第4話  悪夢ふたたび

主人公である勇者は名をリーディスという。

18歳の男、高身長で、焦げ茶色のツンツンに逆立った髪型。

目付きは若干鋭く、逞しさと正義感の同居したような、強めの笑顔でいることが多い。


相棒の幼馴染みはマリウスという。

同じく18歳の男で細身、リーディスより頭一個分ほど背が低い。

髪は湖面のように蒼く美しい長髪。

顔立ちも優男と呼ぶに相応しく、いつも柔らかな微笑みを絶やさない。



さてストーリィだが、再び王の下へ戻った2人に、王国から護衛を一人送られる。

本来のシナリオ通りに進めれば、新たなメンバーも男であり、更にむさ苦しい一団が出来上がってしまう。

果たして、彼らはこの問題にどう対処するつもりであろうか。




「よくぞ戻られた、勇者たちよ。碑文を読んだならば旅の目的も見えた事だろう。さらには道中の戦闘により、移動には常に危険が伴うことも身をもって知ったはずだ」



再び謁見の間にて、王様から労いの言葉がかけられた。

魔物に襲われはしたが、一切の被害は無い。

逃げ通しだったからだ。



「こちらから護衛の者を一人出そう。聖騎士、司祭、宮廷魔術師、メイドの中から選ぶが良い」



王様は先の失敗に懲りていないのか、ここで大きなアドリブを利かせた。

本来はメイドなどリストに並ぶことは無い。

完全に思い付きの提案であった。


だが、この機転には勇者も内心で褒めた。

序盤に限った事とはいえ、パーティの全員が男というのは評判が悪かったからだ。

もちろん聖騎士などの従来通りの護衛を選択すれば、男所帯となることに変わりはないが、女性が選択肢に入るだけで印象は違ってくるだろう。

ナレシーションによる質問がユーザーへと問いかけられた。


【連れていきたい護衛を選んでください。】

【聖騎士 司祭 宮廷魔術師 →メイド】


コントローラーの操作は異様に素早かった。

それもそのはず。

実はこのメイドは、本作での人気ナンバーワンなのである。

本来ならミニイベントしか用意されていないサブキャラクターであるので、登場シーンもメインヒロイン勢に比べると圧倒的に少ない。

それでも既プレイのユーザーたちは、こぞって彼女を褒め称えるのだ。

件の掲示板でも『この子メチャクチャ可愛い』『なんでヒロインじゃねぇんだ、ふざけんな』『落とせ! 落とせ!(性的に)』といった具合に大盛り上がりを見せたものだ。


選択肢を選んだあとに、王様から確認の言葉が戻ってきた。

少し呆れたような表情を浮かべながら。



「分かっているとは思うが……メイドは戦いに不向きだ。当然この中で最も弱い。それでも構わぬか?」

【→いいよ やっぱやめる】



今度も返事は早かった。

コントローラーのボタンを連打する音が聞こえてきそうである。



「何と酔狂な……まぁよい。ミーナ、挨拶をしなさい」


「初めまして、メイドのミーナです! 勇者様の足を引っ張らないように頑張ります!」



ミーナは勢い良く、そして深々とおじぎをした。

薄桃色の長い髪をアップにまとめ、その上には小さめのヘッドトレスがちょこんと飾られている。

色白で目はやや黒目がち。

設定年齢は公表されていないが、15歳くらいに見える。

背は低く華奢で、体つきも女性というよりは少女に近く、黒を基調としたメイド服を存分には着こなせて居なかった。


これは製作陣の趣味が色濃く現れたか、あるいは一部のユーザー層に媚びた結果なのかは判らない。

判明しているのは、彼女が並み居るヒロインを蹴散らし、ダントツの人気を博したという事実だけだ。



「勇者よ。この娘は戦えない事もない。だが、なんと言ったものか……」


「王様、私は団長様に鍛えられました。だから戦闘もバッチリこなせますよ!」



ミーナは威勢の良い声をあげつつ、武器を抜いた。

小柄な体格に見合うナイフは、刀身がとても短い。

一応は王の御前にも関わらず、刃物をやたらに振り回して、鋭い風切り音を鳴らす事で実力をアピールしようと試みた。



「ホラッ、ホラッ! 私はこんなにも!」


「これこれミーナや。落ち着きなさい」


「ホラホラホラァ! ……あッ!」



ナイフがスポッと手からすっぽ抜け、勢い良く飛翔していく。

美しい真一文字の端点は勇者の前頭部だ。

制御を失った凶刃が赤い血を求め、罪なき者の額へと突き刺さる。


ーーザクリ。


【勇者は2のダメージを受けた】



イベント中の出来事だが容赦ない。

当然の事ではあるが、致命傷を負えば街中でも王の御前でも死ぬ。

幸い、今は体力が全快だったおかげで『痛い』という程度で済んだが。



「こんな調子であるが、ミーナをしばらく護衛として同行させる。旅に慣れた頃、城へ送り返すように」


「あぁ、勇者様ごめんなさい。ついでによろしくです!」


「いってぇ……。ともかく、よろしく」


「ドジなメイドを護衛って……どこから指摘すれば良いものやら」


「ここより北の街へと行けば、より強い武器や有益な情報が手に入るであろう。では行け、勇者よ!」



王様の言葉でやや強引にイベントが終了した。

これよりユーザーはプレイ可能となる。

長回しなやり取りで待ちくたびれたのか、とても慣れた操作で城の外へと飛び出した。

そして一同は、真っ直ぐ北へ向かって邁進していくのである。


……とはならず。

彼らは城の外郭エリア、すなわち城下町にしばらく留まった。


街中にある階段を利用してミーナを高い位置に立たせ、勇者は低い方へと歩かされた。

カメラワークは下限限界から空を見上げるように。

それからは各々の立ち位置を微調整しつつ、時には膝を着いたりジャンプさせたりと忙しない。


一心不乱に動かされるリーディス。

一歩離れて眺めるマリウス。

一切拒むことなく受け入れるミーナ。

一連の奇行は、ゲームの電源が落とされるまで延々と続けられるのだった。


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