第58話テンサイ
原因の一つは、
桔梗も悪気があった訳では無いのは百も承知。一刻も早く、伝えねばと
しかし、桔梗が見たという光景。――それを見て冷静さを欠き、罠である可能性を失念したままに、将門に知らせるのは
将門の口から
良乃は化生が
もう一つは将門自身に対してである。
――
「
「物事には順序があるじゃないの! 貞盛が危機に
良乃の真っ当な言に、自らの行動を恥じているのか、
「しかし、だな、良の――」
将門が、そこまで言いかけた瞬間に恐ろしいほど腰の乗った右拳が、将門の
普段なら避けていた。避けられていた拳であったが。……
「黙らっしゃい!」
またしても落ちる雷。――良乃はそのまま将門の身体を無理矢理に
「将門。……あんた身体の限界が来てるんだろう。呪の事とか全部、分かっているんさ。……そんな状態で化生と対峙したら」
鳩尾に突き刺さった拳よりも、痛い言葉であった。
将門は頬を掻き重苦しい表情をしながら、良乃の耳元で囁く。
「良乃の言う通り、確実に死ぬな。心配を掛けて、すまなかった」
将門は両腕を良乃の柔い身体に回し、少し強めに抱き締める。
「将頼! まだ元気で動ける者を集めてくれ。貞盛の母の保護に向かってもらう」
「兄い! 分かりました!」
元気に返事をし、嬉しそうに走っていく将頼。
その姿を見ながら、ぴったりとくっついたままに笑う将門と良乃。
陽が高く登り、門に蔓を伸ばす
暑い夏の間、将門は方々へと走り回った。
貞盛の母親である稲を無事に保護し、平國香の遺領の管理。
また
そうこうしているうちに実りの秋がそこまで迫っていた。
都より
その内の三人は
使者の一人、名を
二人目、
そして三人目。
ゆるりと進む、他に比べると質素だが大きい
「田舎か思たら、以外と
将門の本拠である豊田周辺の栄え具合と、
「周りを小綺麗にしたら、こっちに
糸のように細い目を虚空に向けながら、口元を
「お師匠様。お
渋い顔をしながら
「そないに本気に、しいひんでもええやんか。言うてみただけなんやさかい。眉間の
けらけらと笑いながら、扇で自らの眉間を叩く、童にお師匠様と呼ばれた糸目の男。
男二人が乗る、牛車の
「お二人とも
馬に乗った、
牛は
糸目の男は
「ほな行こか、
そう言いながら、足取り軽く将門の居に入っていく糸目の男。――晴明。……
「
通された部屋で待っていた、平将門の顔を見た瞬間に目を見開き、小躍りしそうな勢いで近づき、将門の手を取り、上下に降る。
「……
将門は少し困り顔をしながらも、賀茂忠行の手を払う事もなく、為すがままにされる。
「お師匠様は将門様と
親しげな二人を見ながら、首を
「いや、知己の仲言うよりも、仕事仲間かいな? 今の帝がこないに小さい時にちょいね」
自らの手で膝あたりをヒラヒラとさせる忠行。
「晴明くん、その話はまた今度したるさかい。……
言葉を発さずに、じっと待っていた
「はっ! この度、
そう言いながら
将門は太政官符を読みながら、眉を下げ困った顔となる。
「ううむ。……召喚に応じたいところではあるが、今離れれば。――」
「――小次郎くん、召喚に応じてもらう為に、うちと晴明くんが
口角を上げ、たたんだままの扇を振る忠行。
その姿を見ながら、将門も釣られてか口角を上げる。
「分かりました。……忠行様がお手ずから結界を張ってくださるなら、少し留守にしても安全でしょう」
大袈裟に音を鳴らしながら扇を開き、口元を隠す忠行。
「この天才陰陽師である
自らを天才と豪語し、けらけらと笑いながら忠行。
将門の背をぱしりと叩き、晴明を引き連れて部屋を出て行く。
「相変わらずの御方だな。
将門は置いてきぼりとなった
「将門殿。……ありがとうございます、本当に疲れました。都まで、また護衛をしながら帰らねばならないと思うと胃が……」
心労の為か、あまり顔色の良くない
腹を
「う……うむ。道中、あの御方の世話は大変であったであろう。心中お察しする」
坂東に着くまでに、何か
しかし、賀茂忠行の破天荒振りは知っている将門は同じように溜息を吐く。
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