第3話、文化祭前日

「お前なに勝手にやってくれてんだ!」


 ロングホームルーム終了後、早速北沢くんが相沢くんに怒っていた。


「えーだってさ、折角上手いんだしみんなに見てもらおうと思って。いいじゃん、少しぐらい目立ったって」


 対する相沢くんは全く反省していないようだった。


「貴様ぁ……。もう我慢ならん!貴様とは金輪際縁を切る!」


 えっ、縁切っちゃうの!?いや、流石にそれはやり過ぎでは!?


 しかし、部外者の私ですら驚いているというのに、相沢くんの方はというと相も変わらずニコニコと表情を絶やさず、ヘラヘラしていた。


「そんなつれないこと言うなよ。ほら、機嫌直せって。アメちゃんやるから」


「いらん!」


 そんな感じでそれからも二人は言い争っていた(どっちかというと北沢くんが一方的に相沢くんに怒ってただけだけど)。

 でも見てる感じ、あれが二人の普段の会話なんだろう。心配するだけ無駄みたい。放っとこう。

 そして沙織は彼らへの興味を無くし、次の授業の準備を始めた。




 それから日が経ち、あっという間に文化祭前日。

 文化祭は結局、無事飲食店を出すクラスを決めるクラス対抗ジャンケンに、うちの委員長が勝利したことによって、見事当初の希望である喫茶店をやることに決まった。

 そして放課後、その喫茶店の内装準備に取り掛かる傍ら、衣装係が作った衣装合わせが教室で行われた。

 私達がやる喫茶店はメイド喫茶と執事喫茶の複合喫茶で、クラス投票で選ばれた男女それぞれ五名ずつ、計十名が衣装を着て、当日それぞれメイドと執事になってウェイトレスをすることになっている。

 残りの人達は料理提供や客の呼び込みとかをやる手筈になっている。


 そして私は、五人のメイドの一人に不本意ながらも選ばれてしまった。辞退することも考えたけど、折角みんなが私を選んでくれたのだから、辞退するのは申し訳ないと思って引き受けてしまったのだ。


 肝心の衣装だが、男子達の求めていたようなメイド喫茶のミニスカートではなく、ロングスカートの清楚なイメージのメイド服だった。正直ミニのやつだったら恥ずかしいなと思っていたから助かっている。何でもミニの衣装は学校の風紀に合わないとかなんとか。


 そしてこの私の衣装、実はまいちゃんが作ってくれた物だ。まいちゃんは裁縫が趣味で、服以外にもぬいぐるみからストラップとかの小物まで、何でも作っている。頼めば私達にもたまに作ってくれたりもする。これが結構評判よくて、他のクラスの子からも頼まれて作ったりもしている。

 しかし今回は、まいちゃんが自主的に私の衣装を作りたいと言ってくれた。わざわざそんな申し訳ないって気持ちもあるけれど、それ以上に私の為に進んで衣装を作ってくれると言ってくれたことが嬉しかったりもする。


「わぁ、さおりん似合う似合う!本物のメイドさんみたいだよ」


 衣装を着ると、まいちゃんが目をキラキラさせてそう褒めてくれる。


「いやいや、まいちゃんそれは大袈裟過ぎ」


「そんなことないって。あ、サイズとか着心地とかどう?」


「大丈夫。凄く着心地いいよ。流石まいちゃんだね」


「えへへ、そう言ってもらえると作った甲斐があるよ」


 すると、教室の一角が何やら騒がしかった。私もまいちゃんもついそちらに目が向く。


「お前それ執事服じゃなくてただのスーツじゃねえか!」


「別に良くね?似たようなもんじゃん」


「執事舐めんな!ああもう、仕方ない。取り敢えず上脱げ。そんでベストは残して、あとシャツを立てて襟をこうすれば執事服に見えなくも……」


 何やらまた問題児の相沢くんと、彼の友達の北沢くんが言い争っていたようだ。聞いた感じ、相沢くんが執事服の衣装を自前で持ってくるはずが、ただのスーツを持ってきたようだ。

 そういえば相沢くん、素行は問題あるけど顔は良いから執事に選ばれたんだよね。それで確か衣装の話になったとき、彼だけ自分で用意するからいいって言ったんだよね。そうすれば衣装係の負担が減るでしょって。

