第11話元グラドル、S氏登場

 りくとがオムライスの料理法で、りつなに厳しい指導を受けているほぼ同時刻。

 事務所の社長室で末次社長は、褐色の革張りソファに腰かけてガラステーブルの上でパソコンを開いて、悩まし気にこめかみに手を当てていた。

 画面には堺実良の肖像写真がかしこまった表情で映されていた。他にもプロフィールや経歴、現住所まで詳しく載っていた。


「どうしたものかしら、りつなちゃんなら実良ちゃんの能力を存分に引き出してくれると思ってたんだけど」


 末次社長が頭を悩ませているところで、社長室のドアが外から開いた。

 抜け目ないスーツ姿の青ぶち眼鏡の女性が、手を前に組んだ立ち姿で現れた。


「社長、ただいま戻りました」

「おかえり原さん。さっそくで申し訳ないんだけど、この中から実良ちゃんの適任者を探してほしいんだけど」


 社長は入ってきた早苗に、パソコンをずらして画面を向けた。

 早苗が中腰で画面を覗き込む。


「堺実良ですか、社長はこの少女に何の適任者をつかせようと?」

「それがね、実良ちゃんも中学三年生になってグラビアをしたいって希望なのよ。それでグラビアのいろはを教えるインストラクターを探してるんだけど、実力派のりつなちゃんでも上手く指導できないらしくて」

「堺実良はどんなグラビアを所望しているのですか?」


 社長は困った様子で頬に手を添える。


「それがジャンルの希望はしてこなかったのよ。多分、グラビアについてまだ知ってることが少ないだけだと思うけど」


 早苗は堺実良の写真を、値定めするように見つめた。

 ふむ、と呟き社長に告げる。


「この堺実良という少女は、気持ち目つきがよろしくないと思われます」

「目つきがよろしくない? それがグラビアとどう……」


 質問を言いかけて、社長は早苗の寸評の意味に思い当たる。

 そうよね、とわかりきった笑みを口元に浮かべる。


「目つきがよくない子に最適のグラビアがあるわね、原さん?」

「しかし社長、ただいまの事務所に指導者として社長の意に見合った現役の人がおりません」

「あら、あなたが指導するのよ。引退したとはいえ、現役の時はSプレイの女王だったでしょ?」

「社長のお達しならば、引き受けないわけにもいきませんのでやらせていただきます」

「原さんに差支えがあるのなら、無理にとは言いませんよ」

「いえ、お安いごようです」


 早苗は慇懃に深々と頭を下げた。彼女の眼差しに嗜虐的な色が漂った。



 次の日、堺実良は前回同様のレッスンルームに呼び出された。

 中に入ると真っ暗で、何物も窺えない。


「なんだよ、真っ暗じゃねーか。呼び出された私の方が先かよ」


 扉脇の照明のスイッチを押しこむと、速い明滅を経て天井照明が点く。

 

「うんにゃ?」


 首を傾げた実良の目の先で、ミラーの前にきっちりとスーツを着た原早苗が直立していた。

 

「社長のヒショとかいう人じゃねーか。どうしたんだよ?」

「あなたが堺実良様でございますか?」

「おう、グラビアのレッスンがあるとかできたんだぜ」


 早苗はスーツの上着のボタンに左手をかける。


「堺実良様、どうぞそちらの椅子へ」


 室内の中央に置かれたパイプ椅子に、着席するよう折り目正しく催促する。

 事情も呑み込めないまま、実良は歩み寄り椅子に腰を下ろした。


「なあ、何が起きんだよ」

「あなた様の教導でございます。しばしの間、目をお瞑りになってください」

「なんで瞑らなきゃなんねーんだよ」

「よろしいですか」


 物ぐさで言葉を垂れる実良に、息が降りかからんばかりの間近に早苗の整った面貌が迫る。

 鬼気に満ちる早苗に気圧され、怯えるように目を瞑った。

 早苗は左手でボタンを外した。

 スーツの上着を足元に脱ぎ捨て、カッターシャツもボタンを外して前を開き両肩を抜くと無造作に舞い落した。

 彼女の上半身には、官能的な曲線を成す肢体を包む血の赤のようなボンデ―ジ。

 なおも彼女の脱衣は止まらない。腰のベルトの金具を音もなく外すと、ズボンの腰回りに掛かっているボンデージに似た色合いの革鞭を手に取ってズボンを引き下ろす。

 鞭を振り下ろして、鋭く耳をつんざく音が響いた。


「ひゃうう」


 実良が身を竦ませ、椅子の上で伸びあがる。思わず瞑っていた目を開けた。


「今日もいい音なってるじゃない。私にいじめてほしい子は、どこかしら」


 豹変した早苗が左手で鞭を持ち、右手でしならせる。

 実良が椅子の上で後退る。パイプ椅子が偏った重みに後ろへ倒れる。実良は仰向けにひっくりかえった。


「あら、どうしちゃったのかしら。まだ一打も加えてないわよ」


 倒れた椅子の背もたれを踏みしめ、加虐の悦に入った瞳で見下ろす。

 

「しっかり見ておきなさい、私が調教してあげるから」

「タンマだタンマだ! ちょーきょーってどういうことだよ?」


 実良は当惑し眼孔を全開にして、手のひらを早苗に向け説明を乞う。

 ふふふ、と早苗は問いを弄ぶように含んで笑う。


「調教は、その身をもって覚えなさい」


 床に背中をつける実良の年齢相応に怯える顔のすぐ横で、躾の鞭が炸裂した。

 

「ひゃああああ」


 実良は身を反転し壁際に這い逃げる。

 壁に寄り縋った実良に、サディスト早苗が鞭の先を床に垂らしながら悠然と歩を進める。

 

「あーら子豚ちゃん、先生の指南を体得するまで帰られると思っちゃいけないわよ」


 実良はただひたすら畏怖にとらわれて、早苗の顔さえ正視できない。

 早苗の口元に、虐げることへの興奮の笑みが浮かぶ。

 実良の頭上で壁を砕かんばかりに鞭が唸る。



「こっちを向きなさい、子豚ちゃん」

「いやだいやだ、ヒショの姉御。お願いだから、その鞭だけでもしまってくれよ」


 早苗を背にしたまま、涙目で哀願する。

 再度、躾の鞭が壁を叩いて唸る。


「私の命令が聞けないなら、縄拘束の手段もあるのよ。手足を一括りに縛って部屋の天井に逆さで吊るしちゃう、そうして鞭でばしんばしんって気のすむまでぶち続けるわよ」

「なんでも、なんでも言うこと聞きます、ヒショの姉御」

「私のことは、先生もしくは女王様と呼びなさい」


 べそかいて壁に縋りつく実良は、恐々早苗を振り返る。

 途端、実良の顎に鞭のグリップの先があてがわれた。


「子豚ちゃん、返事は?」

「返事? あうっ」

 グリップで顎をぐいと突き上げる。実良は喉を突かれるような感覚に、息苦しく喘ぐ。


「次は殴打よ、返事は?」

「は、はは、はい、先生」

「よろしい」


 サディスト早苗は鞭を顎から離してやった。

 この瞬間から女子中学生で芸歴十五年の堺実良に対する調教? という名のグラビア指南が、元ドSグラドル早苗により始まった。




 


 


 



 

 

 

 




 

 




 



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