第41話ノモトにて
将門は
とても、心地よく……良い日々は過ぎてゆく。――
陽は中天に
その石田に構えられた、大きな屋敷。――灯りが
平國香と、その
「國香よ……体の調子はどうだ?」
老齢である源護が……ここのところ体調を崩し伏せることが多くなった、
「はは……体の方は、どうということは御座いませぬ。して、本題で御座いますが……
平國香の肌は
「そ……そうか、してどのような――っんぐ」
平國香のぎょろりとした目が光る。
「それよりも、
平國香の周りから、ふわりと……
源護の眼が、途端に焦点が合わなくなり、
「ううむ……そうだの。あとは國香に扶よ、任せたぞ。儂は湯治に行って老骨を慰めてくるわい」
源護は立ち上がり、横に座っていた、源扶の肩に手を置く。
源扶から返事はなく。――ただ言葉を肯定するかのように、身体を揺らすだけであった。
その姿に違和感を
平國香は、その姿を最後まで見送り、足音が聞こえなくなってから、やっと口を開き始める。
「
平國香は、枯れ枝と見間違う程に痩せこけた指を伸ばしながら、揺れる源扶に声を掛ける。
声を掛けられても、未だに揺れる身体は止まらず。……源扶は
「まさかど、ゆるさない。ゆるさない、痛い、痛い……」
――掠れた声で、同じ言葉を
一室の灯りの当たらない闇の中。――つい今ほどまで、誰も居なかった場所で狐面の口が歪む。
「丹精込めて育てた、悪意の花が芽吹く……嗚呼、
両手で自らの身体を抱き、嬉しさからか震える狐面の女。
ある日、将門の元に一通の文が届く。
いつもの
「何だい将門。珍しく浮かない顔して……
良乃は悪戯な笑みを浮かべながら、珍しく独りで将門の部屋にやってくる。
「恋文だったら、どれほど良かったか……」
将門は大きく溜息を吐きながら、文を良乃に手渡す。――文を手渡された良乃の顔も、瞬く間に陰る。
文には簡潔ながら、平将門と平真樹との関係を解消するように、との内容が書いてあった。
「なんで今になって……これは君乃には見せれないね。で、将門はどうする気なんだい?」
将門は腕を組み、少しの間、眼を瞑りながら考える。
考えが纏まったのか、ゆっくりと口を開ける。
「たったの
将門の考えを聞き、良乃は安堵する。
「そうさね……それでこそ、あたしの将門だよ! 君乃と子供たちには、何とか上手い事、誤魔化しておくから行ってきな!」
とびっきりの笑顔で将門の背中を押す、良乃。――その笑顔に将門は大きな力を貰い、手早く直談判の為の準備を進めていく。
陽が傾き始める。
将門は平國香への直談判の為に、手勢五百人ほどを集め。國香の本拠である石井へと進軍していた。
「兄い……國香の伯父上は直談判を受け入れますかね?」
「万が一、受け入れられず……戦となった時の為の軍勢だ……あまり武力を背景に交渉をしたくはないが。事情が事情なだけにな」
将門は将頼の問いに答え、後ろの付き従う五百人を見やる。
五百人全員が、いつでも戦となっても良いように太刀と弓を備え、準備万端であった。
「とはいっても、武力をちらつかせるのは悪い事ではないと思うんですがね。さて……この先が野本で、そのちょっと先が石井ですから、もうちょいですよ」
先頭を行く将門が、はたと止まる。
――遠くで風に
それは
「なぜだ……何故……」
将門の顔が険しくなり、しまいには怒りの為か震え。――握り拳を木に叩きつける。
木は震える。――木を
「兄い、あの旗がどうかしたんですか?」
何故に旗数本に、そこまで怒るのか……
「あれは……
将門の説明を聞き、察した将頼は苦い顔となる。
「ということは……奴らは挑発しているということですか」
将門はしっかりと頷く。
「大罪を犯す者たちを捨て置く訳にもいかんが……こんな馬鹿なことをしでかすのは十中八九、源扶だろう」
将頼は新治郡での出来事を、あの凄惨なやり口を思い出していた……
「兄い、あの時は逃げられましたが、今回こそ! 奴の息の根を止めてやりましょう! それにあんな挑発されて引けば、笑いものですぞ!」
将頼は鼻息荒く、源扶を滅するべしと進言する。
しかし、将門は思い悩んでいた。
「ここで引けば、向こうの思惑通り、真樹殿との関係も解消となろう。……罪人を見逃す、根性なしの汚名も被ろう。――逆に、あの挑発に乗って戦を仕掛ければ……汚名も被らず、真樹殿との関係も大事なく。だが、國香伯父上と戦となるな……どうしたものか」
将門は珍しく自分に言い聞かせるように小さな声で考えを口にし、状況の整理をする。
悩む将門の耳に、
どちらの道も選びきれない将門を
「決めたぞ!」
黒丸の
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