-335話 『ザ・解説おじさん。世界大会編』
この惑星に住む人々には、『
と言っても、全人類に備わっているわけではない。数千、数万人に一人。
生まれつき持っている者もいれば、後天的に覚醒する者もいる。
特に戦闘や肉体労働に利用できる
他にも細かな分類はあるが、大きく分けると上記の二つ。
解説おじさんが覚醒したのは『
それに本人は気付いていないのだが、おじさんの解説技はこの惑星で
おじさんの肉体や魂が滅んでも、力だけは世界に残る。それほどまでに強大なエネルギー。
そんな解説
当然、ハイパー解説フェスティバルでも大活躍だ。
一回戦の種目。
会場の大モニターに顔写真を映された、有名人について解説する。
「この方は、タマケル・テツカウさん。ここより東方に位置するボべルリア国のサッカー選手、二十七歳です」
正確にはサッカーではなくサッカーに似ている競技なのだが、便宜的にサッカーと訳した。
「ボべルリアリーグの年間MVPを四年連続で獲得。今年はシーズン半ばにして既に得点数九。去年は十八。一昨年はなんと二十三! さらにその前の年は……」
そんな調子で、タマケル選手の成績のみならず、印象深い試合や、好きな練習法、好きな食べ物、家族構成、学生時代のサッカー遍歴まで解説する。
モニター上の人物を解説するのでは、せっかく覚醒した『触れた者の全てを理解する技』を活かせないのだが……しかしそこは元々業界トップの解説者。
何の問題も無く、圧倒的解説
観客席にいる妻と娘も大喜びだ。
「さすが解説おじさん! 良い解説だったな!」
選手控室に友人が訪ねて来た。
彼は仕事仲間でもある。闘技場の実況をしている、通称実況おじさんだ。
「だが次の二回戦のテーマは政治家だ。お前の得意分野であるスポーツでは無いが……」
「大丈夫。政治分野もしっかり勉強し、実際たまに解説やインタビューもしています」
胸を張る解説おじさん。
実況おじさんも安心したように笑う。
「ところで……今大会の要注意選手である、解説ストロングマスクの試合はどうでしたか?」
解説おじさんは、緊張した面持ちでライバルの情報を尋ねた。
自分の試合中は、他の試合の観戦は出来ない。
そこで友人に、ストロングマスクの試合内容をビデオで撮ってくれと頼んでいたのだが……
「ああ。あいつは一回戦で敗退したよ。参加賞のティッシュ貰って帰った」
「そうか……」
普通に負けていた。
解説おじさんは気持ちを切り替え、二回戦に挑んだ。
◇
二回戦の政治家対決。
得意分野では無いせいで少々苦戦したが、それでも勝つことが出来た。
三回戦も同様。
解説おじさんは、ついに決勝へと進出した
そして決勝のテーマは、
「『試合相手』を解説する……だって!?」
決勝直前に知らされた、対決方法。
選手がお互いにお互いの事を解説するという、解説デスマッチであった。
少し違うが、ラップ対決のようなものだろうか。
「馬鹿な……それでは、有名人である解説おじさんが不利ではないか!? しかも決勝の相手である『解説プロフェッサー』は解説学の大学教授……あまり表舞台に立たない人物だ。情報が少なすぎる!」
友人である実況おじさんは、そう言って壁を殴った。
解説おじさんは椅子に座ったまま黙り、床を見つめている。
「今までの試合テーマはそれぞれスポーツ選手、政治家、社会問題……それがどうして決勝に限って、こんな解説おじさんに一方的不利な課題に!?」
「グハハハ!」
実況おじさんが憤っていると、ガラガラ声の笑い声がした。
扉が開き、筋骨隆々な覆面マスクマンが登場する。
「あなたは……解説ストロングマスクさん!」
「せっかく決勝に上がったと言うのに、試合テーマに嫌われるとはな! 笑いに来てやったぞ、解説おじさんよ! グハハハ! 今笑っております!」
解説ストロングマスクはズカズカと控室に入り、横柄に笑った。
しかし差し入れの饅頭を持っていたので、追い返すわけにもいかなかった。
「もしや……あなたが裏で暗躍して、課題を変えたとでもいうのか?」
解説おじさんは、ハッとして問い詰める。
しかしストロングマスクは、首を横に振った。
「いや知らん。俺はただ見物に来ただけだし。そもそも深夜番組のエロ解説キャラでしかない俺に、そんな権力あるわけないだろ」
「そうか……」
誤魔化しているわけではなく、本当に解説ストロングマスクは無関係だった。
ただただ偶然、テーマがおじさんに不利だったのである。フェス運営の手落ちだ。
解説おじさんは両頬を叩き、気合いを入れた。
「だが、やるしかありませんね。私は決勝で勝って……初代解説チャンピオンになる!」
