第61話決意を胸に
雪雲が空にこびりつき、しんしんと雪を降らせ、
当の将門は
どれほどの時を腕を組みながら、じっと過ごしていたのか。……肩や頭には雪が積もり、冬場の畑のカカシのようになっていた。
その将門の表情は、忠平の言葉を何度も脳内で
そうこうしている内に人影が近づいてくる。
その男の
ぼさぼさの傷んだ髪に
男は
「
将門はゆっくりと動くと降り積もった雪が、はらりと
「
将門は一歩引くどころか、悪党面の男の前に一歩でる。二人の間に緊迫した空気が漂う。
そして空気を読まずに、杖を突きながら二人の横を通り抜けようとする、ほっかむりをした老人。
「ごめんなすって、通らして貰いますよ」
そう老人は口にしながら歩く。将門の横に差し掛かった瞬間。
老人が杖の柄の部分を右手で、支柱の部分を左手で持ち、抜刀するように支柱を引き抜く。――中から
「死ね! まさか――」
そこまで口にした老人の顔面に、悪党面の男より、振り下ろし気味の右拳が叩き込まれる。
仕込刀の杖を振るう暇も、
悪党面の男は
「それもそうだな!
純友は動かない老人の首根っこを掴み上げながら、また笑う。
将門はしゃがみ込み老人の顔を見るが、へしゃげており、心当たりがなかったのか首を傾げる。
「うむ。知らん顔だな」
将門は立ち上がり、純友の顔を見る。
「平将門という者だ。――忠平様は中で、お待ちだ。この者は責任を持って検非違使庁に突き出しておこう」
二人は軽く笑いあう。
「では、またな平将門」
「そちらこそ息災で、藤原純友」
軽い挨拶を交わした二人。――純友は笑いながら居館に入っていく。
「あれが都で噂の平将門か。……良い面構えの男じゃねぇか。
門を通り、居館内を進みながら純友は独り言つ。
一方の将門は老人を米俵の様に担ぎながら、検非違使庁へと向かう。
「うむ。藤原純友といったか、あの男。中々、良い腕っぷしであったな。何処かでまた会うかもしれん」
将門も笑みを
この後、将門に検非違使庁に突き出された老人。……
藤原純友と藤原忠平は座り、顔を突き合わせていた。
「純友よ、息災で何よりだ」
「はっ。しかし、海の上に居る方が長いせいか
頬を掻きながら笑う純友。
その姿を見ながら笑みを浮かべる忠平。
「
忠平の言に、純友は渋い顔をする。
「忠平様、官位よりも。……海賊の彼ら達を、また朝廷などで雇っていただきたいのです。……今は百姓の真似事をやらせていますが、何処かで限界が来て、また食い詰める羽目になり海賊に逆戻りかと」
たどたどしく考えながら言葉を発する純友。
忠平は苦々しい顔をする。
「そうしてやりたいのは山々なのだが。……朝廷へ納められる税が年々と減ってきておる。今のままでは彼らを雇い入れる余裕が無いのだ、分かってくれ」
その言い分に対して、純友は少し語気を荒げる。
「何故です? 我々や
忠平は溜息を吐きながら、立ち上がる。
「帝の
忠平から聞きたくもない言葉が発せられ、純友は唇を噛みながら拳を震わせる。
「純友よ。お前は武勇に優れ、人当たりも良い、海賊となってしまった者達が暴走しないように手綱を握っておいてくれ。――多少。多少だぞ? 不正に私腹を肥やしている悪人を仕置きしても構わん」
忠平の言葉に対して、純友は義侠心によるものか。……
誰も居なくなり、灯りが揺れる部屋の中で藤原忠平は独り、碁盤を見つめる。――黒い碁石で形作られた日ノ本。
白い碁石が
「東の地は
忠平は目を瞑り、深呼吸をする。
「頼んだぞ。三人とも」
忠平が心に宿すのは不退転の決意。
激動の一年が終わろうとしていた。
都は
風が少々強く吹き、雪雲が陽の光を遮り、粉雪が降り注ぐ中。
大臣以下、百官が
「
風の音が鳴り止み、ゆったりとした柔風が百官の頬を撫でる。
「
帝の白い束帯が風で揺れる。
「
俄かに風が止む。
「
降り注いでいた雪が小雨に変わり始める。
「
罪を洗い流す様に、都の上にだけ小雨が降り注ぐ。
「
徐々に雨が止み、雲の隙間から陽が差しはじめる。
「
帝の言の葉に合わせて、雲が退き、輝く太陽が子らを祝福するように顔を覗かせる。
「
大内裏の外では民が空を見上げ、手を合わせはじめる。
「
都の北の上空に虹の架け橋が架かる。
「
船岡山から一陣の風が、虹の合間を抜け、都の悪いものを掬っていくように、羅生門へと向けて吹き抜ける。
帝による大祓詞が終了し、帝が下がっていくのを確認した、藤原忠平は厳しい顔をしながら口を開ける。
「では、これより追儺を行う!」
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