第4話オニ
「うおお! ぶった斬れろ!」
気合いとともに
一寸遅れてから、結界もが半分に斬れ割れる。
「最後はお前だな……
満仲の背後より、割れ崩れかけている蜘蛛から這い出る
「完全に成ってない蜘蛛でも、斬っただけじゃ駄目だよ、まんじゅう殿」
涼やかな声――
「
灰は風に吹かれ見えなくなるような遠くまで運ばれていく。
ぱちぱちと手を打ちながら、
他人よりも一段と肌白く、どこか
「いやはや、素晴らしい闘いだったよ。
くるくると
「……
息も絶え絶えになりながらも、
それは
「もちろん最初から余は見ていたよ、四人が兵を始末していた最初から。凄いよね、本物の人と間違うような式神って」
帝は手に持った扇で口元を隠しながら喋る。
今の今まで、微動だにしなかった
「スメラギ! 我らを
鬼と呼ばれた者が羽織っていた黒衣を剥ぎ取り、帝と
予想外の行動に満仲は反応が遅れ、帝と
「行儀が悪いよ、まつろわぬ民の
しかし、帝は手に持ちたる
「絶対に殺す! 我ら一族を! 鬼として見放したお前らを絶対に許さない!
怒りに悲痛が入り混じった叫びを上げながら、すぐそこに見える童へと、手を伸ばそうと
「まつろわぬ民の
「ふむ、うむ……よし決めた! 余の命をやろう」
隣にいた
「帝! 何を
口煩い
「ただし条件がある。そこにいる、まんじゅう殿に一対一で勝てたらという条件だ、勝てたら煮るなり焼くなり好きにしていいよ。その前に……」
ふわりと何も見えない、何もないはずの宙空に腰掛け、一振りの刀を風に乗せて
「それは
「刀一本増えたところで関係ない……それよりも今度こそ約束を
対して、朱雀天皇は扇で口元を隠し、笑いながら面白そうに答える。
「ふふ、まんじゅう殿は今この場においての最高戦力……それが負けるならば
「帝がそう仰るのならば仕方ありませんね……では、不肖ながら安倍
乱れた朝服を整えながら、先ほどの慌てた様子とは打って変わって落ち着きながら、
「帝の
淡々と話を済ませていく、
準備万端の二人を見ながら、いつもとは違った重さのある声が宙空より降ってくる。
「余の名において命ずる。源
帝からの命――
「勅命、
「いつでも殺す準備はできている……お前ら全員の頭を斬り飛ばして京に
じりじりと距離を少しずつ詰め寄っていく。
満仲は
鬼の赤黒い左腕が脈打ち、研いだ
「じっ!」
短い掛け声とともに鬼が一足飛びに満仲へと迫る。――鬼の左腕で首筋を切りとろうと振るう。しかし、満仲は寸でのところで弾き返す。
「やはり、お前が一番の上物だな! その左腕だけが本物の鬼の腕みたいだが」
満仲は最初から気になって、仕方のなかった事を敵である鬼へと問う。
「我ら一族の秘術によるもの、鍛錬と適性がなければ手に入らぬ代物よ!」
刀と左腕の切っ先が見えない速さでの激しい打ち合い。その最中に刀が折れ砕ける。満仲は次々と新しい刀を抜き出し打ち合う。
「そんな
きりきりと嫌な音を立てながら爪と刀で
「あれはもう打ち止めなんだよ! おら!」
満仲は近づいた鬼の顔へと頭突きをして距離を取る。意表を突かれた鬼はさらに憎悪を
「ぐ……どこまでも舐めた真似をする!」
「正々堂々も好きだが、
声とともに地面に刀を突き刺し抉り取り、砂塵を撒き散らす。
「
鬼は胸一杯に空気を吸いこみ、大風のような勢いの息を吹き出す。
周りの砂塵が晴れていく。――しかし、鬼の思惑は裏切られる。満仲はじっと動かずに
