もう一つの戦い
「結局、彼部屋から出てこなかったね」
「もう少し待ってあげよ。きっと彼なりに色々考えているんだよ」
お昼を届けに行ってから、千咲さんややけに彼を庇うようになった。
「もうだいぶ遅いよね。そろそろ帰らないと・・・」
時間を確認すると、すでに6時を過ぎていた。
「あら、泊まっていけばいいじゃない」
「でもさすがに・・・」
「息子もあんな感じだし、娘もお泊まりしてるから寂しいの・・・チラッ」
「そこまでおっしゃるなら・・・凛ちゃんも、環ちゃんも大丈夫?」
「明日は特に予定入れてないですよ」
「私も一応お休みにさせてもらいました」
どうやら私と同じく、環ちゃんも泊まるつもりでいたらしい。
「部屋は2階の奥の部屋使っていいからね」
「せめてものお礼に夕ご飯は私たちが作りますよ」
「あらそう?まあまだシェフさん呼んでないからいいけど」
石油王の家かここは
そうして私たちは環ちゃんを中心に夕ご飯を作った(私と千咲さんだけは何故か皮むきしかさせてもらえなかった)
たくさんの人達と、楽しい話をすることができ、この時の私はとても幸せだった。
・・・この時までは
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ふわぁ・・・おはようございます」
朝ご飯でも手伝えればと、私は少し早い時間に起きた。
「もう支度はほぼ終わっています。こんな時間に起きて朝の手伝いをしようなんて魂胆が見え見えですね」
そこには長い髪を後ろで括り、腕を組んで少し苛立ったような表情を浮かべる女の子がいた。
「えっと・・・」
「人の名前を思い出す前に挨拶です。あなたは知った人にしか挨拶出来ないんですか?よくお兄様に求婚なんて出来ましたね」
お兄様・・・少し冷たい態度・・・誰かに似た綺麗な顔立ち・・・
「おはようございます・・・双葉ちゃんだったよね?」
「おはようございます、神木様。たま姉様か千咲様に聞いたのですね」
そして馴れ馴れしい呼び方をするなと言わんばかりのめで私を睨みつけてきた。
「おはよーって双葉ちゃん!帰ってたんだね!」
奥の部屋から起きてきた環ちゃんが、目を見開き飛びついていった。
「わっ!驚かせないでくださいよたま姉様。お久しぶりです」
「やっぱりその話し方変わらないんだね・・・ともかく久しぶり双葉ちゃん」
その仲睦まじい空気に耐えられなくなり、私はその場を後にしようとした。
「おっと・・・ここで逃げるのかい?」
何故かいいキャラ風を装ったお義母さんがそこには立っていた。
「あ、おはようございますお義母さん」
するとお義母さんは軽く鼻で笑った。
「今のあなたには私をお義母さんなんて呼ぶ資格はないわね」
「なっ、なんでですか!?」
「分からないの?もしあなたが結婚したら双葉とも上手くやっていかないとなのよ?それなのにあなたは今逃げましたね。これが答えよ」
それを言い残し、お義母さんは静かにその場を立ち去った。
たしかにお義母さ・・・雅さんの言う通りだ。
本気であの人と結婚したいと私が思うなら、彼以外の人とも上手くやっていかなければならない。
でも・・・・・・
私はキッチンへ行った。
「私も何か作らせてください!」
「え?まあもう1品くらいなら作ってもいいと思うけど・・・」
シェフさんの許可を取り、私は調理に取り掛かった。
その姿を双葉は静かに眺めていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
少し部屋の外の物音が気になり、この日は少し早く起きた。
「・・・双葉が帰っていたのか」
あの妹のことだ。凛辺りと揉めているのだろう。
そう思い、俺は着替えを済ませ朝の読書をすることにした。
・・・コン・・・コ・・・
やけに弱々しいノックが響いた。
「・・・千咲さんですか?」
凛や環と顔を合わせたくないのを察してるのか、千咲さんは部屋から出ろとは言わず、ご飯を持ってきてくれるようになった・・・引きこもりみたいでなんか嫌だな(実際引きこもり)
「・・・よく聞いて・・・よく分からないおかずがあるけど、それを食べる時には呼吸を整えてからよ・・・」
「千咲さん大丈夫ですか!?」
あまりにも弱々しい声に、俺は思わず扉を開いた。
「もう一つだけ聞いてくれるかしら・・・」
千咲さんは目を細めた。
「塾のパソコンにあるフォルダ7をけしといてくれるかしら・・・」
「そんな・・・フォルダ7にこっそり恋愛シュミレーション入れてるのは知ってます!だからそんな言葉で倒れないでください!」
その言葉を聞いたのか定かではないが、千咲さんの身体から力が抜けた。
「千咲さああああああん!!!」
※今読んでいる作品は「演者は今日もソナタを奏でる」で間違いありません・・・多分・・・恐らく・・・
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