-3話 『妹はだいたい知ってる』
「超魔王ライアク……?」
テルミと桜の中に、超魔王の記憶の一部が映像として流れ込んだ。
亜空間に存在する、意識だけの存在。
世界の全てを見渡していた。
「そしてりらは……ライアクの、生まれ変わり……」
「ちょ、ちょっとちょっと待ってよ
「うん……それは、ね……」
莉羅は、眠そうな目をこすった。
莉羅の説明によると、『魂』という物は唯一無二。他のものに生まれ変わる事は無いらしい。
それに対し、『力』は別。
突出した力の持ち主が死んだ時、肉体と魂が消えてもその強大な力だけは世界に残り続ける。
そして宇宙や次元を超え、新しい宿主を探すのだ。
例えば、大魔王ギェギゥィギュロゥザムの魔力もそうやって宇宙を漂い、母親の腹の中にいた桜と出会い、宿主と認めた。
こうして桜は大魔王の強大な魔力を身に宿したのだが、そこに大魔王の記憶や人格は無い。純粋な力のみを受け継いだのだ。
「でも、ギェギゥィギュロゥザム達とは違って……ライアクは、その意識、魂自体が、特出した力……」
莉羅は、兄を上目遣いで見ながら言う。
「本来は、死ぬと必ず消えるはずの魂……でも、この世界で唯一、ライアクだけは例外だった……死を迎え、虚空から解き放たれた後も……魂だけは消滅せずに、世界を彷徨ってた……」
そう言う莉羅の表情に一瞬悲しみが浮かんだ事を、テルミも桜も気付かなかった。
「りらは……ライアクの魂と、一体化……したの。だから、世間一般で言う……生まれ変わりと、ほぼ同義……」
莉羅は俯き、人差し指の先でカーペットをぐるぐるといじり出した。
「……だから、大魔王の記憶を持っていない、ねーちゃんとは違って……りらには、ライアクの記憶、知識が……あるの……」
「ふーん、そういう事かあー。そんなたいそうな記憶を持ってたのね莉羅ちゃん。じゃあ、時々えっちな知識とかを教えてあげてたのは、余計なお世話だったかしら?」
「ううん……」
桜の言葉に、莉羅は首を横に振る。
「地球の、ピンポイントな知識……特に、お世話好きな男の子を落とすテクニックは……持ち合わせていなかった、から……助かって、るよ……」
「あら、それなら良かったわ」
「姉さん、莉羅に一体何を教えていたのですか」
「あっそうだ莉羅ちゃんあのね!」
テルミから説教されそうだったので、桜は慌てて話題を変えた。
「莉羅ちゃんも、あたしの超能力みたいに色んな技が出来るって事よね! 一緒にカラテガールやる?」
桜は、カラテガールの正体を一応弟には隠していた事は忘れ、目の前で妹を勧誘した。
しかし莉羅は首を横に振る。
「りらは……ライラクの記憶を持っている、だけ……超能力の使い方は、知ってはいるけど……魔力が無いから、使えない……もん……」
「そうなの!?」
テルミと桜は、莉羅の意外な言葉に少し驚いた。
「でも、僕達の頭に映像を流し込んでいたじゃないですか。あれはどう考えても超能力ですが」
「ううん……あれは……テレパシーは、方法を理解すれば、魔力が無くても出来る技術……なの……」
「ええ! ってことは、あたしもあれ出来るの!? テルちゃんの頭に、常に愛する姉の映像を流し続けるとか」
桜の問いに、莉羅は再び首を振る。
「地球人の脳では、方法を理解出来ない……りらも、脳では理解してないけど……ライアクの知識を参考にして、ブラックボックス状態で、使ってる……の……」
「なーんだ、残念」
「僕としては助かりました……でも、凄いですね莉羅」
兄の褒め言葉に莉羅はクスリと笑い、心なしか胸を張った。
「他にも、出来るよ……遠くのものや、隠れてるものを……見たり……」
「
「うん……それに、遠く離れた相手に、催眠をかけて……怯えさせたり……」
という莉羅の台詞に、テルミは引っ掛かった。
「怯え……? 莉羅、もしかして」
◇
男子高校生、
姉が過剰なスキンシップを取ろうとする事……も問題ではあるが、悩みとまではいかない。
姉が自分をおもちゃにして遊ぶ事……も問題ではあるが、生まれた時からそうだったのでもう慣れた。
妹の事が心配でたまらない事……は、悩みではあるのだが、テルミの一方的なおせっかいである事も否めない。
姉妹についてでは無く、正真正銘自分自身の悩みだ。
家業である武術についての悩み。
色々な武道をぶっ潰せ、もとい色々な武道にも通じろ。という母の教育方針の元、桜とテルミは様々な武道大会に出た。
テルミが初めて対外的な試合に出たのは、小学一年生になってから。
剣道の小さな地方大会。個人戦だった。
男子三年四年生の部に、まだ一年生だったテルミが無理矢理ねじ込まれた。
母が大会運営の責任者と知り合いだったのだ。
二年前に姉が同じ条件で優勝したのだ。なのでテルミも大丈夫。
と母は言ったが、桜は特別製なため、比較するのは酷だと言えよう。
ちなみにその桜は、まだ小学三年生だったが、女子五年六年生の部に無理矢理ねじ込まれていた。
女子の部では、桜が当然のように上級生達を軽々と倒し、さくさく勝ち進んでいた。
その横でテルミも、相手にあまりやる気が無かったおかげで、なんとか二回戦までを突破。
しかし三回戦。
やる気満々な上に、背が高く体格もがっしりしている、優勝候補ナンバーワンの四年生に当たってしまった。
これは無理だ。勝てる道理が無い。
玉砕覚悟で、勉強させて貰うつもりで挑むことにした。
「怪我だけはしないように気を付けよう……」
と呟き、いざ試合開始。
何故か勝ってしまった。
その勝ち方が腑に落ちない。
試合開始の合図と共に、急に相手が怯え、泣き出してしまったのだ。
テルミは疑問を抱きながら次の試合に進み、そこでは結局判定負けした。
その後も剣道のみならず、他の武道大会でも似たような勝ち方をするようになった。
それも、「この相手と戦ったら怪我をするかもしれない」と思ってしまった時に限る。
実力伯仲な相手には、良い試合をしつつ負ける事もあるのだ。
姉の桜も、似たような経験がある。
ただし試合では無く、喧嘩で相手が石を投げつけようとした時。
それと、交際をしつこく迫る勘違い男が、スタンガンを取り出した時。
母も同じ経験があるらしい。
莉羅をお腹に宿していた頃、つい町中で知らないヤクザと喧嘩してしまった時。
「きっと武術家の殺気がなんちゃら~って技ね! あたし達の家系に伝わるスゴ技よ!」
と桜は言っているが、師範である祖父は、
「知らん。何それ怖っ」
とコメントしている。
話を戻すと、つまりテルミは、この謎の勝利にずっと悩まされているのだ。
自分の実力を知る事が出来ないから、という武術家らしいストイックな理由では無い。
ただただ、相手が不憫で可哀想になってしまうのだ。
試合の後にハンカチを渡し、恐怖と優しさの落差で相手に懐かれる日々。
そして今夜。
その悩みについて、ついに原因が分かった。
「怯えさせる能力とは……もしかして」
「うん……にーちゃん達が、身の危険を感じた時……りらが、相手に恐怖心を植え付けたり……してた……の」
莉羅はそう言った直後、突然がくりと首を垂れ、眠りこけた。
深夜、日付が変わった後。ついに眠気の限界が来たのだ。
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