-4話 『姉の前世がオッサン』

「ぐははははは! 吾輩の力で宇宙を滅ぼしてくれるわ!」


 大男が、偉そうに高笑いをしている。


 筋骨隆々。鋭い目付き。立派なあご髭。

 それよりも何よりも特徴的なのは、その体格。

 小さな惑星を握り潰す事が出来る程に、とにかく巨大だった。


 音が伝わらない宇宙空間で喋っているのだが、どういう原理か、その声は銀河中に響き渡っている。


「吾輩に従わぬ星の住民共よ。我が血肉の一部となるが良いわ」


 男は更に巨大化し、星をぱくりと食べてしまった。


「ぐあっはははははーーっ!」




 ◇




「……ってのが、ねーちゃんが、使えるようになった、力の……元の持ち主……大魔王だよ……」


 莉羅りらが、眠そうな顔で言った。


「これは一体……何故? どういう事ですか莉羅」


 テルミと桜は困惑している。

 頭の中に、星を飲み込む大男の映像が流れ込んで来たのだ。

 ちなみにその大男の台詞は、地球上のどの言語とも違っていたのだが、


「大魔王の台詞は、りらが、翻訳してあげました……字幕スーパー……えっへん」


 というわけで、テルミ達も意味を知る事が出来たのだ。

 そしてその大男の力が、桜に受け継がれていると言う。


 そのような不可思議話もさる事ながら、更に混乱するのが妹の行動だ。

 何故、莉羅がそんな事を知っているのか。

 何故、このような映像を頭に直接送り込む事が出来るのか。


「ちょっと待ってよ莉羅ちゃん。色々意味が分かんないんだけど!」


 桜は、莉羅の肩を掴んだ。


「言いたい事は沢山あるけど、まずは、えっと……あたしの超能力は、元々あのでかいオッサンの力ってわけ!?」

「そう……だよ……あのオッサンから、受け継いだ……の」

「受け継いだって、何でよ!?」


 桜はわけが分からないという顔をして、莉羅の体を揺さぶる。


「漫画とかで良くあるパターンだと……あのオッサンがあたし達のご先祖様だったり、あのオッサンの力が宿った果実をあたしが気付かない内に食べちゃってたり、あのオッサンがあたしの前世だったり……」

「うん……それ、だよ……」

「どれ!?」

「オッサンが、ねーちゃんの、前世……」


 莉羅の言葉に、桜は頭を抱えた。


「えー! あんなオヤジはヤダヤダヤダー! あたしの前世はもっとこう……西太后とか妲己とかでしょ!」

「どちらも歴史に名高い美女ですが、悪女ですよ。姉さん」


 そんな桜とテルミの顔を見上げながら、莉羅が説明を続けた。


「正確には、ねーちゃんが思っているような……世間一般で言われる前世とか、転生とかとは、ちょっと違う……よ……」


 莉羅は、抑揚の無い平坦な声で言う。


「そもそも魂とは、真に唯一なもの……宇宙に一つだけ生まれ、一つのまま消えていく……尊い、もの……」

「あら、莉羅ちゃんったら詩人ね」

「だから、生まれ変わりなんて、あり得ない……よ。ねーちゃんの魂は、大魔王のものでは、無くて……ねーちゃん自身の、もの」


 莉羅はそう言って、桜の胸を指差した。

 人差し指が大きな胸に埋まる。


「でっか……ずるい……」


 そんな莉羅の羨ましそうな視線はスルーし、桜は「そっか、あたしはあたしって事ね」と溜息をついた。


「では、あの魔王という大男が姉さんの前世と言うのは、どういう意味ですか莉羅」

「うん……それは、ね……」


 莉羅は桜の胸から指を引き抜き、テルミの顔を見た。


「生まれ変わりでは、無い……けど、強大過ぎる力は、後世に残る……んだ。それも、宇宙を越えて……時空を超えて……次元を超えて……やがて、しっくりくる体を見つけると、結びつく……」


 次に莉羅は、桜の顔を見る。


「その、しっくりくる体ってのが……」

「強く美しい、あたしってわけね!」


 桜は自信満々に胸を叩き、


「なるほどね。オッサンの生まれ変わりってわけじゃなく、オッサンが使ってた道着のお古を貰ったってトコか~。それならまあギリギリ許容出来るかな」


 納得したように頷いた。


「ねーちゃんが、力に耐えられるくらいに、成長したから……眠ってた大魔王の力が、覚醒した……んだよ……」


 莉羅の説明を聞き、テルミと桜は、突然目覚めた超能力の正体について一応理解した。

 一応、と言うのは、そもそも莉羅の言葉が真実なのかどうか、判断しかねるからである。

 大事な妹の言う事は信じてあげたいが、言っている事があまりにも現実離れファンタジー


「ちなみに、大魔王の名前は……言語体系が違うから、固有名詞を言葉にするのは、難しい……けど、無理に発音するのなら……ギェギゥィギュロゥザム」

「ギエギウ……? ず、随分言いづらい名前ですね」

「ギエギブッ……あーん噛んだ! めんどくさいからギエっさんって呼ぶわね」


 そのギエっさんだとか別世界だとかを信じると言う前提であるならば、莉羅の説明には筋が通っている。

 桜に超能力が備わったのは事実。


 それに莉羅自身も、テルミと桜の脳内に直接映像を送るという、超能力を使った。


 となると、莉羅の説明も事実なのだろうか?

 AならばBと繋がるような事象では無いが、信憑性は出てくる。


 いや、しかし……そもそもの話として……

 

「どうして莉羅が、そんな事を知っているのですか」

「そうよそうよ莉羅ちゃん! なんでー!?」

「姉さんに魔王の力が宿っている事を、力が覚醒する前から知っていたかのような口ぶりですが……」

「そーよそーよ! なんでえー!?」


 莉羅は、その質問にすぐには答えず、暫くテルミの顔を眺めていた。

 言おうかどうか躊躇しているようだ。


「莉羅……言いたくないのなら、無理強いはしませんよ」


 テルミは、莉羅の頭の上に軽く手を置き、人懐っこい笑みを浮かべながら撫でた。

 そんな兄を上目遣いで見て、莉羅は意を決したようだ。


「りらも……ねーちゃんと、同じ……ような、もん……だから……」


 頭上に置かれたテルミの右手を、両手でそっと握りしめる。


「虚空の賢者……超魔王、ライアク……とか、呼ばれてた……」

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