112話 『姉は同時に多くの作業をこなすのが得意だけど、流石に100個以上は無理でしょ』

 其の十七。



 私の名前はレア・レアーイ・レアイン。

 どこにでもいる普通の女の子。

 男の子に興味深々。恋に悩む乙女なの。


 ただ今恋の刃先を向けているのは、学校のセンパイ。

 マジちょーカッコよろしい細マッチョなスポーツマンなんだ。


 でもね。実は今日の私、落ち込み中なの。

 なんと意中のセンパイが昨日、私の親友と付き合い出しちゃったのだ。ショック!



 あの女、裏切りやがって。

 ぶっころす。目ん玉えぐり取る……



 ううん落ち着いてレア。

 恋にライバルはつきもの。

 逆に、自分を高めるチャンスだと思わないとね! テヘッ。



 つーわけで、私は考えたの。


「悪魔を召喚して、あの淫乱ビッチ女を呪い殺してやる! ぐへへへへへ!」


 ってね。

 呪いのパワーも高まってお得だよネ! 


「ごははははは! 私の血を! 捧げる! 愛の! 血を! 捧げる! ぐがおおおおおお!」


 早速、呪い開始!

 お爺ちゃんが海外から買ってきた、呪いの金属箱を使った術よ。


 箱の中には、青いヘンテコな模様が描いてあってね。

 ある日偶然気付いたんだけど、この模様に私の血を垂らすと、箱全体が白く光るの。

 これはきっと愛の呪いとかに使う道具よ。説明書も無いけれど、私はそう信じて疑わない。


 私は選ばれし者。

 私の血は、魔王せいたんの生贄。

 私の血を大量に吸わせれば、きっとこの箱は魔王せいたんを呼び起こす。


 全部ただの勘だけど、多分合ってるわ。

 だって私の前世は聖王レアレア。

 魔王せいたんの片割れ。闇に対する光。命の分身だから……(注:全部少女の妄想)


「げひゃひゃひゃ! 悪魔よ来たれ! あの女をブチころしたまええええ!」


 ノリノリで手首を切って血を流し過ぎて、ちょっとフラッとした、その時。

 箱が今までになく強い光を放ったの。


 そして……なんという事でしょう!


 本当に!

 本当に!

 本当に、箱の中に何か・・が現れたの!


「…………って。何かしら、これ?」


 予想していた悪魔さんとは似ても似つかないビジュアルのモノが現れたわ。

 ぴくぴく動いてる。きっと魔王せいたんの身体の一部ね。


 何だろう、雰囲気的には……指かな?

 猿(注:正確には猿ではないが、地球の猿に非常に似ている、この星の生物)の指に近いわね。それも足の小指かしら?

 そうよ、きっとこれは……魔王ノ足ノ小指せいたんズ・タンスぶつけたら・イタイ


 ちなみに私達の腕には、指なんて不便な物は付いていないけどね。

 何でも吸い寄せる球状の手を持ってるのよ(注:ネコ型ロボットのアレみたいな)。


「ぐひひひひ! さあ魔王ノ足ノ小指! あのズベタ売女ばいたをぶち殺しておくりゃあ!」




 ◇



 其の六十二。



 別の宇宙。とある惑星。

 この星に住む人々は、見た目地球人とほぼ同じだ。


「うわああああああ!? 何だアレは!」

「巨大な虫……いや……」

「ドラゴンだあああ!」


 今、彼らの前に巨大なドラゴンが『召喚』された。


 全身肌色で、つるつるとしたドラゴン。

 とにかくシンプルな構造で、身体全体の関節が二ヶ所だけ。手も足も無い。

 尻尾部分には、白いお盆――転送陣が張り付いている。

 そして顔にあたるであろう場所は、固いカバーで覆われている。

 