そもそも『対面した相手を解説』という形式は、おじさんの『触った相手の全てが分かる
不利どころか、完全におじさん有利だ。
じゃあどうして深刻な顔をしていたのかと言うと、ただ歳のせいで疲れていただけなのである。
「行けるのか、解説おじさん!」
「ああ。勝算は十分さ……!」
「グハハハ。お手並み拝見と行くぞ!」
そして、決勝本戦。
まず解説おじさんは、対戦相手である『解説プロフェッサー』と試合前の握手を交わした。
「解説プロフェッサーさん。あなたの本名はニイ・ジテン。五十六歳。身長百七十二センチメートル。体重七十二キログラム。お隣の国、ワンセン王国に生まれ住み、王都立ワンセン大学にて解説文化学の教授をやられています。産まれた時の体重は二千八百グラム。両親の名前はチッチ・ジテンとカカ・ジテン。母親の旧姓はキュセン。初めて歩いたのは生後十ヶ月目。初めて喋ったのは一歳二ヶ月目で、その時の言葉は『にゃーにゃー』。次の言葉は『眼鏡』。三歳から私立ホホイク保育園へ入園。卒園後は王都立ワンセン大学付属小学校へ入学。そのまま中高大とストレートで進学。更に飛び級で大学院まで進み、解説文化学で博士号を取得。大学の助手、講師を経て、三十六歳で准教授。四十七歳で教授へなられています。王都立ワンセン大学は、ワンセン王国で最も権威ある学校。つまり解説プロフェッサーさんは学者としてエリート中のエリートという訳ですね。さらに学術研究の傍ら、ワンセン国立テレビ放送局にて、政治経済を中心とした解説番組をプロデュースしています。プロフェッサーさんご自身はテレビには映っておられませんが、番組内の脚本全てを書き下ろしており、まさにワンセン王国の解説第一人者と言えるでしょう。プライベートでは、大学三年生の頃からお付き合いをしている女性……旧姓メヨ・ヨメさんと、お互いが二十八歳の時にご結婚。二人のお子さんに恵まれています。長男ニア・ジテンさんは現在二十三歳。プロフェッサーさんと同じく、王都立ワンセン大学の大学院生です。次男トウオ・ジテンさんは現在十七歳。やはりお父様と同じく王都立ワンセン大学付属高等学校に通われており、非常に優秀な成績を収めておられます。さらに解説プロフェッサーさんは、ペットとして犬のコロちゃんを飼われています。現在四歳二ヶ月。ゴールデンワンセンワンワン犬。ワンセン王国では一番ポピュラーな犬種であり、コロちゃんの体高体重は平均値とほぼ同じ、六十センチメートル、三十二キログラム。まさにお手本のような食事運動管理をされており、解説プロフェッサーさんの性格を映し出す鏡のようであります。ちなみにこのコロちゃんは、解説プロフェッサーさんのペットとしては七代目であり、最初のペットは氏が四歳の頃に飼育していた亀のミドリちゃん。次は……」
「あ、うん。ちょ、ちょっと待ってちょっと……そ、そうですその通りなんですけど……え? 何? 何で知ってるの……怖っ……」
解説おじさんの圧勝だった。
会場の皆がドン引きする程の大勝利だったという。
◇
「解説おじさんさん! 初代解説チャンピオンおめでとうございます。今の気持ちはどうですか?」
「これに慢心せず、これからも解説技術に磨きをかけていこうと思います」
表彰台の上。
解説おじさんは、大会司会者からインタビューを受けていた。
いつもは自分がインタビューをする方なので、なんだかムズ痒い気分だ。
「この優勝を、どなたに伝えたいですか?」
「やはり家族。そして友人達と一緒に祝いたいですね」
そう言って、観客席にいる妻子と目を合わせ微笑んだ。
そして次に、近くで拍手している実況おじさんと解説ストロングマスクも見る。
ストロングマスクは何時の間にか友人ポジションに収まっている。一度戦った相手が仲間になる、熱い展開だ。よく考えると一度も戦っては無いのだが。
「栄えある初代チャンピオンの、次の解説のお仕事はなんでしょうか?」
司会者が解説おじさんに聞いた。
「はい。実は明日、あの闘技場新チャンピオン、オーサくんへのインタビューを行う予定です。その結果をまた解説致しますので、皆さんぜひご覧になってください」
「なるほど、チャンピオン同士の対談というわけですね!」
「照れくさいですが、そうなりますね」
解説おじさんは頭を掻き、そして再び家族友人達を順に見た。
達成感、そして充実感が体中に漲る。
仲間達。
チャンピオンという名誉。
そして解説
この安定した平和な日々は、これからもずっと続くのだろう。
そう確信していた。
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