どこかの街で聞いた話

禎祥

君の笑顔が見たいから

君がいなくなってから、どれだけの月日が流れただろう。突然消えてしまったことが信じられなくて、最初は食事も喉を通らなかったよ。

君に会えたらどこへ行っていたのか、どうして僕を置いて行ってしまったのか聞きたいと思ってた。

待ち続けることに飽きた僕は君を探す旅に出て、もうどこに住んでいたかも忘れてしまうほど遠くへ来たよ。


小さな椅子に座って、退屈そうに俯いていた君を見つけた時は奇跡だと思った。それなのに。


「ねぇ、どうして?何で僕を見てくれないの?」


どれだけ呼びかけても、君は不機嫌そうに俯いたまま。


「あんなに好きだよって言ってくれたのは嘘だったの?」


もう僕を嫌いになったの?だからいなくなったの?

はっきりそうだと言われるのが怖くて僕は言葉を飲み込んだ。


今日は君が好きだと言っていた花を持ってきたよ。

今日は君と遊んだふわふわの草を持ってきたよ。


だからお願い。あの笑顔をもう一度見せて。どうしたら君はまた笑ってくれる?

僕は君が笑ってくれるなら、もう他に何も要らないんだ。

君が笑ってくれるなら、僕は道化にもなろう。

バカみたいに踊って歌おう。


今日は親切な人がくれた美味しいおやつを持ってきたよ。

今日はいい香りのする花を持ってきたよ。

今日は…


あれ、おかしいな。力が入らないや。

地面にへたり込んでゴロンと仰向きに転がると、優しく微笑む君と目が合った。


「ああ、やっと笑ってくれたね…。」









雑貨屋のショーウィンドウに飾られた少女のアンティークドール。その足元に先日までなかったはずの可愛らしい子犬のぬいぐるみがちょこんと添えてあった。


「なんか、しばらく見ない間にショーウィンドウが可愛らしくなったね。」


人形の周りには造花やお菓子の形をした焼き物など様々な小物が置かれている。


「この人形、前はちょっと怖い感じだったのに。何だか嬉しそうに見える。」

「首を直して顔がちゃんと見えるようにしたからねぇ。」


私の呟きにこの雑貨屋の店主であり人形師でもある老人が答える。


「毎日毎日、この人形に花や草を運んできた犬がいてね。ある日ここで力尽きてたもんで。そんなにこの人形が好きならせめて形だけでも傍においてやろうかと。」


それでその犬に似せたぬいぐるみを作ったのだそうだ。


「だがほれ、どっちも満足そうだろう?」


少女を見上げて嬉しそうに目を細める子犬と、子犬に優しげな微笑みを向ける少女の人形は、後日死んだ娘といなくなった犬にそっくりだと泣くご婦人がセットで買っていったという。


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どこかの街で聞いた話 禎祥 @tei_syo

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