元イリーシャの町は、兵たちが築いた拠点はあるものの、基本的には廃墟が広がっている。楓ではなくとも途方に暮れるだろう。

「大雑把な都市計画は考えてあります。これから細かい部分を詰めていきますよ。こうなったら好き勝手やらせてもらいますよ。」

 優喜が邪悪な笑みを浮かべる。


「まずは、南北に走る太めの道路を作ります。そしてその中央には線路を引きます。」

 メチャクチャなことを言い出した。列車も無いのに、鉄道ありきで都市計画を考えている。

「まず、手始めに道路を作りましょうか。道が無ければ資材の運搬も何もできません。」

 そう言うと優喜は土魔法で瓦礫を砂と化して吹き飛ばしていく。

 そして、テキパキと指示を出し、夕暮れまでには町を南北に貫く中央通りと、東西に抜けるティエユ街道が出来上がっていた。しかも、中央通りもティエユ街道も片側二車線、歩道付きである。

 土魔法SUGEEEEEEE! ブルドーザーとか目じゃねえ。


 中央通りのとティエユ街道の交差点の北東が市役所庁舎の建設予定地である。その北に領主邸を作る予定らしい。しかも鉄筋コンクリートで。他の町が中世様式の建物のこの世界で、現代建築物を建てるとは一体何考えてんだ。っていうか、本当にそんなことができるのか?

 ちなみに、住所は札幌と同じ条丁目式で、市役所が北一条東一丁目ということらしい。領主邸は北二条だ。



「明日は鉄道製作班と、木材伐採班に分かれます。」

 夕食後に優喜が宣言する。


「木材伐採って何するの?」

「ドアとか窓枠とか、プラスティックはさすがに無理ですから木で作りますよ。」

「あれって、木を伐ってから乾燥させなきゃいけないんじゃないのか?」

「水魔法と風魔法で強制乾燥させます。多分それで大丈夫です。たぶん……」

 ちなみに伐採は緑星鋼のノコギリという凶悪な物を使うようだ。


 そして、翌日夕方には、町の中心から鉄鋼脈付近まで、本当にレールが敷かれていた。もっとも、枕木がまだ無いため仮敷設ではあるのだが。何で一日で三キロ半の鉄道作れるの?

 そして、トロッコを作り、採掘した鉄鋼をドンドンと町の中心へと運んでいくと、土魔法で鉄塊を鉄骨へと変え、地中深く打ち込んでいく。

 さらに、鉄筋を張り巡らせながら水魔法と土魔法を使って湿らせた砂で固めていく。そして仕上げの魔法を使うとあら不思議、一瞬でコンクリート壁の出来上がりでございました。

 アホじゃねえのコイツ。もしかしなくても、本当に五階建てのビルが三日くらいで出来てしまいそうだ。


「いつの間にそんなにパワーアップしちゃったの?」

 めぐみたちも驚きを隠せない。

「ふふふ。ドラゴニックパワーですよ。ドゥラゴニックパゥワァァ!」

 そう言って優喜は魔龍の鱗と爪を加工して作った魔導杖を掲げる。いつの間に作ったんだそれ。

「それってそんなに凄いの?」

「全属性、通常の三倍ですよ! 真っ赤に塗りたいくらいです!」

 優喜はドヤ顔で自慢する。

 確か、以前に魔術師協会に売却していた魔導杖は六割増し程度だったはずだ。自慢するのも頷ける。


 領主邸が完成すると、次に作るのは下水道である。何しろ、風呂を作る予定なのだ。排水機能を整えなければ話にならないだろう。

 ティエユ街道の地下を掘り進み、街はずれで南に折れる。そして、町の中心から十分に離れたところで地上への開口部を大きく作る。ここに下水処理施設を作る予定だ。

 そして、木工も進み、ドアや窓枠も完成してくる。極めつけはガラス窓だ。

 この世界に、ガラス窓なんてものは無い。ガラス細工こそあるが、透明度の高い板状のガラスの製作技術など無いのだ。

 それを優喜は魔法一発で作りやがった。


 流石にそれには芳香たち『ヤマト』の面々も驚愕していた。

「そんなに不思議ですか? 鉄鉱石から鋼鉄の精製ができたんだから、石からガラスの精製ができたって何の不思議もありませんよ。」

「だからって、普通できないよ。」

 理恵が反論するが、優喜の認識はそうでは無いようだ。

「魔法を動作させる理屈を理解していれば、できてしまうんですよ。魔法ってのはそういうものなんです。」

「それ、優喜様だけじゃないの?」

 茜までも呆れたように言う。

「しかし、魔法ばかりに頼っていてもいけません。工業革命を起こします。」

 またワケの分からんことを言い出した。

「はい、芳香さん。産業革命は何によって引き起こされましたか?」

「ええと、蒸気機関? ワットだっけ?」

「はい、正解です!」

 満足げに頷いて、優喜は声を大にして言う。

「作りますよ! そして工場制機械工業時代の幕開けです!」


 優喜の暴走が激しい。この男は本気で魔法と科学を融合させるつもりだ。

「幾らなんでもやりすぎなんじゃない?」

 茜までもが心配しだした。

「総合的な技術の向上は不可欠です。早急に神レベルまで上げるんですから、全然やりすぎではありません。」

「いや、神レベルってそこまでやらなくても」

「地球に帰るには神レベルの力と技術が必要でしょう。どう考えても。」


 ああ、そういうことか。あくまでもそこが最終目的なのか。

 これからやろうとする産業革命は、自分たちの力や技術を向上させるための一歩でしかないということか。


 周辺の町へ出した移住者募集を見て人がやってくる前に、農業、工業、商業それぞれに使用するための建築物が幾つも立ち並び、そして、住宅用に何棟ものマンションができている。

 都市部も農地も綺麗に区画整理され、道路は碁盤の目状に走り、それに沿って鉄筋コンクリート製のビルが立ち並んでいく。さらに地下には下水道も完備されている。

 もはや剣と魔法のファンタジー的な世界の街並みではない。っていうか、どちらかと言うとSF寄りだ。AIとの戦争で無人と化した町みたいな。まだ人が全然住んでいないのもあるのだろうが、なんというか、殺風景すぎるのだ。

 根本的に、石で固められた道路にコンクリートむき出しの建物ばかりでは、温かみというものが一切全く感じられない。

 特に『点滴穿石』の女子たちがその辺りを気にして、一生懸命に花壇や緑地を作ろうとしていた。


 九月になり、町の形が一通りできた時点で、優喜は周辺の町を回って本格的に移住者を募集する。町の形ができたとはいっても、半分以上は空き地だし、防壁は作ってすらいない。

 そして、王都に行き商業組合や工業組合、魔術師協会、錬金術師協会のティエユ支部を作るように要請する。しかし、ハンター組合には声すら掛けていない。自分もハンターなのに酷い奴だ……

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