 いや、これはドラゴンというよりは……


「あれもしかして……指じゃね?」


 指。

 人間の指そっくり……というか、桜の右手ひとさし指である。


「巨大な指に似ているドラゴン……フィンガー・ダークネス・ドラゴン!」

「うわああああ! フィンガー・ダークネス・ドラゴンが襲って来る!」

「おたすけー!」

「フィダドラやべ~!」


 勝手にダークネスと名付けて逃げ惑う人々。

 彼らは地球人にそっくりな外見なのであるが、その身長は地球の蟻以下である。




 ◇



 其の百一。



「ぽよよん!」


 また別の宇宙。


「ぽよ!」

「ぽよん!」


 ここは、半透明のゲル状液体生物――簡単に言えば、スライムの住処である。


「ぽよよよ、ぼん!」


 スライム達はゼリーのように身を弾ませながら、王の誕生に喜んでいた。


 この星に住むスライムのような生物は、相対した者の魔力を感じ取る能力スカウターを持っている。

 そんな彼らが本日、『今までに無く強大な魔力』を持つ者に出会った。

 ダークエルフやドラゴンよりも遥かに強い。圧倒的だ。

 しかも、自分達と同じスライム族……だと思う。おそらく。


「ぽよよん! ぱんぱんぽよぼよよーん!」

「…………」


 は突然現れ、そして何も話さない。

 言葉が通じないのかもしれない。


 しかしその丸さ。ぽよぽよと表面が波打つ柔らかさ。

 これは絶対、自分達と同じスライム族だ。

 しかも、丸いのが二つ連なっている。珍しいフタコブタイプのスライムだ。


 まあ自分達が緑色なのに対し、王は限りなく白に近い薄オレンジ色なのだが。

 しかしそれは大した事では無いだろう。

 スライム達は色覚が発達していないのである。


 あと何か布のような物を被っているが、きっと王冠だ。


「ぼよよよよ!」

「ぼいーん! ぼいーん!」


 とにかくこれで、上級モンスター達から虐げられがちだったスライム族の地位も、一気に向上するだろう。

 スライム達は新たなる王を囲み、かごめかごめのようにグルグルと回った。これは彼らにとって、敬礼のような儀式である。


 そして王――桜のおっぱいは、ブラジャーと共に、ただただ豊かに揺れていた。




 ◇



 其の百二。



「ぷに!」


 更に別の宇宙。


「ぷにぷに!」

「ぷるるん!」


 ここ、半透明のゲル状液体生物――スライムの住処である。


「ぷにん! ぷににん!」


 そしてやはり彼らも、新しい王の誕生に喜んでいた。

 王は、ぷにぷに柔らかく張りのある姿をしている。しかも丸い山が二つのフタコブタイプ

 自分達と色が違うが、それはあまり関係ない。この星のスライムもやはり色覚が弱かった。


 とにかくこれで、スライム族を馬鹿にしている他モンスター達を見返せる。


「ぷにぷるぷににん!」


 スライム達は王――桜のお尻を囲み、グルグルと回った。




 ◇




「うあああ、情報が多すぎてイライラするー!」


 莉羅から送られてくる、百個以上の『別宇宙の映像』。

 流石の桜も、それらを同時に把握するのは不可能。頭が混乱し、気分が悪くなってきた。


 ちなみに莉羅の千里眼は本来、宇宙を越えて見る事は出来ないのだが、転送陣と桜の魔力を利用する事で今だけは可能になっている。


「順番に……ひとつ、ひとつの世界から……脱出、していくしか無い……ね」

「ううぅー。とりあえず体のパーツ全部を、超能力で強化させとこうかしら。傷ついたり日焼けしちゃったら大変だものね」

「重力や……大気の構成も……違う、から……ね」


 桜は自己治癒能力も高いので、怪我については心配無いのだが。

 それでも念のため、各部位を保護しておく。

 一緒に転送されてしまった服や下着が破れるのも嫌だし。


 桜は莉羅の千里眼とテレパシーをガイドにし、転送陣を通して、別宇宙へ魔力を送り込んだ。

 最近の桜にとって『魔力を放出する』という作業はもはや慣れたものなのだが、今日はどことなく違和感を覚える。魔力が綺麗に流れ込んでくれない。


「ひゃんっ。やぁ~ん何これ! ヤなカンジする~!」

「別の、宇宙……だし……。転送陣は……空間越時差の歪みを、修正する……のだけど。修正の余波が、魔力に対する……抵抗体、となり……」

「空間えつじさ? って何よ莉羅ちゃん」


 突然出て来た難しい言葉に反応する桜。適当に聞き流すのは出来ない性分なのである。

 莉羅は首をカクンと横に倒し、簡単な言葉を選びながら「えっと……ねー」と説明開始。


「……本来なら、別宇宙は……時間の、進み方が……こことは、異なる……の」


 この宇宙での一秒が、別宇宙での一万年。

 この宇宙での一万年が、別宇宙での一秒。

 宇宙が変われば、時は一定では無くなってしまうのだ。


「だけど……この転送陣は、その辺も考えて……上手く作られて、いて……『異なる時間』の差を、埋める……機能付き」

「うーん。何となくしか分からないけど、つまり?」

「つまり……細かいトコロは、気にすんな……って、考えられるようになる、機能……だね」



 一方。

 そんなご都合主義的な便利機能について話している姉妹から、十メートルほど離れた地点。

 テルミは落としたスマホを拾い上げ、放置していた父へ状況を説明していた。


「すみません父さん。ゴタゴタがありまして」

「突然慌てて、一体何があったんだよテルミ!」

「ええとですね……それは……」


 しかし、「桜の体がバラバラになって宇宙に散らばった」とありのまま説明しても、冗談としか思われないだろう。

 さて、どうやって説明しようか……と迷っていると、


「ゴキブリよ、ゴキブリ! 父さんの車の座席やペダル下から、大量のゴキがウジャウジャ這い出て来たのよー! あとゲジゲジとかカメムシとか蛇とかネズミとかハクビシンとか!」


 聞き耳を立てていた桜が、大声で適当な事を叫んだ。

 桜本人としては、親には嘘で誤魔化すつもりらしい。

 心配を掛けたくないからか、それとも説明が面倒臭いからか……当然、後者だ。


「ひゃあああっ、俺の車にゴキブリ~っ? それにハクビシンなんてどうやって忍び込んだんだよ~!?」

「ええっと……座席の下に、こう……無理矢理?」


 テルミは、桜の嘘に乗っかる事にした。

 テレビ電話越しの父は泣きそうな顔になり、


「どうしよう。バレたら殴り殺されちゃう……ひいぃ……母さんには秘密だぞ、皆!」


 と、情けない声を上げている。


「分かったわ! 母さんにはナイショにしておくから、数ヶ月分のガソリン代を仕送りしてね!」

「うぅ、分かった。頼んだぞ桜……」


 どさくさに紛れて、お小遣いをゲットした桜であった。

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