第17話 イベントの新解釈
裁判の後も開演とはならず、引き続き話し合いの場が持たれた。
議題はもちろん次のイベントについて。
ソーヤ・ソガキス親子は、汚名を払拭すべく、不退転の決意にて臨む。
「さて、次のイベントはどんなんだっけ」
「カバヤの街で色々あった挙げ句、勇者の鎧が手に入るのよね」
「本来ならたしか……街に入ると、突然捕まっちゃうんだよな」
「そうです。いきなり衛兵に捕縛されます。ソガキスが領主の息子だからです」
「親父のソーヤに嘘情報を流すんだよな。オレたちの事を勇者の名を騙る強盗だって」
「そうね。誘拐した事実は伏せて、ソーヤさんをコロッと騙しちゃう。私たちは犯罪者扱い」
「それから牢屋に収監。だけど、すぐに出される」
「魔物が集団で街に押し寄せるからね。もし本物の勇者なら退治しろって言ってたわね」
「そんで粗方撃退すると、領主が謝罪かつ勇者の鎧を進呈してくる」
「息子のソガキスも改心してメデタシ、メデタシ……?」
全員がソガキスをジッと見る。
女性陣に至っては、視線だけで殺さんとばかりに、鋭く睨み付けた。
これにはソガキスも身動ぎするしかなかった。
「なんかムカつくな。やっぱりモブ落ちさせちまうか?」
「いやいやいや! これはオレのせいじゃないッスよ。公式シナリオッスよ!」
「そうだけどさぁ。何この話? 意味わかるか?」
「うーん。有りがちじゃないかなぁ。報酬として伝説の武具を貰えるっていう」
「何で襲撃の時に差し出さないんだよ。勇者である可能性を見込んだなら、最高の装備持たせて生存率を上げようとするだろ」
「そうだけどさ。ギブアンドテイクの形にしたいんじゃない?」
「だったら冤罪で牢屋に入れられた分、それと聖女を誘拐された分が未精算じゃねぇか。ほんと意味不明なイベントだな」
「勇者さま。私との愛もまだ未精算です。クエストクリアに向けて、2人きりで語らいあいましょう?」
「メリィ、いい加減にしないとブッ飛ばすわよ」
メリィの件はさておき……どうにも筋の通っていない、ツギハギのようなイベントであった。
聖女の誘拐。
誘拐犯が貴族の息子で、逆恨みによる虚偽の密告。
勇者たちは捕縛されて牢屋送りとなる。
その頃に外から魔物が攻め寄せて、領主は勇者たちに頼る。
撃退すると、謝罪の後に勇者の鎧が手に入る。
領主親子にお咎めも無く、イベントクリアとなるのだ。
どうにも罪に対しての償いがアンバランスである。
さらに言えば、今回は息子がアドリブによって相当にやらかしてしまった。
初回通りに動こうものなら、ユーザーの心証悪化を招き、更なる悪評を頂戴する事になりそうだ。
「息子のソガキスが優遇されすぎだな」
「そりゃあ、領主の息子だからじゃない? 偉い所の子なんでしょ」
「王命を受けたオレたちまで、領主にヘーコラする意味ないだろ。むしろソーヤたちが頭を下げる側なんだからな」
「確かに。なんだか辻褄があいませんね……」
「んんん、わかったぁーッ!」
ソガキスが突然大声をだす。
もちろん周りは驚くし、エルイーザから怒りを買ってエルボーを頂戴してしまう。
「うるせぇんだよゴミカス。股間の棒もぎ取ってケツに挿すぞボケ」
勢い余って唇を切ってしまったが、めげずに彼は持論を展開していった。
「いてて。いや、違うんスよ。この理不尽イベントの意味が分かったんス!」
「へぇ、言ってみなよ。性犯罪者の薄らザコなめくじ。くだらねぇ内容だったら首ポロンだかんな」
「いちいち怖いッスねぇ……。ええと、親父のソーヤはシナリオ内で、オレを勇者に仕立てあげようとしたんスよ!」
「あぁ? どういうこったよ」
「聖女を拐わせたのも、勇者さんたちを捕まえたのも、鎧を差し出すのに渋ったのも全部! 実の息子をなんとか勇者に担ぎ上げようとした結果だと思えません?」
「うーん。そんな心理描写無かったけどなぁ。特に、聖女誘拐の黒幕が父親だって、一言も触れてないし」
「無いなら尚更良いじゃないッスか。新解釈で改編しちゃおうッス!」
ソガキスの発想は悪くはない。
演技次第では辻褄を合わせつつ、イベントを盛り上げる事が出来そうである。
少なくとも、元のシナリオよりはキャラの動機付けなどもシックリきそうだ。
「勇者乗っ取りねぇ。悪くないけど、2週目はその路線にするの?」
「ソガキスは細かいプランまで考えてんのか?」
「もちろんッス。無理矢理聖女を引き込もうとしたが失敗。八つ当たり気味に親父に密告。勇者さんたちを捕まえて、勇者の盾を奪うために処刑を企むッス!」
「そこまでは大差ないな」
「ここからッスよ。魔物の大群に勇者さんをけしかけて、共倒れを狙う。オレと親父はミーナさんを連れ出して鎧の封印を解こうとするが、途中で魔物に惨殺されてお終いッス」
「惨殺されるって……ずいぶん他人事みてぇに言うな」
聞いていた全員が若干引いた気配になる。
それもそのはず。
キャラクターはイベント中に死んでも、消滅することはない。
ゲームへの再登場が不可となるだけで、今現在のような非公演時に顔を合わせる事ができる。
だが、痛覚はある。
その痛みだけは回避しようがない。
ゆえに一同は、自殺と同義の案を出したソガキスに対して憐れみ、覚悟の凄みに気圧されたのだ。
「何もかも、全部承知の上ッス。やらせてください! このままクソヤローで終わりたくねぇんス!」
「儂からも頼む。倅の意気込みを買ってやってほしい」
「ソーヤのおっさん。アンタまで死ぬ必要は無いんじゃねぇの?」
「どうせやるなら派手にやった方が良い。人間側の悪徳親子として、華々しく散りたい」
「お願いします! どうか、どうか力を貸してくださいッ!」
気迫が十分に込められた懇願だった。
これを目にしては、異論など出ようハズもない。
ーーパァン!
空気を入れ換えるべく、リーディスが両手で大きな音を立てた。
そしてテーブルの中央に向けて拳を突き出した。
「いいじゃねぇか。やってやろうぜ。勇者乗っ取りイベント! みんなで盛り上げようじゃねぇか!」
その姿を見て、他のメンバーも次々と拳を突き出した。
リリアやルイーズが拳を合わせた。
メリィはリーディスの拳を撫で回そうとし、リリアに手のひらをつねられる。
しばらく遅れて、小さな拳が突き出された。
それは一同が最も気がかりだった人物の物である。
「ミーナさん。良いのですか? あなたの意見をまだ聞けていませんが」
「大丈夫です。もう落ち着きましたし。それに、面白そうです!」
「……わかりました。この案に乗ります」
最後にマリウスが拳を突き出す。
これで列席者全員の賛同が得られたことになる。
「いいか! 絶対に成功させるぞ!」
「おうッ!」
曇りなき声が平原に響き渡る。
絆が綻びだしたメンバーたちであったが、どうにか修復出来たようだ。
それからは全員が持ち場に戻った。
万全の態勢で次のイベントに臨む為に、下準備をする必要があったからだ。
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