 理由は立派だけど、あの様子だと、結局ちゃんと用意してこなかったみたいだね。まぁ、たかだか高校の学園祭だし、スーツでもなんとかなるから良いとは思うけど。


「またあの二人、バカやってる。本当しょうもな」


 まいちゃんが二人の様子を見てそう毒づく。


「まあ、相沢くんはともかく、北沢くんはほら、ね?それに相沢くんの分作らなくていいから仕事減ったってまいちゃんも喜んでたじゃん」


「そりゃそうだけど……」


 まいちゃんはあの二人があまり好きじゃないらしい。入学当初は格好いい男子がいるって喜んでたのに、いざ相沢くんの化けの皮が剥がれるとあっという間に興味をなくしてしまった。今となっては彼がバカする度にこうして嫌味を言っている。

 私的には彼等がバカしようがどうでもいいけど、普段純粋で優しいまいちゃんが毒づくところは正直見たくない。


「お、倉田。メイド服似合ってんじゃん」


 するとその時、クラスメイトの男子、久世直也くぜなおやくんがそう声をかけてきた。


「ありがとう。久世くんも執事服似合ってるね」


「ありがとう。目立つのは嫌だったんだけど、倉田にそう言われるならやってみた甲斐あったな」


 久世くんは成績優秀で、生徒会にも入っていて、しかも一年生で副会長もやってるクラスでも人気の男子だ。当然、そんな彼も五人の執事に選ばれている。よくわかんないけど、そんな人気者の彼が、最近事あるごとに私によく話しかけてきてくれる。


「ところでさ、倉田は明日の文化祭、誰かと回るとかもう決めた?」


「文化祭?ええっと、まいちゃん達と回る予定だけど」


「ああ……そうなのか」


「?」


 どうしたんだろ。急にモジモジして。彼らしくもない。

 すると、私達の様子を見ていたまいちゃんが、私達の話に割って入ってくる。


「ねえ、よかったら久世くんも私達と回ろうよ。その方が楽しそうだし」


「ちょっ、まいちゃん!?」


 まいちゃんの突然の発言に思わず声が出る。


「川越、いいのか」


「うんうん、いいよいいよ。うぇるかむかもーん。後でL○NEで当日のシフト送って。スケジュール調整するから」


「ああ、ありがとう。じゃあ後でL○NEするわ。倉田、明日はよろしくな」


「えっ、ちょ、えっ?」


 何勝手に二人で決めてんの?私の意見は?

 色々言いたかったんだけど、私が混乱している間に、久世くんは他の男子に呼ばれて行ってしまった。


「ちょっとまいちゃん!何勝手に決めてんの!他のみんなにも相談しないで男子も誘うとか……」


 久世くんがいなくなった後、私は今の一連のまいちゃんの行動を問い詰めた。


「えーいいじゃん、久世くんだったらみんなも許してくれるよ。それに、さおりんも彼氏作るチャンスじゃん」


「何いってんの。別に久世くんとはそんなんじゃ……」


「いやいや、さおりんさん。さおりんが久世くんをどう思ってるかは知らないけど、久世くんの方はさおりんに気があるみたいだよ」


「そんなわけ無いじゃん。何を根拠に言ってるのよ」


「乙女の感!」


「誇らしそうに言わないでよ、もう!!」


 ほんと、まいちゃんは思い付きで行動しがちなんだから。相沢くんのこと言えないよ、もう。

 大体久世くんと私が付き合うとか、正直あまり考えられない。そりゃ久世くんは人気者だし、私も彼の事は別に嫌いじゃない。けど、彼が自分と付き合うなんて考えたことも意識したこともないし……。

 まぁ、彼が私のことを好きなんて話は、どうせまいちゃんの勝手な妄想だと思うし、私と彼が付き合うなんて言う話にはならないでしょう。


 そう思い直すと、沙織は制服に再び着替えて、教室の飾り付けの手伝いに入った。

 それから日が暮れるまで、私達は文化祭の準備を整えた。そして日が開けると、私達にとって初めての文化祭が幕を開けた。

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ヤンデレ彼女とヤンデレ彼氏 森永文太郎 @Bunfimi

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