#1 矢澤夏海side
朝、目が醒めると冷や汗をかいていた。どんな夢を見ていたのかは思い出せない。それでも消えない恐怖心を感じながら、水を一杯流し込んだ。カーテンを開くと久しぶりに暖かい日差しがさしてきた。
「着替えよ…。」
クローゼットの中からパンツスーツを取り出して着替えると、スッと身が引き締まる気がした。懐かしいこの感覚。
私は去年まで働いていた高校から、同じ県にあるM中学校へ赴任することになった。教科は理科。まだ知らない職場と生徒達に期待と計り知れない不安を抱えながら、家を後にした。
職員室に入ると沢山の先生方が迎えてくれた。優しそうな雰囲気の人ばかりですごく安心した。校長先生も少し強面だが凄く明るい性格の人だった。そんな中、校長先生が毎年開いてるという、新しく赴任してきた先生同士での打ち合わせがあった。
「じゃあまず自己紹介から。矢澤先生、お願いします。」
「はい…。初めまして。矢澤夏海といいます。昨年まで高校で仕事をしていました。担当教科は理科です。教師を始めてまだ期間は少ないので、不束者ではございますが宜しくお願いします。」
私の後にも6人の先生方の自己紹介があった。そのあとは校長先生による学校の規則確認や、校内案内があり春休み1日目の仕事を終えた。
打ち合わせが終わり帰る支度をしていると、隣の席になった先生が話しかけて下さった。
「初めまして。私、寺田杏樹っていいます。音楽を指導していて…。顧問も吹奏楽もってるんです。矢澤先生と歳が近いかなって思って…。失礼ですけどおいくつですか?」
「あ、今年で28になります。」
「え、本当ですか!?同い年です!わあ、良かったら仲良くしましょ!今日用事ありますか?」
「もちろん…!あ、ごめんなさい…ちょっと用事があるので今日は失礼しますね…。」
「そうですか!じゃあまた後日改めてご飯でも…。じゃあまた明日!お疲れ様でした。」
「はい、是非!では、お疲れ様でした…。」
寺田先生が話しかけて下さったおかげで少し肩に入っていた緊張がほぐれた気がする。明日への不安が少なくなった気もする。
私は車に乗りこむと、お墓のある隣街に急いだ。
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