第45話ツキモノ
将門は手を握ったり開いたりを繰り返し、自分の力が徐々に戻っていることを確認する。
「小太郎、
纏っていた直垂の上半身だけを脱ぎ、鍛えられた腹筋までが
「御意」
二人の短い、受け答え。ただそれだけで二人には意思疎通が
両腕は勢いよく、将門の
いつの日か、
しかし、
「八岐の呪よ、我が身を供物とし、民を守るため、大難を
その思いに、願いに呼応する。――八岐の呪が黒い蛇の形となり、将門の全身を締め上げながらも、激しさは収まり、ゆっくりと将門の両腕に登りゆく。
大粒の汗を流しながら、歯を噛み締める将門。口から血が流れ、汗と混ざった血雫が
将門は落ちてくる、偽の太陽を見上げながら、両足を大きく前後に開き、腰を低く保ちながら太刀を下段に構える。
力を全身に貯める。――将門の全身の筋肉が、はち切れんばかりに膨れ上がり、骨が
「ゆくぞ」
将門の低い声。地を
――将門の
将門はそれで満足せず、太刀を地に立て、両腕を割れた偽の太陽に向ければ、腕に留まっていた八岐の呪が大蛇の形を成し、向かっていく。――蛇の頭が偽の太陽に焼かれ、
「ふん」
将門が腕を左右に振れば、大蛇の頭も偽の太陽を食らいついたまま左右に落ちる。地に着くと大きな火柱が上がり、大蛇も炎に消える。――火が燃え広がってゆく。
ぐらりと揺れ、膝を地に着ける将門。
「小太郎、すまんが少しばかりの時を稼いでくれ」
言うが早いか、将門の後ろに侍っていた小太郎は、未だに本殿の前から動かない、狐面へと
小太郎は駆けながら、
狐面は左腕で蚊を払いのける様に空を
その瞬間に、駆けていた小太郎の姿は消え、音も無く狐面の左横に現れる。
死角から、小太郎の鬼の腕による全力の殴打。それは狐面の細い体を
――
「小賢しい、
狐面は
狐面の右横から、鞭のようにしなる殴打の連撃が迫る。――これまた
「むう」
小太郎と手長の男は嘆息する声を漏らす。――その瞬間、狐面の頭上より体が岩と化した丸い男が、押し潰さんと降ってき、同時に狐面の背後から丸太の様な足が、狐面の背骨を砕かんと迫る。
「
怒気を
丸い男はあらぬ方向に飛び、地面に、めり込む。足太の男は飛ばされたが、丸い男の近くに地響きと共に降り立つ。
投げ飛ばされた、小太郎と手長は空中で体勢を整え、足からしっかりと着地する。
「大丈夫か、
静かに頷く手長の男、
丸い男は
「
大きな溜息を吐きながら、腹を叩きながら立ち上がる、丸い男、
「
怒りの為か、肩を小刻みに震えさせている狐面。――怒りで視野の狭くなったせいか、将門が居ないことに気が付くのが遅れた。
「
ぽつりと狐面の下で
――最大の好機。
「
太刀による最速の突き。それは将門の
「この肉体では駄目でしたか。平将門、これは始まり」
赤い血を胸から流しながらも、まだ喋る狐面。
唐突に、何の前触れもなく糸が切れたように
「では、平将門……また会いましょう」
何処からともなく、聞こえてくる声。
それは狐面から聞こえていた声とは明らかに違っていた……が、将門は今まで対峙していた化生と同じであると確信した。
「仕留めそこなったか……」
苦虫を噛んだ顔となる将門。――将門は
狐面の下は化生ではなく、ただの人。美しい顔の
「将門様、この
小太郎が背後から将門の背に向かって話しかける。――小太郎の眼には、将門の背が泣いているように見えていた。
「だろうな……小太郎、あの化生を追えるか?」
小太郎は辺りを見回し、鼻を引くつかせながら、ゆっくりと言葉を返す。
「完全に気配も臭いも消えております故、難しいです。……が、この女子ならば、化生の正体を掴んでおりますやもしれませぬ」
将門は何も答えず、小太郎の言葉に耳を傾ける。
「我ら、
将門は振り向き、小太郎の顔を
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