10話 『姉は忙しい』
いつも、扉をノックする音で目覚める。
「姉さん、おはようございます」
「ううーん……」
毎朝弟が起こしに来てくれる。
桜は寝ぼけまなこで部屋の扉を開け、弟に寄り掛かる。
ついでに弟のお尻を揉む。ちょっと目が覚めた。
「おはよーテルちゃーん。着替え持って来てー……」
「用意していますよ」
テルミは姉にジャージを手渡し、次は妹を起こしに行った。
桜は着替え、庭に出る。まだ日が昇る前。
軽く準備運動をして、たっぷり一時間ジョギングをする。
家に帰ると、テルミが朝食の準備中。
「テルちゃんたーだいまっ!」
そう言ってとりあえず弟の尻を揉んだ後、「味噌汁はワカメでね!」と言い残し、浴室でシャワーを浴びる。
制服に着替えて自室へ。数十分の早朝勉強。
その後、家族みんなで朝食。
「今日は……出来るOL風で……ヨロシク……」
とリクエストする
◇
「くだらない。却下」
放課後の生徒会室。
生徒会長桜が、淡々と言い放った。
生徒会の活動中。
目安箱に入れられた生徒アンケートを読み上げ、『筋の通った要求』があれば生徒会メンバーで審議。
体裁を整え、学校運営へ正式に提案する。
ただその『筋が通った要求』が中々無い。
「次のアンケートは、ええと、『好きです付き合ってください生徒会長』」
「却下」
「『桜さまのエッチな写真ください』」
「却下」
「『生徒会長は常に水着で学校に来てください』」
「却下。今日もまともな要望は無さそうですわね」
桜は高飛車な口調で言う。
学校ではクールなお嬢様生徒会長キャラで通しているのだ。
「あ、これはマトモですよ桜さま!」
「読んでみなさい」
「はい! 『背景。春も過ぎ入梅の候となりましたが、生徒会執行部におかれましては、ますますご活躍』……」
「前置きは飛ばしなさい」
桜はそう指示しながら、この高校生らしからぬ固い要望文に対し、「きっと真面目な事が書かれているに違いない」と期待を寄せ……る事は無く、メンドクサイなあと思った。
「はい。えっとー……『最近校内に於いて不良行為やいじめ行為が増えました。生徒会ももっと率先して風紀の乱れを正すべきでは無いでしょうか。例としてはやはり懲罰が良いと思います。具体的には生徒会長の真奥桜さんが、不良男子生徒へムチやロウソクやヒールのカカトでお仕置きしてくださいお願いします』だそうです!」
「……却下」
結局今日は、たいした生徒会活動をしなかった。
◇
真奥桜親衛隊なる取り巻き集団を従え、大名行列のように帰宅する。
その行列内には弟であるテルミも一緒だ。
「またカラテガールが活躍したんですって!」
「最近は、変な忍者みたいな悪人と戦ってるみたいです!」
女生徒達は今日も、謎の女性ヒーローの噂で持ちきりだ。
そしてヒーロー・キルシュリーパーは、未だに旧名のカラテガールで呼ばれている。
「
「はい。拝見しました」
テルミは先輩女子の問いにそう答えながら、先頭を歩く姉がどんどん不機嫌になっていくのを感じ取った。
◇
「はー。なんで新しい名前が定着しないのかなー」
「……姉さん、やめてください」
家に辿り付いた桜は、とりあえず弟の尻をいつも以上に長く激しく揉んで、気を落ち着かせた。
その後テルミは夕食の準備に取り掛かる。
桜は今年受験生であるという大義名分を掲げ、料理の手伝いはせずに部屋へ行き、勉強を始めた。
勉強中に時々キッチンに行き、料理中の弟を後ろから抱きしめる。
そして怒られて満足する。
夕食後、祖父やテルミは、自宅敷地内にある道場へ行く。
武術家系である真奥家は、家業として武道の指導も行っている。
家に伝わる武術では無く、あくまでもスポーツ武道の指導だ。
真奥家の武術は弓馬を元に、剣術も徒手もある。
なのでとりあえず道場では、
「剣道と柔道どっちも学べてお得!」
というキャッチフレーズで、二つの武道を週三回レッスン。
高校生以下の部と青年の部がある。痒い所に手が届く。
指導をするのは祖父と、今日はいないが母。
本来テルミが来る必要は無いのだが、怪我人が出たら即座に手当てするため、薬箱を持って待機している。
そして筋骨隆々な門下生たちは、どこか女性的な母性溢れる少年に傷を癒され、なんだかムズムズするのだった。
その間、桜は高校三年生らしく勉強中だ。
ノートパソコンの前で、インターネット家庭教師から英語を学んでいる。
◇
武道の時間が終わったら、次は武術の時間だ。
道場内は、家族以外立ち入り禁止となる。
姉弟妹の三人が集まり、祖父の指導を受けるのだ。
「テルちゃん、莉羅ちゃん、おじいちゃん! あたし、ついに心眼流亜系真奥派の奥義、連続壁キック上昇を覚えたわ!」
桜はそう言って、道場の壁を駆け上がり天井に手を付き、猫のように床へ着地した。
ちなみに大魔王の肉体強化能力は使っていない。素のパワーでやってのけた。
心眼流亜系真奥派とは、家系に伝わる武術流派の名前だ。
その当主である祖父は、桜の壁歩きを見て、
「えっ何その奥義知らん知らん、そんなの無い。怖っ」
と呟いた。
才能は充分過ぎる程にあるのだが、行動がエキセントリックな孫娘。
最近はその世話に疲れたので、孫息子に丸投げしている。
「おー……SASUKE、みたい……くふふ」
莉羅は姉のパフォーマンスに喜び、拍手をした。
「姉さん。ずいぶん高い所から飛び降りましたが、怪我は無いですか?」
テルミは薬箱を傍らに置き、姉の足を触って異常が無いか確認した。
「やんっ、テルちゃんったら積極的ね。道着の上からじゃなくて素肌のふともも触ってみる?」
という桜の台詞は当然スルーされる。
桜は最近、前にも増して武術の訓練に力を入れている。
大魔王が持っていた超能力の一つ、肉体強化の、『とある性質』に気付いたからだ。
それは、強化する自分の肉体が元々強ければ強い程、効果が何乗にも上昇すると言う事。
このまま鍛えていけば、映像で見た大魔王ギェギゥィギュロゥザムのように、惑星を丸飲みする程の巨大化も出来るかもしれない。
ただしあまりスマートでは無いので、出来たとしてもやるつもりは無いが。
更に肉体強化の副産物として、素の運動神経が増した。
強化した肉体で実現出来る、『普通なら無理な行動』。
例えば、新幹線より速い走法。例えば、空を突き抜ける程のジャンプ。
それを現実に行った事で、動きのイメージが頭の中で固まった。
そのイメージにより、肉体強化を使わない時でも運動神経が高まる結果になったのだ。
連続壁キック上昇の後、桜は弟妹の指導を行った。
妹には基本の動きを優しく教える。
そして弟には、
「ほーらテルちゃん。どうやって逃げる~?」
「痛っ……さすが姉さん。完全に動けませ……んくっ!?」
「ほらほら。脱がしちゃうわよー? そのまま大変な事やっちゃうわよー?」
執拗な程に寝技で絡みつく。そして尻を揉む。
ただし柔道耳にならないように、頭を圧迫するような技は一切使わない。
弟の容姿に関しても、非常にデリケートな姉なのだ。
まあたまに、隙あらば耳たぶを甘噛みしているが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます