第2話 月と手の狭間


電車に揺られ 黒い空間の中を通り抜ける


目の前には月の大地が広がっていた


電車を降りると駅員に切符を渡して駅を出た 


白い地平線が永遠と思うほどに広がり少し立ち眩みをする


近くにいた機械の人間に行先を聞いて礼を言うと目的地へと向かった 


軽く大地を蹴ると フワッと体が浮く


そしてゆっくりと落下してやすやすと着地できた 


いわゆる小さな宇宙遊泳である どこまでも高く飛べるような感覚


それでいてそのまま飛んでいき 帰ってこれなくなる錯覚と恐怖


周りに誰もいないことをいい事に ことあるごとに高くジャンプしながら通りを進んだ


通りと言っても一定間隔で目印の杭が刺さっているだけだが


迷ったらレスキューコールを掛ければよいがお金がかかるので安全第一を心がける


そう思いながらもピョンピョン跳ねながら歩いた


黒い謎の金属でできた物体が途中にあった 


せっかくなのでご利益にあずかろうと表面を少し触った


かすかに暖かかった まるで生きてるみたいだった 少しさすると 密着させていた手を離した


おもむろに謎の黒い物体はクジラの鳴き声に似た声を発した 


僕は少し驚いたが 珍しい場面に出くわせたと笑みを浮かべる


名残り惜しいが黒い物体とお別れをした


そしてまたピョンピョン跳ねながら目的地を目指した 


タクシーを使えばモノの数分で目的地にはつくが 有益な道草を食えるのが旅の一つの醍醐味でもある 


後ろを振り向くと 遠くで黒い物体がぽつんと立っていた


微かに鳴き声が耳鳴りみたいに聞こえている気がした だがもう 後数年は鳴かないはずだ だから自分は幸運だったのだ


内心黒い物体にさよならを告げながら 目的地へと向かった

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