「息も整った、これで最後だ……今度はこっちから行くぞ」
ゆっくりと、三つ足の
その刀は満仲が使っていた真っ直ぐな刀とは違い……少し反った形で月光に照らされ輝く刀。
両手で刀を持ち、一度正眼へと構える。
「おお!」
満仲は気合いとともに、鬼へと飛びかかる。
「刀一本なんぞ爪で叩き割ってやる!」
鬼の爪と刀が激突するーー爪が折れ、切っ先が体へと食い込む。
「なんーー爪がぐおぉ!」
間一髪で鬼は体を捻り、深手を負いながらも満仲の刀を避け距離を取る。
「ちっ……思ったより速く動く。――だが、次は逃さないぞ、鬼よ」
満仲は
「ぐ……ぐおおお! 鬼の腕よ! 憤怒を
その言葉と共に、鬼は人並みの大きさだった体が瞬く間に変化していき額から角が生える。
身体は纏っていた衣服を突き破り、赤黒い筋肉が見えるほどに大きくなる。
「我は鬼ナリ、鬼ナリ!」
鬼はその巨大な体躯から満仲に向かって、剛拳を振り下ろす。――轟音を立てながら、圧倒的な速さで満仲に迫る。
振り下ろされた左拳を満仲はすんでのところで飛んで避ける。――剛拳により地が砕ける。
「おお、怖い怖い。これは喰らったら、ひとたまりもないな」
満仲は言ちながらも距離を取り大勢を整える。
「潰ス、潰ス!」
鬼は満仲との距離を一足で詰め、剛拳を何度も何度も振り下ろす。
満仲は危なげなく避け、反撃の機会を伺っている。
「チョコマカト!」
捕らえきれない満仲に対して業を煮やしたのか、鬼は両手を大きく振りかぶる。――瞬間に地面に向かって振り下ろす。
地が抉れ割れる。満仲はたまらずに宙へと飛んで避ける。――否、飛んでしまった、飛ばされてしまった。
「捕マエタ!」
鬼はすかさず右腕を伸ばし、飛んだ満仲の足を掴む。
「コノママ、叩キツケテヤル」
「――それは悪手だぞ、手だけにな」
満仲による狙い澄ました一撃は足を掴んだ右手首を綺麗に切り落とし、鮮血とともに手首が落ち、灰となる。
「ナゼ、刀デ鬼ノ腕ガキレル」
鬼は斬られた手首を押さえる。
「確かに、ただの刀なら小さい傷をつけるのが精々だろうな」
満仲は笑いながら体勢を整え着地し、その反動を使い矢の如く鬼の懐へと飛びこむ。
鬼は反撃しようと左腕で殴りかかる――が、しかし満仲の振るう刀により、肘の部分から斬り落とされ火がつき灰となる。
「しかし、
満仲は息を整え、刀を下段に構える。
「おおお! 鬼ガ人二マケ」
満仲の姿が一瞬、振れる。――瞬間に最後まで言葉を紡ぐことなく鬼の首と体は離れる。
鬼の体はゆっくりと膝から崩れ落ちていく。
「お前らは遅いんだよ」
苦悶の表情を浮かべた鬼の首を地面につく前に掴み上げ掲げる。
「帝、勅命果たしました。反動が来たので寝ます故、後は
満仲は鬼の首を持ったまま前のめりに倒れこむ……しかし、器用な事に鬼の首だけは地に付けないように掲げ上げたまま。
「まんじゅう殿、素晴らしい見世物だったよ。……さあ、まつろわぬ民の末裔よ、安らかに迷わずに向こう側に行く時だ」
帝はふわりと降り、満仲の持つ鬼の首に触れる。
触れた鬼の首は安らかな人の顔へと変わり灰とはならず、光の粒子となり天へと登っていく。
「帝、京の安全は満仲殿の
「ふふ、誰だと思う」
「どなたですか、
いたずらっ子のように笑いながら晴明に答えを出す。
「
夜は深まる、源満仲はいびきをかきながら眠りにつく。
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