第56話ウマヅラ
誰からも頼りにされず、一族の中で役立たずであると。
ある日に義理とは言えども、父に頼られ心底嬉しかった。
本当は戦さなど真っ平御免であったが、次こそはと……
嗚呼、
風に吹かれ、塵は
「――――ッ!」
人馬が混ざり合ったような、耳障りな
血では無い、透明で粘度のある体液を滴らせながら、両手を首後ろにやり、自らの
その絶好の隙を、みすみすと見逃す
まるで
将門らの白刃は瞬く間に馬面の四肢を斬り落とし、
こと
「ぐっ」と、兵達の口から
馬面の左右の目が、ばらばらに
それは襲いかかってきた人数と、場所を正確に確認するように。
「刀は廃棄! 散!」
良兼の短い号により、皆が馬面の身体に刺さった刀から手を離し、距離を取ろうとする。
しかし、背後に回っていた六人の離脱がほんの僅かに遅れる。
馬面が
物言わぬ
馬面は手に持ちたる太い脊柱に、こびり付いた肉片と髪を舌で舐めずり取る。――
既に脊柱を取り出した馬面の背は、脊柱が新たに作られ完治していた。
馬面は怒りを露わにし、脊柱を石敷道に叩きつけ、
一撃で六人を失った。――しかし、良兼や兵達の戦意は
「
「義父殿。いつでも」
滝の様に流れる汗をかきながら、しっかりと頷く将門。
一抹の不安を抱きながらも、良兼は馬面へと向き直る。
「お前達! 馬面野郎の隙をつくるぞ!」
良兼と、その
馬面にとって
――その一撃を身体に
しかし、一切怯まず、馬面の振るう脊柱を紙一重で避けながら。拘束する為に注連縄を投げる。
投げられた注連縄は意志があるかのように。……まるで蛇の如く、馬面の馬手と右脚に絡まってゆく。
淡く光る注連縄。――絡まった部分から煙が上がる。
馬面は
「かは! がら空きだぞ!」
馬面の一瞬の隙を突き、将門は懐深くに入り込む。
渾身の力と腰の回転を生かした将門の左拳は、馬面の左脇腹を文字通り。――
「――――!」
馬面は痛みの為か、身の毛もよだつ狂おしい叫びを上げる。
将門は止まらず、馬面の
馬面は吠えながら、脊柱を将門に向けて振り下ろす。――将門は半身になり、脊柱を危なげなく避け、伸びきった馬面の
「これで! 終い。……」
馬の顔に拳を叩き込む寸前になり、将門の動きが唐突に止まる。
八岐の呪が将門の身体を食い散らかすように、
「将門! んぐっ! お前達、踏ん張れ!」
馬面の傷が塞がっていく。――力を取り戻しつつある、馬面は力任せに注連縄を振り解こうとする。
良兼と兵達は踏ん張りきれずに宙を舞い、地面へと叩きつけられる。――
馬面は無事な馬手で、未だに動かない将門の首を掴んで持ち上げる。
――馬面の勝利の叫びは響く。
国庁へと向かって、馬を駆る一人の男の耳にも、しっかりと届く。
「かっ! 化け物を庭先に引き入れやがって!」
悪態を
途中に国庁を包囲していた兵に制止されそうになる。が……
慌てふためく兵達を置き去りにする。
「我は
短い口上を述べながら、国庁の
「化け物が! 汚いもんを、おっ立てやがって!」
飛び越えた瞬間に目に入ったモノに怒りを剥き出しにしながら、状況を即座に把握し、三矢放つ。
一ノ矢は将門を持ち上げる手。――手首を正確に射抜き、風穴を開け、掴んでいた将門ごと落ちる。
二ノ矢は馬面の右目。――彼方此方を見張るように動いていたが、矢が突き刺さり、その役目を終えた。
三ノ矢は股座に
藤太は大弓を捨て、への字に曲がった太刀を抜き放ち、馬から高く飛び上がる。
馬面は新手である藤太の方向を、無事な左目で確認する為に向き直る。
――馬面が飛んで向かう藤太の姿を認めた瞬間。
馬面の高かった視界は低くなり、地と血を舐める。
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