第3話巨乳グラドルの妙技

 りつなの雑誌の撮影が終わって幾数日。

 りつなをインストラクターに置き、堺実良のグラビアレッスンが始動した。

 場所は事務所内のレッスンルーム。大型ミラーに苦り切った実良の顔が映っている。


「おい、そんな破廉恥なことすんのかよ」


 実良は鏡に映るインストラクターの肢体に、嫌そうな目を向けている。

 りつなはワンピースの裾をウエスト部分までたくし上げた格好で、高説を垂れる。


「ここまではゆっくり焦らすようにまくって、ウエストのくびれを越えたら一気にかつ少し腰をねじりながら、脱ぐ。わかる?」

「わかんねぇ、っていうかわかりたくねぇ。お前恥ずかしくないのかよ?」


 りつなは事も無げに言ってのける。


「グラビアは慣れだよ。何回もポーズの練習をやって、何回も撮られて、何回も見られて、その繰り返しで上達するの。実良ちゃん」

「一つ質問いいか?」

「ん、なに?」


 意地悪い笑みを浮かべて、実良はりつなに問いかける。


「お前自分の好きな男に対しても、同じこと平然と言えるか、そしてできるか?」

「えっ……どうだろ考えたことない」


 実良から視線を外して、りつなの頬が瞬時に火照り赤くなる。ちなみに未だにワンピースはたくし上げたままである。


「もしかしてお前、まだやってないのか?」

「何を?」

「あれだよ、あれ」


 実良がそう代名詞を使って、りつなに顔を寄せ耳打ちする。

 りつなの頬の火照りが、顔全体ましては全身に至った。ぶんぶんと首を振り、


「まだ、まだだよ。そんなふしだらなことできないよ」

「お前のやってることほとんど同じじゃねーか」

「違うよ、違う。どこも同じところない」


 女子中学生にもてあそばれるぴちぴちで年若い成人女性。奇妙な構図である。

 実良は悪びれずりつなをニヤニヤと見て笑う。


「ほんと、お前おもしれえな。純情すぎてそれでも二十一かよ」

「そうだよ、二十一だよ。悪い?」

「悪くはねえーけど、グラビアの仕事してたら勝手に寄ってくんだろ? チャンスはいくらでもあっただろ?」

「そんなことないよ、私結構、人見知りだから」

「うにゃ、そんな風には見えねーぜ」


 りつなははあ、と物憂げに溜息を吐く。

 

「特に年上の人とは、うまく接せられないの」

「じゃあよ、年下の私はいいのか?」

「うん、大丈夫」


 ははぁ、と実良は何かを悟ったようにほくそ笑む。


「お前、兄貴いんだろ?」

「……なんで、わかったの?」


 実良の思わぬ図星の質問に、りつなはきょとんと首を傾げた。

 ふふん、と実良は発達途上の胸を自慢げに反らして、


「これでも私は芸歴十五年だぜ。いろんな人と会ってきてんだ」


 実良の芸歴の長さに、りつなは度肝を抜かれた。


「十五年! もしかしてほんとは私より年上? 童体のだけ?」

「年齢を疑うな、しかも童体とは失礼な」

「じゃあ、ほんとに中学生なの」

「おう、中三だ」


 人好きのする無邪気な笑顔で実良は言った。

 りつなは自分の目を信じられない様子で、実良の全身をまじまじと見ている。そして思い出したかのようにワンピースの裾を降ろした。


「それでよ、グラビアのレッスンは続けんのか? やめるなら帰るぜ」

「あっ、そうだった。おしゃべりに夢中で忘れてた」


 へへへ、とりつなは照れ笑いを整った顔に浮かべた。

 ぐだぐだなレッスンに芸歴十五年のベテランは、心配げな顔でりつなを見る。


「お前、指導者向いてねーだろ。子役時代に私があった指導者の連中は、みんな揃って人生かけてるって感じだったぜ」

「子役もやってたんだ、実良ちゃん。じゃあ演技は得意?」

「あたりめーだろ、CDだって出してんぜ」

「歌もできるの。多芸なんだね」

「まあ、天才だかんな」


 へっへっ、と実良は褒められてでかい態度で笑う。

 そこでりつなが膝を打つ。


「演技ができるなら、実良ちゃんにぴったりの練習方法があるよ」

「なんだよ、その練習方法はよ?」

「着いてきて」


 りつなが自信たっぷりで私物の荷物を片付けレッスンルームを出ていくのに、実良はわけがわからず着いていった。



 りつなは社長に頼み込み、メモリに保存してあるジュニアアイドルのグラビア映像を手本として実良に視聴させることにした。

 りつなの考えでは、子役の経験がある実良ちゃんならば、グラビアの所作や表情を演技として体得できるのではないかと。そういう浅識な腹積もりである。

 しかし、実良は何にも天賦の才を持っていたのだろう。手本として視聴させたグラビア映像を、マネることができた。

 そして、レッスンは次のステップに移行する。

 場所は変わり、撮影スタジオの温水プール。

 プールサイドの水の中へ昇り降りする梯子に手をかけて、スクール水着の実良がプールサイドへ上半身を乗り出す。

 りつなは実良の顔を覗き込むように膝を畳んで屈み、満足して頷いた。


「実良ちゃん、ほぼ映像通りだよ」

「人のマネをするだけじゃ、私は不満だぜ」


 他人の二番煎じでは気に入らない天才肌の実良は、贅肉のほとんどない細い肩やツインテールの髪の先から水を滴らせてプールサイドに上がる。

 りつながもちろんだよ、と理解ある顔で言う。


「だから次はアドリブで、実良ちゃんがグラビアらしい仕草や動きをするんだよ」

「はあ、そんなもんわかんねぇよ。指導者、手本見せてくれ」

「私にプールシーンをやれってこと?」

「文脈聞けばわかるだろ、じっくり見て参考にするからよ」

「わかった、でも実良ちゃんには少し高等なテクニックだから。まだできないけど」


 そう言うとりつなは実良と入れ替わりでプールに肢体を沈めた。

 一度、頭まで浸かってから梯子に手をかける。

 上半身を持ち上げ、豊満な胸をプールの縁に乗せる。

 そこで微量の恥じらいと喜悦の弾けるような笑顔を浮かべた。


「どう、実良ちゃんは乗せられるだけの胸が武器がないでしょ?」


 実良は珍しく誇るように言うりつなを、呆れた目で見つめた。


「なんだ、単なるデカパイのアピールじゃねーか。そんなんデカけりゃ誰だってできるぜ」

「実良ちゃん自分の胸が乗せるに足りないからって、ひがみを言うのはダメだよ」

「デカいパイなんて、重いだけだろ」


 りつなは上がりながら、


「これは魅惑の重みだもん」

「ふん、魅惑の重みとは大層な自信だぜ。ぶっちゃけるとお前って色気ねーよな」

「そ、そんなことない。プロのグラドルだもん。それより、手本見せたんだから実良ちゃんもアドリブで何かやってよ」

「しゃーねーな」


 気だるそうに実良は腰を上げ、プールの中に戻る。

 その日、何回かアドリブでグラビアのポーズや動きに挑戦したが、やる気を無くした実良の上達は見込めずりつなはレッスンを不機嫌で切り上げた。







 

 

 

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