第14話夏風邪から生じた「ぎょうこう」
脱衣所の戸が開いたのは、俺が寝床の中で背を向けてスマホゲームをしている最中だった。
「シャワーありがと」
部屋の中央で足を止めて、脱衣所から出てきたエリカさんが俺に礼を述べる。
俺は寝がえりを打ち、スマホからエリカさんに目を移した。
真っ先に自分の目を疑った。
まぶたを越しに眼球をこすり、再度エリカさんを目視する。
どうやら現実に違いないようだ。
「着替える服がなかった」
エリカさんは俺の視線と相対し、途端に弁明する。
今の彼女の格好はと言えば、裸体に大判タオルを豊かな胸元に一枚巻いただけのあられもないというか、扇情的というか、とりあえず安易に正視できない状態なのだ。
「大丈夫、水滴は落としてない」
「この状況で、誰が床に水滴を落としてるかどうか心配しますか」
「さっき落とさないように、ってあなたが言った」
「確かに言いましたけど。それより着替えないのにシャワー浴びようとしないでください。ないならないで、さっきまで着てたの着直せばいいじゃないですか」
「涼しいからこの格好がいい」
「……俺がいたたまれません」
「私の身体が魅力的だから?」
なんて質問しやがる。まあ魅力的じゃないと言ったら嘘だ、見ていて心臓が早く打つし、神経の変な部分が活性化してる。
俺は曖昧に答える。
「どうだろうな、シチュエーションが偶発的でどちらとも言えないって感じですかね」
「あなたには私の身体が魅力的に写ってほしいんだけど」
なんだろう、最近のエリカさんが俺に放つ意味深な台詞の真意は?
眉を八の字に掛けるエリカさんが、俺が横になっているベッドに一足一足踏みしめるように近づいてくる。
中腰になり、俺の顔を覗き込む。
典型的なグラビアポーズになっている。
「あなたが私の身体を褒めてくれたら、私は自信がつく。なのになんで澄ました顔する?」
「あのねぇ、エリカさん」
俺はエリカさんを真っすぐ見つめ返した。
「俺だって心の中では魅力的だなとか、肉感的だなとか、思ってるんですよ。表に出さないようにしてるだけで」
「そうなの?」
「そうです、一応グラドルのマネジャーですから平静を装うのはモラルみたいなものなんです」
大層に識者みたいなことを言っているが、ただグラビアを見慣れてるからできることなのである。
エリカさんは躊躇うように巻いたタオルの継ぎ目を掴んでいたが、意を決した顔で一人で頷いた。
「今日は予定通りなら、プールに行ってた」
「それがどうかしましたか?」
エリカさんの身体をかろうじて一糸包んでいたタオルが、瞬く間に視界から消えた!
一瞬はタオルがマントのように見え、
次の一瞬ではタオルがエリカさんの足下に無造作に落ちていた。
「プールに行けなくても、予定通りにする」
そう微かだが自信ありげに口の端を吊り上げたエリカさんは、知らないうちに俺の目の前でティファニーブルーのホルターネックビキニを身に着けた姿に変わっていた。
俺は目を見開いたまま硬直する。
「どう?」
量感多く膨らんでいるが黄金比率を崩してないが崩しかけてるバストと引き締まって均整なくびれを持つウエストと詳しく見えないがたるみが少ないヒップ、急襲とはしてやられた。
酔ったように見入る俺に、エリカさんは自身の胸にそっと手を置く。
「あなたに今の私を偽りなく見て欲しかった、グラビア復帰前に特別に見せたかったから」
「ははは、今俺の目の前で流れてる光景って、非公開の秘蔵映像じゃないですか」
「そう、特別であなただけにしか見られない」
もう笑いしか出てこない。
俺の網膜にしか保存されない秘蔵映像だ。
しっかりと焼き付けておこう。
夏風邪の倦怠が一時にふっとんだような気がした。
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