2-19 新婚初夜は省略しました

「結婚おめでとー」

 優喜と芳香が家に戻ると、クラスメイト達から祝福を受ける。

「昨夜はお楽しみでしたね。」

 理恵に絡まれて芳香は赤面して俯く。

「それはそうと、私たちは貴族になりましたので、家の中は良いですけど、外では言葉遣いや態度には気を付けてください。」

「貴族? どれくらい偉いの?」

「第四位です。公侯伯子男で言うと、伯爵と子爵の間くらいでしょうかね。失礼な態度を取った人を処罰して良い程度には偉いですよ。ちなみに逆らったら処刑です。で、私たちは貴族街の家に住むことになるのですが、みなさんはどうします? 端的に言うと、第四位爵ティエユである私たちの部下になるかということですね。今の所、一人もいないので早々に雇わなきゃならないんですよ。」

「何する人?」

「大ざっぱにいうと、使用人と護衛兵ですね。」

「もしかして着替えとか手伝わされたりしちゃうの?」

「外の目も無いところで、そんな面倒で意味ないことしないですよ。」

「いやあ、エッチな展開が待ってるのかなって……」

「あ、それ変なファンタジーの見すぎですよ。イケメン貴族が可愛いメイドに着替えさせてもらうとかありえないですから。男に付くのは男の近侍ですよ。だからって、BL展開もない、ことは無かったのか。東洋でも西洋でも男色は結構流行ってるんですよねえ…… 私は断固否定しますが。」

「まあ、使用人と言っても掃除、洗濯、料理をして貰う感じですかねえ。貴族の当主や家で働く者が屋台で食事とかありえないですから。」

「使用人かあ……」

「いや、ヤマトには私の御抱えのハンターとして活動して欲しいんですけどねえ。なんで優秀なハンターに掃除や洗濯をさせるんですか。」

「いや、だって、安全な方が良いじゃん?」

「敵をどうにかしないと安全なんてどこにもありはしないですよ。ここだって安全とは言えないんです。いつ敵が総攻撃してくるのかも分からないし、どこに逃げたら安全なのかも分からないなら、こっちから攻めた方が気が楽ではありませんか? 私もこの家に引っ込んでいるつもりはありませんよ。」


 本人の希望と、優喜と芳香による勧誘で二十一人がティエユ卿の下に入ることとなり、家を一つ引き払うこととした。と言っても、六月になったばかりなので、完全に出て行くまでに二十日くらいの猶予はあるのだが。

 そして、部下となった者たち、ならかなった者たちに諸注意を与えていく。

 これからはクラスメイト間でも身分が変わってしまうこと、そのために態度には気を付けなければいけないこと。特に、他人の目がある場所では、貴族に対しての反抗は許容できないので、厳に慎むよう言い渡す。


 優喜は部下となった者を連れて貴族街の家へと帰るとともに、佐藤孝喜を商業組合に使いとして出して貴族向けに商品を卸している被服や食品などの商人を呼び出す。

 使用人や兵用の衣服や当面の食料を買い付け、さらに夜営用の道具類を購入する。そしてその間に、館の清掃を残りの全員で行う。数ヶ月使っていないと言うだけあって、結構埃が積もっているのだ。

 尚、この館は貴族用だけあって、商人用途は設備のレベルが違う。

 まず、主用、使用人用、と合わせて四つのトイレがある。さらに、魔法道具として冷蔵室なるものがあり、一日二回、魔力を充填すれば食品の中期保存ができる。さらに、通信用魔法道具が設置されており、特定の一ヶ所に一日一度だけ一分弱のメッセージを送ることができる。また、王宮からの呼び出しはこれを通じて行われることになっている。送信先が無くなってしまったため送信機能は役に立たないが、受信用としては使えるため、これはとりあえず現状維持である。

 風呂は無いが、湯浴み用の設備はあるため、二日に一度くらいは湯を浴びることができるのもポイントが高い。


 ところで、優喜の八人の自称妻もこの家に住むことになっている。彼女たちは第七位の貴族とのことだが優喜は彼女たちを当面は貴族として扱わないと宣言した。

 そもそも、平民の優喜に付いてきた時点で貴族としての身分は捨てたと見做していると言われては返す言葉も無い。優喜は、第四位爵を受けたとはいえ、拝領した土地も町も何も無い状態で貴族を従えることはできないという。これは体面的な問題以上に、お金の問題らしい。

 まあ、そりゃ当然のことだろう。現在の優喜は貴族としての収入はゼロだ。いくら平民でも二十人も雇って大丈夫なのかと心配になるほどだ。

 だからこそ、一刻も早く魔物討伐に出て稼がなければならないのだと言う。


 翌日、朝からハンターパーティーの組み換えを行った。

 ティエユ卿配下の使用人七人を点滴穿石にまとめ、兵となる者はイナミネAに。点滴穿石で配下とならなかった者はカエデに移籍である。元々イナミネAだったものは全員配下に入っている。

 そして、注文したものが出来上がってくるまでは、王都周辺で魔物狩とウサギ狩である。


 九日後、私兵全員分の衣服が出来上がり、一回目の遠征に向かう。

 目的は三つだ。一つは、以前の集団戦で倒したボスの武器の回収。二つめは、ダンジョンに近い町の状況の確認と生存者の保護、最後に、ダンジョン周辺の調査。

 そのため、三級を対象に護衛の依頼を出し、『翠菖蒲』がそれを受けていた。

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