第19話語られるカコ
過去――
雪がちらりと舞い落ちる、寒空の下、馬の準備も万端……今まさに京から
「ふむ、準備も終わったのだな、小次郎よ」
ふらりと現れ、将門に声をかける男。――
「これは!
「
「ええ、十数年間、御指導いただき有難き幸せでした……親父殿が亡くなったと知らせが来ましたので……勝手をしますが、一度は戻っておかねばと」
又もや、
「うむ、よく勤め、励んでいたのは知っておる。官位の一つでもやれれば良かったのだがの……
二人……
子と孫ほどに歳が離れている、が……しかし、二人は歓談し、冗談を飛ばしながら笑いあう。
「小次郎、国に戻っちゃ嫌だ!」
今の今まで、
将門を下から覗くように顔をあげると、泣き腫らした顔をしていた。
「これはこれは……
将門は節くれだった武骨な手で、頭をさわりさわりと撫でる。
「余は……小次郎が国に戻ると……余の周りで悪い事が起きる気がするのだ! だから行かないで欲しいのだ」
ふと、何かを思いついたのか。――将門は手早く腰に差した刀を外し、その刀と一本の扇を差し出す。
「
将門から先に手渡される一振りの刀――鞘には三つ足の鴉があしらわれていた。
「その刀は親父殿に京へ向かう前に手渡されたもの……鞘には
次に手渡されるのは一本の
「こちらは骨が
快活に笑う
「ありがとう、小次郎! この刀と扇を、小次郎だと思って大切にする!」
大事に……刀と扇を胸に抱く姿を見ながら、
「では、
忠平は
「うむ、そちらも少々、荒れるかもしれんのう……息災でな、
深々と
京を発ち、少しの時日が流れ、
畑仕事に精を出す村人たちを馬上から横目に見ながら川沿いをひたすらに駆ける。
そんな折に
「――っつ! ぬぐ」
「この
「うむ、物盗りか? それともこの命を狙ってか?」
しかし……男達は返答もせずに刀を抜き放ち、構えながら将門へと、じりじりと囲い込むように迫る。
「語る口を持たず、刀をちらつかせるとは……ならば
既に絶命した、馬の腹を蹴り上げ、宙に浮かすと馬の脚を両手で持ち、男の一人へと馬を投げつける。
将門は足で男の
「殺気と狙いが
将門の背後から刀で突こうと、突進するように走ってきた男をひらりと
「我は
大気が揺れるほどの怒声を放つ、男達は知らずのうちに一歩後ずさる。
将門は男達が一歩後ずさったのを見て、口元を歪め笑い、男達に駆けよろうと足に力を入れる。
「――
殺気は無く、気配もしなかった。……正面にいる男達よりも、危険だと瞬時に判断した
しかし、黒い
「お前は何者だ?」
刀を構え、警戒しながら問う
「我らは
先程まで向き合っていた男達のほうから、どさりと何かが、倒れる音がする。
「
ちらりと背後を見やると、同じような黒衣を着込んだ、腕長や
将門と対峙していた男達を、早業で殺したのか、川へと捨てる算段をしていた。
「お褒めに預かり光栄で御座います。今、
将門は手に持った刀を地に突き刺し、腕組みをして少しの間、思考を巡らせる……考えがまとまったのか口を開く。
「あい、分かった……叔父上にも顔を見せなければとは思っていた故な、参ろうか」
返事と共に
心底驚いたであろうが、将門は平常を装った。
「そちらの馬をお使いください」
嗄れた声の黒蓑に促されながら、将門は馬に近づく。
「うむ、喜んで使わせてもらおう。しかし……お前達はどうするのだ?」
手綱を黒衣の者から、手渡され馬に乗り掛けながら話しかける。
「我らは走って、ついて参ります、ご心配ご無用」
「そうか、頼もしいものよ……叔父にではなく、この
大きく笑いながら駆けはじめる、
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