第22話 ニューカサブランカ中央銀行(前)
ニューカサブランカ中央駅から電車に揺られること五駅。さらに大股で歩くこと三分。
金融街の中心に位置するニューカサブランカ中央銀行にたどり着いたのは、閉店三十分前の二時半のことだった。
「こういう者だが、話ができる奴をつれてきてくれないか」
警察手帳を出すと、対応した行員の顔は大きくひきつった。おそらく銀行が何かしらの不正でも働いたのかと勘違いしたのだろう。
「ここの不手際やらを追及しにきたわけじゃない。だがもっと重大な事態かもしれない。できるだけ早く頼む」
行員はこくこくと首を縦に振ると、転がるようにして窓口の奥へと駆けていった。周囲の人間から何事かという警戒のまなざしは受けているが、気にしている場合ではない。
俺は腕を組みながら、リリィは髪の先をいじりながら、責任者が出てくるのを待つ。
ふとリリィは思いついたような顔をして、俺の顔をのぞき込んできた。
「ねぇ、ワンちゃん」
「なんだ」
「帰ったらフェラしてもいい?」
周囲の視線が一気に俺たちに集まる。俺は思わずリリィの後頭部をはたいていた。
「いったぁ! 何すんの!」
「それはこっちの台詞だ! よ、よりにもよって人前で何言ってんだお前は!」
「え? 人前じゃなきゃいいの?」
「んなわけあるか!」
「だってセックスはしてくれないんでしょ! フェラぐらいいいじゃん!」
「うるさい! 黙ってろ!」
上から怒鳴りつけてやってもリリィは一歩もっひかない。それどころか俺の腕を取り、すり寄ろうとしてきた。
「ねーワンちゃん、お願いー」
しなを作ってもたれかかってくるリリィを避けようと一歩体を引く。だが、そのときに見えたリリィの肌の青白さに、俺は足を止めた。
「体調でも悪いのか」
「……うん、そんなとこ。なんかじわじわ疲れが来ちゃった」
小声で尋ねてやると、リリィも小声で答えてくる。
「さっき触ったあのカギ、死の匂いが濃くてさ……」
全身がぐったりしているのはきっと演技ではないのだろう。
「多分、その持ち逃げしたアホの仲間の血が染み着いてるんだと思う」
だからお願いー、と言いながらリリィはこちらに体重をかけてくる。俺はそんなリリィを起きあがらせてちゃんと立たせた。
「分かった」
疲れた顔をしているリリィの金髪に手を乗せ、ぽんぽんと軽く叩いてやる。
「あとでキスしてやるからそれまで我慢してろ」
リリィは叩かれた頭を手で押さえながら俺を見て、数秒後に何故か赤面した。
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