第59話五行の星
松虫が規則正しく、軽やかな弦楽器のような鳴き声を上げる。
「
秋夜の冷たくなった風を受けながら立ち上がり。細い目をさらに細める。
紙で作られた、鳥
「お師匠様、五つの結界石の設置は滞りなく済みました。本当に四神相応でないのに結界を張れるのですか?」
鳥形代から
「張れるよ、それにね晴明くん。四神だけが結界やない、力があれば問題無く、他のでも強力な結界は張れるんや」
笑みを浮かべる忠行。その瞳には絶対の自身から来る、炎が灯り。
呼応するかのように星々の光が強くなる。
「晴明くん、早う戻ってきいひんと見逃すで」
「
言の葉を
くるくると陰陽魚は回り続ける。
「
陰陽魚は形を変え、
「太極へと回帰する」
頭上の五芒星は回転する速度を増しながら、また陰陽魚へと形を変える。
「なれば、我の名で五行を固定しよう、何物も破れない五行」
五芒星となった形代が、忠行の頭上から降りてくる。
中心の五角形が忠行の体を通り、地面に辿り着き、貼り付く。
「五行は完全なる形」
五芒星の形を崩さずに、地面を這い、広がってゆく形代。
「
五つの
忠行から見て、東の結界石は緑色に、南東の結界石は紅色、南西の結界石は黄色、西の結界石は白色、そして北の結界石は黒色に。……
「凄い。……これがお師匠様の本気。
大型の鳥の形代に乗って、空中より見ていた晴明は息を飲む。
「――聞こえてんで晴明くん、そこでしっかりと、お師匠様の格好良いところを見ときや」
軽い口調であるが、忠行の全身から汗が噴き出し、白い狩衣が湿り、汗が滴り落ちる。
忠行はゆっくりと深呼吸をして、眼を開く。
「
東の結界石から、南西の結界石に向かって眩い光の線が引かれ、南西から北の結界石へと同じように光の線が引かれる。
「
北から南東へ、南東から西へ、西から東へと、結界石から結界石へと光の線が一筆書きのように繋がり、五芒星が描かれる。
「
半円球の光の壁の中に、五芒星の形の光の壁が紡がれる。――それは侵入も破壊をも拒む結界。
忠行は庭へと倒れ込むように寝転ぶ。
「終わった終わった。晴明くん、誰かから力のつく食べ物をもろうてきて。……ほんと。らしくないわぁ」
笑いながら一人で空を仰ぐ忠行。星々と晴明の形代が飛び回る。
四本の金色を揺らしながら、化生は終始の間、賀茂忠行の行動を遥か遠くから見ていた。
「あれは。……
そこまで言いかけて、勢いよく、左人差し指を歯で噛む。――たらりと赤い血が白い手を伝う。
「あれは似ているが、違う。嗚呼、忌々しい記憶の染み……腹立たしい。妾はアレとは違う」
頭を右手で押さえながら、ふらつく足取りで西へと向かい、闇夜へと消えてゆく。
平将門と平真樹は上洛を果たす前に
「義父殿。……怪我の具合は如何ですか?」
「うむ。……大事無い」
将門と良兼は顔を突き合わせながら座り、ぽつりぽつりと言葉を交わしていた。
将門の目に映る、良兼の姿は少し
「義父殿。……豊田に療養も兼ねて、御滞在頂きたいのですが。……五月も春も喜びましょうし」
「うむ。……分かった。それと将門よ、儂は化生を退治したら隠居しようかと思っておる」
良兼は仏頂面をしながら、さらりと重大な発言をする。
「息子達に
静かな怒り。声を荒げる事なく、仇を討つという目的の為に、その日の為に力を蓄えている。
良兼の堅い決意。――それに応えるように、しっかりと頷く将門。
決意と思惑を胸に収め、期待を背負い、将門は太政官符が届いた日より、四十日後の十月十七日までに火急の
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